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8.僕の映画出演

 彼らは模布市の外から来た人間だ。制作会社の本社がある東京か、メインの撮影スタジオがある京都の人間だな。当然、魔法少女や獣のラフィオを直接目にするのは初めて。かなり驚き、戸惑った顔を見せた。

 しかし、魔法少女が正義の味方であることは彼らも知っているはずだ。


「は、初めまして。長坂が気絶してた、というのは?」

「はい! 正治さん、モフモフが苦手らしくて! ラフィオを見た途端に気絶しました!」


 ハンターは満面の笑みで言い切る。


 長坂正治という俳優が抱えていて困っている秘密を解消するにはどうすればいいか。

 簡単だ。ゲロっちゃえばいい。


「も、モフモフが苦手?」

「はい! 苦手らしいです!」


 もふもふ侍の主演にあるまじき性質に、監督や他のスタッフたちは驚きの顔を見せた。本当に知らなかったんだな。


 とにかく気絶してる正治をなんとかしないと、という意識はあった。だから僕の後ろに周って彼の様子を確認して、呼びかけたり軽く頬を叩いて起こそうとしていた。

 なんとも雑な起こし方だけど、彼は目覚めた。そして、己が全身でモフモフを感じていることを知覚しただろう。


「おはようございます、正治さん。ラフィオの背中です」

「あ゛っ」


 現状を把握した途端、彼はまた気絶してしまった。そりゃそうだろうな。




「……ということでした」


 小さい妖精の姿になった僕は、ロケバス内でハンターの膝の上に乗って彼女の説明を聞いて、必要ならば補足説明をした。


 こいつの好きに話させると、すぐに脱線するからな。シャチホコのぬいぐるみのモフモフ具合についてとか。リメイク前のもふもふ侍がどれだけ名作なのかとか。


 とにかく、監督たちに僕らと正治の間にあったことを全部話した。彼が桜の木の陰に隠れていたことから、彼が小さい頃に野良犬に噛まれたことも。

 このままでは彼は撮影ができない。じゃあどうすればいいのかと言えば。


「正治さん、この後もしばらく模布市で撮影をするんですよね! その間にモフモフに慣れてもらいます!」


 そう、堂々と言い切った。


「つまり、どういうことでしょう」


 事態をまだ受け入れ切れていない監督が、ハンターに戸惑い気味に尋ねた。一方のハンターは相変わらずのテンションで。


「わたしたちも撮影に同行します! そしてラフィオが近くにいることで、正治さんもきっとモフモフが平気になっていくはずです!」


 つまりこいつは、こう言いたいんだ。撮影する様子を見たいと。製作中の映画がどんなものなのか、いち早く知りたいと。

 部外者なのに。


 つむぎはこの映画のファンだからな。時代劇というよりは、そこに出てくるモフモフ目当てなのだけど。


「無視してくれ。こいつの思いつきに付き合う必要はない。正治のモフモフへの苦手意識は解決すべき問題だけど、こいつに付き合わせる必要はない」

「いや! 素晴らしい! やってみよう!」

「えー……」


 やめさせようとした僕の言葉にかぶせるように、監督は力強く立ち上がりながら叫んだ。


「素晴らしい! 素晴らしいぞ! 魔法少女とのコラボだ! メイキング映像なんかも華やかになるぞ! それに君だ!」

「ぼ、僕かい!?」

「そう! 君だ!」


 監督が姿勢を低くして僕に目線を合わせながら話しかけた。


 小さくなってるから、座ってるハンターの足やスカートを真正面から覗くような形になって、とても危うい形だ。監督は初老の男で、傍から見ればすごく不健全な構図に見えることだろう。

 ハンターは気にしてないようだけど。僕は一歩後退してハンターのスカートを押さえて中が見えないようにした。


「ぼ、僕がどうかしたのかい?」

「君を映画にカメオ出演させたい! 南蛮から来た謎のモフモフが、不破狩ノ助を助ける! いいシーンが撮れそうだ!」

「えっと。つまり?」

「ラフィオがもふもふ侍の映画に出るってこと!? すごいすごい! やったあ!」

「ぐえっ」


 ハンターが僕を抱きしめた。苦しい。


「やめろ! 離せ!」

「ラフィオのモフモフが映画館で見られるだねー。すごいことだよ!」

「わかった! わかったから!」

「そうと決まれば早速手続きをしよう!」

「おい! 監督も勝手に話を進めるな! おいこら!」

「ラフィオくん。君の保護者とも話をしなきゃいけなくなるかな。映画出演の契約が絡むけれど、君は未成年だろう?」

「え。えっと……」


 急に現実的な話が持ち出されてきた。

 この監督、ノリはいいけど現実が見えている。優秀なんだろうな。


 ところで、僕の保護者となると……。



「なんでわたしが出てこないといけないのよー。休日なのに! 寝たいのに!」

「まあまあ。いいじゃないですか愛奈さん。子供たちのやりたいことを叶えてあげるのも、大人の仕事ですよ」

「澁谷は本当に真面目ねー」


 連絡を受けた愛奈と澁谷がやってくる。


 この映画制作会社の主要な株主に、澁谷のテレビ局のキー局がいる。仮面ヒーローシリーズやミラクルフォースなんかがこの局で放送されているのも、そういうことだ。その他、二人組の刑事が活躍するドラマなんかも放送されていて、関係は深い。


 だから地元のネット局であるテレビもふもふのアナウンサーが来ることは不自然ではない。魔法少女とも関係が深いし、なにより知り合いだ。

 とりあえずこの場で頼れる大人としては最適だ。

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