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第4話 説得

..................。


母に勇者になりたいと告白してから、1時間が経過した。

何を言ってもずっと黙っているので、結構気まずい...


さてどうしたものか...

反対されることは分かっていたものの、それに対する返答に関しては全く考えていなかった。


本とかを読んで勇者にあこがれたからとかはどうだろうか?

いや...無理だな...そんな理由では認めてくれるわけがない。


悪魔族に苦しめられている人たちを守りたいとかはどうだろう?

いや...それをするのはアナタじゃなくていいって言われておしまいだろうな...


いっそのこと俺の前世について全部語ってみるか?

いや...一発で精神病棟送りにされるだろう...


う~~~ん...どうしたものか...

どう説明しても納得してもらえるような未来が見えない...


「なんで...勇者になりたいと思ったの?」


ずっと黙っていた母がいきなり話し始めた。


「ローズ叔母さんが元々魔法使いしてたって知ってた?」


ローズ叔母さんは母の妹のことだ。

俺が生まれたときからずっと俺のことをかわいがってくれている優しい人だ。

魔法使いだったときは、かなり名の通った人だったらしい



「うん...知ってる。」



「ローズ叔母さんがなんで魔法使いを辞めたのかも知ってる?」



当然知っているに決まってる。


一度だけローズ叔母さんに聞いたことがある。

なんで魔法使いとしてかなりの地位を誇っていたのに辞めたのか?なんで右足が義足なのか?


無邪気な子供のガワをしていることを利用させてもらって、聞きにくいことを聞かせてもらった。


ローズ叔母さんはヘールド教育大学の魔法使い学科を首席で卒業した後、当時最強と言われていたパーティーにスカウトされたらしい。


その後はノースエリアの集落や村に出現した悪魔族の討伐を行っていた。

最強と言われたパーティーだったため、飛ぶ鳥を落とす勢いで悪魔族の討伐クエストをこなしていった。


数年後...向かうところ敵なし状態だったパーティーにとあるクエストが届いた。

ユーベル山脈の麓にある村から救難魔法が届いたため、救助を行ってほしいとの依頼だった。


ローズ叔母さんは地獄のような光景だったと話していた。


村に到着すると辺り一面血の海だったらしい。

発見した村人の多くは亡くなっていたが、辛うじて息のある村人も数人いたため回復魔法をかけていた。

そのとき悪魔族の幹部の一人が出現し、戦闘状態になったとのことだった。


ローズ叔母さん以外のパーティーメンバーは全滅。

片足を失ったものの、まだ息のあった子供一人を抱え、なんとか命からがら逃げだすことに成功し、命だけは助かった。


当時最強だったパーティーメンバーが一瞬で殺され、まだ生きていた村人を見捨てる形になってしまった。


人間がどんなに努力しても、悪魔族にはかなわない。

直接言葉にはしていないが、叔母さんは恐らくそのように考えたのだろう。


ローズ叔母さんが魔法使いを辞めたのはこういう理由があったのだ。


「ママはスタークには幸せな人生を過ごしてほしい。平和で穏やかな日常を大切にしてほしいの」


「だから...お願い...勇者になりたいなんて言わないで...」


参ったな...こう言われてしまっては返す言葉が無くなってしまう。

母の気持ちも痛いほどよくわかる。自分の大切な人が自分よりも先に旅立ってしまうかもしれないなんて、想像しただけで胸が張り裂けそうになる。


だが俺がこの世界にやってきたのは、勇者になって悪魔族と戦うためだ。


そう簡単にあきらめるわけにもいかない。

俺をこの世界に送ってくれたアマテラス様、前世の両親、その人たちを裏切るわけにはいかない。


「ママ...それでも僕はヘールド教育大学に行って勇者になr」


「スターク。ヘールド教育大学はインゼルの中で最難関と言われる試験がある。分かってるな?」


びゃあああああああああああ!!!!!!!!!!


いつの間にか家に帰ってきていて、部屋の中にいた父に、勇者を目指すと宣言した人間とは思えないほど情けない悲鳴を上げてしまう。


「ちょっとアナタ!スタークを説得して!」


「イヴ...実は俺もお前と出会う前に勇者を目指していた時期があってな...スタークの気持ちもわかる」


「でもだからといって...ローズと同じ道を踏ませたくないの...私たちの大切な一人息子なのよ...」


「スターク。10年以上前だがパパもヘールド教育大学を受けたことがある。試験は筆記と剣術だ。」


「当然ちょっとやそっとの努力で入学できるような場所ではない。実際にパパも落ちたしな。入学して勇者になれたとしても、最悪命を落とすことだってある。それ相応の覚悟はあるんだろうな?」



当たり前だ。

なんのために天国に行けた選択を断ってまでこの世界に来たと思ってる?

血反吐をはこうと、泥水をすすろうと、何が何でも喰らいついて行ってやるさ!


なんて6歳の子供が言ったら今度こそ失神してしまうだろうから、うなずくだけに留めておく。


「よし!それでこそ俺の息子だ!」


「アダム!冗談はよして!」


「イヴ。子供の夢は大切にしてあげようとスタークが生まれる前に約束しただろ?」

「(この国の最難関試験だぞ?どうせ受からないさ)」


お~~~~い!聞こえてますよぉ~~~~

せっかく父のことを生まれて初めてかっこいいと思ったのに...

母に小声で話してること丸聞こえなんだよ。


まぁいいや...母の表情を見るに納得はしてないけど、勇者を目指す分には問題なさそうだ。

これで心置きなく両親の前で勉強とか剣の特訓ができる。




ーーーー




3か月が経った。

両親の前でも剣術の練習をすることができるようになったので、3か月間毎日一度も休むことなく剣をふるい続けた。

それなりに形にはなってきているようで、小さめの岩であれば切り刻めるようになってきた。


ただ正直、完全に独学で行っているのでこれが正しいのか分からない。

前世でも剣なんて握ったこともない俺が見よう見まねで練習しているだけだ。

自分の剣術がほかの人と比べて凄いのか正直疑問だ...


誰かに習ってみるか?剣術の家庭教師ならいくらでもいるだろう。

ただ母がそれを許してくれるのか?

誰からもアドバイスもらわないで独自の練習を続けるのも良くないよなぁ~

う~~~ん...どうしよう...


「よっ!スターク、ちょっと見ないうちに背伸びたねぇ~」


仰向けで寝転んでいた所を上から覗き込まれる。

綺麗な長い赤髪で母と瓜二つの顔の女性。


そうだ...いるじゃないか。実戦経験も豊富でヘールド教育大学を首席で卒業した人が。

魔法使いだったとは言え、剣術だって必修だったはずだ。


「ローズ叔母さん!久しぶり!」


「おばさんって呼ぶの止めてっていったよね?」


表情は優しい笑顔だが、声のトーンがマジで怖すぎて思わず背筋を伸ばしてしまう。

アラサーの女性におばさん呼びは異世界でも禁忌らしい。


「ご...ごめんなさい...ローズお姉さん...」


「うむ。よろしい。それよりも姉ちゃんから聞いたけど、勇者目指してるんだって?」


「う...うん...」


母に言った時と同じように大反対されるのではないかと少し身構えてしまう

自身の悲惨な境遇を教えた後に本人が冒険者を目指してるなんて失望されてもおかしくない。

アドバイスどころではなくなってしまうかもしれない。


「ふ~ん。そっかぁ...それで剣術の練習をねぇ...」


「ねぇスターク。いいコト教えてあげよっか?」

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