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嘘吐き娘。

作者: 並木沙知子

息が苦しい。


雨音が遠くに響いていた。


さぁさぁと。



その上、聞き慣れない電子音が響いて、それはとても耳障りだ。

そんなものをつけなくてももう自分は大丈夫な気がするのに。









遠い意識の中で私は聞いた。


「この子まで死ぬなんて、嫌よ…」


あぁ柿崎先生の声だ。



「何があったの?あの保健室で……」



由美子は死んだんだ。

そんなことは解ってる。

だって私が刺したもの。

由美子の身体が奥深くにまで刺さった異物の存在に悲鳴を上げたから。

音の無い悲鳴、それは刺した私しかわからないけれど。


私が殺した。

世界から追放した。

もう戻ってこない。

"私の親友"

それはもう遠い闇の中で。


これから先、お供え物だってしてあげる。

殺してしまったのは私なのだ。それが許してもらえることならね。

由美子の大好きな粒餡のおはぎ何個でも4つまでなら1ヶ月に一回くらいは供えてあげる。

でも、どうしてもできないことがあった。

たったひとつ。

そう、それはおはぎを買い続けるよりも簡単なこと。

…私の自首。


「私がやりました」


たった一言の言葉である程度の解放は得られるのに、どうしても言えなかった。

自首さえすれば定められた年数生きていられれば…"罪を償えば"また普通に生きていけるけれど。

人に訴えるくらいなら、初めから衝動に駆られなかった。

後から謝罪するのなら、私は殺さなかった。

私は永遠に嘘をつく。

昔から今まで、そしてこれからもずっと片時も休むことなく。

…私は、真実を失うのだ。


由美子を殺したその瞬間と、雨の景色がぐるぐると。

私の頭を浸食していく。

どうしてかはわからないけれど、それが悲しくて。

失えない罪の意識に歓喜した。



覚悟は決めた、もう戻らないし戻れない。

一瞬の安らぎすら疑わなければならない世界に私は踏み込むのだ。

滅多に人は入ることのない、昔の記憶の渦巻く世界。

そこに私はためらいながら入り、そしてまた逃げることすらもう叶わない世界。




「知らない男の人が入ってきたんです…」




私に似た、かすかに違う声が耳に響いて。

私は微かに戸惑いながら作り上げた嘘を答えていった。

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