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9.その日の食卓

 それはそうとして、本当の保護者である愛奈にも来てもらう必要はあった。なにしろ僕の戸籍上の名前は、双里ラフィオだからね。


 つむぎの両親に来てもらうわけにはいかない。世間はハンターの正体を知らないし、あの忙しすぎる夫婦も同様。

 いずれは明かさないといけないけど、今ではない。説明が難しいしね。


 というわけで、せっかくの週末なのに叩き起こされた愛奈が不満を漏らしながら来たというわけだ。


「ま、話はわかったわ。好きなようにやりなさい。大人たちに迷惑かけないこと。いいわね?」

「はい! わかりました!」


 ハンターがハキハキと返事をする。いや、僕に言ったことなんだけどね。


「契約関係については、澁谷に任せるわ」

「そうですね。そういうのはこちらの方が詳しいですし。確認はわたしたちでします。愛奈さんはそれにサインするだけ」

「最終的にはわたしも契約書は読むけどねー」


 その辺り、さすが社会人という感じがする。


 とにかくそういうわけで、僕たちは正式に映画撮影に同行することになってしまった。


 もちろんそれは、主演の正治にも伝えられた。彼はロケバスの最後部の座席に横にされていて。やがて自然に目を覚ましたようだ。そして事情を知ってうなだれた。

 気絶しなかっただけマシかもしれない。



 さて、撮影に同行すると言っても、四六時中一緒にいるわけではない。夜になったら僕たちは家に帰る。


 僕はみんなのご飯を作らないといけないしね。


「……ということがあったのさ」


 その日の夜、家族たちに経緯を説明した。急に連絡して、愛奈を起こすハメになった悠馬たちも事情をよく知らないからね。


「そうか。頑張れよ」

「まったく。急に変身したから驚いたんだからな、オレは。でも面白そうじゃねえか」


 悠馬とアユムはあっさり受け入れてくれた。


 うん、アユムには悪いことしたと思ってるよ。結局あれから、ひとりで別行動して帰ったらしいし。


 模布城の一角に展示してある、おもてなし武将隊の等身大パネルと並んで自撮りに興じていたとか、そんな楽しみ方をしてたらしい。だから寂しくはなかったはずだ。

 そして。


「うがー! 羨ましい! わたしもそれやりたい! 撮影行きたい!


 遥は騒がしかった。彼女は今日も受験勉強に追われていたのだろう。悠馬の監視付きでね。


「小学生はいいなー。受験の心配がなくて」

「僕だって家に帰ったら毎日勉強してるよ?」

「くあー!」


 遥が勝手にショックを受けてのけぞった。


 そんなの当然じゃないか。撮影は実のところ面白そうだけど、僕たち子供は本来は勉強が本分。ちゃんと両立させてこそ、意義のある春休みと言えるんだ。


「ああああ! 駄目だ! 子供たちが眩しすぎる! わたしには真似できない!」

「真似はしなくていいけど勉強はしろ。受験生なんだから」

「な、なんとか推薦で楽に入るから! だからいいんです! 面接でアピールする経験を作るのも大事! わたしにとっては遊ぶのが受験勉強なのです!」

「それで俺と同じ大学入っても、講義についていけなかったら留年するだけだぞ」

「それはいやー!」

「だから基礎学力は身に着けなきゃいけないんだ」

「それもいやー! 悠馬! おねがい! 明日は外に出たいです! 義足の訓練もしたいし!」

「……わかったよ」



 遥の必死のお願いを、悠馬は呆れながら受け入れた。

 こいつも甘いなあ。これまでは愛奈のわがままをなんだかんだで聞くという意味でそうだった。


 今は恋人にもそういう対応をする。悠馬にとっては遥が、愛奈と同等の大切な人になったということなんだろう。


 だから勉強はさせつつも、やりたいことはさせてやる。愛奈を朝起こすけれど、酒を飲むのは許すみたいに。


 遥にとっては義足を使いこなすことも、これからの人生には大切っていうのもあるかもしれないけどね。


「えへへー。映画の撮影楽しみだねー」


 つむぎが僕に寄り添いながら話しかけてきた。


「うん。そうだね」


 これは全部、つむぎがやりたいと言い出したことがきっかけで起こったこと。僕が映画にほんの少しながら出ることになったのも、つむぎのせい。

 そして僕はそれを受け入れている。


 ああ。傍から見れば僕だって、つむぎに甘いんだろうな。




 翌日。仕事の速い監督と映画制作会社によって、僕たちが撮影に同行することと、少しだけ映画に出ること。そしてハンターも映画のメイキング映像には映ることが契約書としてまとめられていた。

 澁谷も愛奈もそれを読んで問題ないと確認した上でサインする。これで契約完了。


「魔法少女シャイニーハンターです! よろしくお願いします!」


 撮影スタッフたちに頭を下げるハンター。

 彼女の正体は秘密だから、変身した状態で現場入りすることになる。フィアイーターも出てないのに毎日変身するっていうのも変な感覚だけど、ハンターにとっては問題ないらしい。


「魔法少女の妖精の、ラフィオだ。よろしく」


 僕も少年の姿で礼をした。そして獣の姿に変身する。スタッフたちが、おおっと声を上げた。


 撮影スタッフの方からも自己紹介を受ける。監督とかカメラマンとか。それからキャストの人たち。長坂正治は僕に怯えた表情を向けながらも、手伝ってくれることには感謝しているようだった。

 それから、撮影にはテレビもふもふのクルー、つまり澁谷たちも同行する。地元の大ニュースだもんな。そりゃ撮りたいよな。


 気心の知れた人が近くにいてくれるというのは、ありがたい。

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