表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
思い出の日記  作者: 福子
8/32

7月26日:決心


 いつもの窓に腰をかけ、いつもクロが座っている場所を見つめた。

 今日は、特別な話をするんだ。僕はそう決めていた。


 いつの間にか、クロと話す朝の時間が、僕の一番大切な時間となっていた。

 窓の前を横切るスズメたちなんて、もうどうでもよかった。スズメをながめるより、すぐにでもクロと話したい。この数日の間に、僕とクロは友だちになった。クロが僕を友と認めてくれた。もっとクロを知りたいし、もっと心も時間も分かち合いたい。


 だからこその決意なのに、傷つけてしまったらどうしよう、裏切ることになってしまったらどうしようと、ぐらぐらと揺れている。

 でも……、いや、でも……、と、自分と自分で答えの出ない問答を繰り返している。


 ガサガサと葉っぱのすり合う音がして、クロが茂みから顔を出した。


「クロ、……おはよう。」


「おっ。」


 クロは少し驚いたように短い返事をしただけだった。そして、茂みから顔だけ出した状態で立ち止まり、金色の瞳で僕をまっすぐ見つめた。

 無言でしばらくそうしたあと、いつも通り窓の下までやって来て腰をおろした。


「何か言いたいことでもあるのか。」


 思った通り、僕の心は見抜かれていた。


「うん、そうなんだけど……。」


「どうした。何かあったのか。」


 僕を心配するクロの声は、とても優しかった。


 ほんの三日前は、煮え切らないヤツって言われたのにな……。


 僕は、ふっと小さく笑って、ためらいを捨てた。


「あのね、クロ。」


 僕は、クロの目をじっと見て話し始めた。


「僕、やっぱり気になるし、諦められない。僕にとってクロはとても大切な存在だし、クロが傷ついているなら、なんとか癒したい、せめて分かち合いたいって思うんだ。だから、改めて君にたずねるよ。」


 クロの金色の目が、動揺の色を見せた。


「どうして、そんなに人間が憎いの? 僕はどうしても、その理由が知りたい。」


 僕はまっすぐな気持ちで、クロにはっきりと言った。

 クロの目は、動揺から悲しみへと変わった。


「……どうしても、知りたいのか?」


 僕は、クロの問いかけには答えず、ただクロをまっすぐに見つめていた。


「そうか、わかった。」


 短い返事のあと、クロはゆっくり立ち上がり、肩を落として帰って行った。



*⋆꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈໒꒱⋆*



「覚悟の上だった。」


 私は、あのときの気持ちを思い出し、二人に語った。


「クロの話を聞けば、おそらく私は、胸を痛めるだろう。クロの話を嘘だと疑いたくなるだろう。それでも、クロの話を聞きたかったんだ。理解し、分かち合いたかった。」


 ふたりは、私をじっと見つめていた。


「健太さんは、人間を信じ、愛しているんですね。」


「オレには分からん。人間はオレたち(カラス)のことを、『邪魔だ、気持ち悪い、縁起が悪い、汚らわしい』とか言って追い払う。オレたちだって必死で生きてるんだ。それなのに、畑を荒らすとか言って、オレたちに石を投げるヤツまでいる。オレたちが人間の世界を荒らしたんじゃない。人間が、オレたちの世界に勝手に入って荒らしているんじゃないか。」


 鴉が吐き捨てるように言った。

 鳶は、何も言わずに鴉をまっすぐ見ている。その表情からは、彼の思いをくみ取ることはできなかった。だが、鳶の鴉を見つめる瞳は揺れていた。


「まさに、」


 私は、うつむいて足元を見た。


「鴉くん。クロの心も、今の君のように傷ついていたんだよ。私は、それまでまったく知らなかった人間の世界を、たくさん知ることになったんだ。」


 私は、遠くに見える海を眺めながら、ふたりに続きを語った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ