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第3話 インゼルへ

「......~~い、お~~い!」


なんだ?誰かが呼ぶ声が聞こえる。


「お~い!聞こえまちゅかぁ?パパでちゅよぉ~」


なんだこの男は?

なんて気持ち悪い声を出してやがる...


「あ、アナタ見て見て!アナタのほう見てるわよ!ママでちゅよぉ~」


なんだこの女は?

めちゃめちゃ美人じゃねぇか!


ってか今、パパとママって言ってた!?


この人たちがこの世界での俺の両親なのか?

美男美女を絵にかいたような両親だな...


無事に転生できたようで安心したと同時に、前世での嫌な記憶がよみがえる


普通のルックスの両親から俺のような化け物が生まれてきたんだ...

この美男美女の両親の遺伝子を受け継いでいても、化け物だったらどうしよう...


「あら?ハイハイしてる!かわいいでちゅね~♡」


小さな身体で一生懸命移動して、鏡の前に行く。


!!!!!!!

これが...俺?赤ちゃんとは思えないぐらい顔が整っている...

しっかり両親の遺伝子を受け継いでるようで安心した。


「どうしたんだぁ~?鏡の前で顔をペタペタ触っちゃってぇ♡」


「アナタほらほら見て見て!スタークの小っちゃいお手々...可愛いぃぃぃ!」


スターク?

なるほどそれがこの世界での俺の名前か...


良いじゃないか!スターク!なんて響きのいい名前なんだ!

新たな両親、新たな顔、新たな名前...

ここから始まる新しい人生に胸を弾ませる。




ーーー




俺がこの世界に生を受けてから、二年の月日が流れた。


一般的に赤ちゃんが話せるようになるには、1~2年ほどの時間がかかるらしい。


赤ちゃんがいつから話せるようになるのか知らなかった俺は間違えて生後3か月で両親の前で喋ってしまい、心臓が止まりかけるほど驚かせてしまったらしい。

すまんな、こちとら同級生が子育てに奮闘する中、一日中引きこもっていたものでな...


そこから二年は怪しまれないよう喋れないふりをするのが大変だった...


二年間こっちの世界に住んでみて色々と分かってきたことがある。

まずこのインゼルという国、巨大な島であるということだ。

この世界では巨大な海に様々な島が点在しており、インゼルはその中の一つの巨大な島であるということが分かった。


インゼルは大きく分けて5つのエリアに区分されている。

まず俺が住んでいるセントラルエリア。

国の中央政府がおかれ、重要機関やお偉いさんの家とかがある。前世でいう首都のような場所だ。

勇者や魔法使いなどを目指す人の教育機関や訓練所、ギルドなどがあるらしい。


次にウエストエリア。

工場が多く立ち並ぶ、工業を主幹産業にしている工業エリアだ。悪魔族と戦うための武器の多くはウエストエリアで作られているものらしい。


次にサウスエリア。

温暖な気候で豊富な作物を栽培している農業エリアだ。悪魔族の影響はほとんどなく、インゼルで一番平和なエリアらしい。


次にイーストエリア。

特に特徴のないエリアだ。悪魔族の影響がない時から治安の良いエリアではなかったらしいが、近年悪魔族の影響が強く出始めてからは、暴徒や略奪などの犯罪が多発する危険なエリアになったらしい。


そしてノースエリア。

年中雪が降っている寒冷地で、昔は多くの集落や村があった場所らしい。

しかし悪魔族によって、ほとんどの集落や村は壊滅させられ、一番面積の大きなエリアであるにもかかわらず、人口は5つのエリアの中で群を抜いて少ない。

悪魔族が出現するインゼルで最も危険エリアだ。


このエリアにそびえたつユーベル山脈が悪魔族の総本山らしい。

俺が倒すべき相手もそこにいるということだ。


と、まぁここまでが2年間で知ることのできたインゼルの情報だ。


ちなみに俺の本名はスターク・ヴィンセントである。

ウエストエリアで一番大きな工場を経営しているヴィンセント一家の息子として生まれてきた。

いわゆる大金持ちの家である。

それのおかげか衣食住には一切困ってはいない。ありがたいものだな。


父の名前はアダム・ヴィンセント。

ウエストエリアで絶大な権力を誇っている祖父から工場を受け継ぎ、現在は社長兼工場長という役回りらしく、非常に忙しくしている。

会えるのは1か月に2日ほどしかない。

ただその2日間は俺にベッタベタなので正直うっとおしい。

外見は2歳児なものの中身は三十路のオッサンである俺からしたら、いくらイケメンといえど、同年代の男に抱きつかれるのは遠慮したいものだ。


母の名前はイヴ・ヴィンセント。

ごく普通の一般家庭の生まれらしいが、セントラルエリアの飲食店で働いていたところ、父と出会って結婚したらしい。

俺の今の生活はすべてこの人に支えられている。うまい料理を作ってくれるし、うんこをまき散らしても「しょうがないわね~」の一言であっという間に後始末してくれる。

まるで前世での母のような人で、この人といるととても安心できる。



この世界で勇者になるにはまず12歳になった時に、セントラルエリアにある勇者や魔法使いなどの冒険者を育成するための施設、ヘールド教育大学に入る必要がある。

ヘールド教育大学は12歳以上であれば何歳からでも入ることができる。

そこで冒険者になるための知識、技術、経験全てを叩き込まれるらしい。

当然入学するための試験は非常に難関で、筆記試験と実技試験の二つの試験を突破したものだけが入学できる。


そんなわけで俺はいま、両親に隠れて入学試験のための筆記試験対策中だ。

2歳児が大学入学試験の勉強をしていたら、また両親の心臓を止めかねないので基本的に隠れてやっている。


実技試験は勇者志望の人は剣術で試験官と戦い、一発でも入れることができたら合格という単純なものだ。

まぁ…さすがに2歳児の体では剣術の対策はできないので、あと数年たってからだなぁ~




ーーーー



6歳の誕生日を迎えた。

ゲームもスマホもパソコンもないこの世界であれば、勉強に集中することができた。

そのおかげか分らないが、両親に隠れながらではあるものの入学試験の対策はかなり進んでいる。


そんなわけで俺のために開いてくれた誕生日パーティーの後に、いよいよ母親に告白することにした


「ママ!僕...ヘールド教育大学に行って勇者になりたい!」


「え?...スターク?...なにを...言ってるの?勇者になりたい?冗談...よね?」


ひどく狼狽したような様子で俺の両肩をつかむ母。泣きそうな表情をしている。


こういった反応をされるのは分かっていた。

悪魔族や勇者について色々調べていくうちに、この世界における悪魔族と戦う職業の立ち位置が非常に悪いものであるということに。


勇者や魔法使いなど悪魔族と戦う職業の殉職率は桁違いに高い。

母の妹は魔法使いで冒険者パーティーに所属していたようだが、悪魔族との戦闘中に片足を失っている。


自分の妹がそんな目に遭っているのだから、息子に同じような道を踏ませたくないというのは当たり前のことだ。



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