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7.かなり重症

「慣れるにはまず、絶対に噛まないモフモフに触れてみることだ。ぬいぐるみには触れるんだろう? だったら僕にも触れるはずだ。噛まないからね」


 そう言ってから、僕は妖精の姿になった。


「ひっ!?」


 途端に正治はのけぞる。そんなに怖いか。


 構わず、僕はベンチの上に跳び乗った。正治の隣だ。彼の膝に乗らないあたりは温情を感じてほしい。


「ほら。絶対に噛まないから。背中を撫でろ」

「わ、わかった……」


 彼は恐る恐る、指一本だけ立てて右手を僕の方に伸ばした。つむぎとアユムが固唾をのんで見守る中、彼の指先が僕の背中の毛並みに触れようとして。


「やっぱり無理だー!」


 手を離して勢いよく立ち上がり逃げ出そうとして、足がもつれて転んでしまった。顔を覗きこめば、また気絶していた。

 これは重症だな。


「なあ。ネットで話題になってるぜ。この役者がトークショーを放り出して消えたって」

「そうか」


 アユムがネットニュースの画面を見せてくれた。直前まで公開撮影で元気な姿を見せていた正治が、トークショーでは急にいなくなった。人気俳優なだけあって、この程度の出来事でもニュースになるらしい。


 そこから先、実は彼がモフモフ恐怖症で逃げ出したってことまでは当然書かれてない。この手のメディアの勝手な憶測として、急な体調不良とかスタッフとのトラブルかもしれないとか、そんなことが書かれてるだけ。

 想像力に乏しい理由付けだ。事実はもう少し変なんだけどね。


「なあ。この人、撮影スタッフとかに言った上でここにいるのか?」


 アユムが、倒れてる正治を見下ろしながら呟いた。


「そうとは思えないね。トークショーを放り出して、誰にも告げないまま逃げたようにしか見えない」


 モフモフが苦手なことを誰にも言えなかったように。だから桜の木の陰でひとりで落ち込んでたんだ。


「だよなー。つまり世間的には今、こいつは行方不明なわけだ」

「そうなるね」


 それがすぐにニュースになるわけではない。けど、撮影スタッフやマネージャーと連絡が取れない状態が続くのはまずい。そのうち世間にもそれが広まってしまう。

 人気俳優、模布市で行方不明。そんなニュースがネットを騒がせることになるだろう。


「この街、そんな形でニュースになってほしくないな」

「そうだね。というか、この人を行方不明のままにしておくのも悪い」

「スタッフたちの所に戻さないとな」

「そうだね! よしラフィオ! 大きくなって! 運ぶから!」


 僕たちの会話を聞いていたつむぎが、いいことを思いついたといった様子で声をあげた。

 そしてそのまま、髪につけている宝石に触れる。


「デストロイ! シャイニーハンター!」


 いや、なんでここで変身する? 春休みシーズンの公園だぞ? 周りには人が大勢いるんだぞ。


 アユムもつむぎの意図はわからず、巻き込まれないように素早く離れていった。


 うん、いい判断だな。自分も変身してハンターの思いつきに付き合うのが、良い結果をもたらすとは限らない。魔法少女の近くにいて、こいつも魔法少女だと思われないうちに逃げた方がいい。

 ハンターもわかっているのか、そんなアユムにシャチホコのぬいぐるみを投げて渡した。


 でも、僕はハンターを放っておけなかった。


「ラフィオも大きくなって! 正治さんをこのままにはできないから!」

「それはそうだけど。病院にでも運ぶのかい?」

「ううん。映画作ってる人たちのところ!」


 最初からそうするべきだった。


 この人がいなくなったことに、制作会社も彼のマネージャーと一緒に心配してるはずだから。とりあえず返してあげないと。


 怪物も出てないのに急に魔法少女が現れて騒然とする周囲は全く意に介さずに、大きくなった僕に乗り込んで正治の体も自分の後ろに乗せる。

 僕のの背中にタオルをかけるみたいに、横向きにうつ伏せで乗せる形だ。そして背中を押さえて落ちないようにする。


 モフモフに押し付けられて運ばれてると知ったら、この人また気絶しそうだなあ。


 とにかく飛び上がって、とりあえずさっき公開撮影をしていた所に戻る。撮影スタッフもロケバスも撤収していた。


「んー、どうしよう。どこ行ったのかな」

「駐車場に行ってみよう」

「だねー」


 探すにしても手がかりがないし、こちらは撮影スタッフの顔なんてよく覚えていない。


 見つけるにしても、さっきのロケバスくらいしか目印はない。行方不明になった正治をさっさと見限って撤収してたら、もはや探しようはないな。見限ることがあるとは思えないけど。

 もしそうなら、お城の運営スタッフに声をかけて連絡してもらうとかしないと。


 幸いにして、そこまでする必要はなかった。


「あった! あそこ!」

「うん」


 見覚えのあるロケバスが視界にはいる。周囲に人はいないけど、中も無人というわけではなくて。


「こんにちはー! 魔法少女シャイニーハンターです! 長坂正治さんが気絶してたので届けに来ました!」


 暇そうにしていたバスの運転手に声をかけた。彼は慌てて後ろを振り返って車内の誰かに声をかけ、そして何人かが外に出てきた。


 あ、見覚えのある顔もあるぞ。監督だ。

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