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4.消えた主演俳優

「この人気、もふもふ侍のおかげか? おもてなし武将隊目当てか?」

「どっちもだと思うよ。おもてなし武将隊がいなかったら、ここまで人は集まってなかったかも」


 もふもふ侍は昔のコンテンツだ。前の主演俳優が亡くなってからは、長らく新作が作られていない。元は人気のあるコンテンツだったから根強いファンもいるだろうけれど、新規ファンの獲得は難しかったのだろう。

 それが、ローカルアイドルとはいえ活動を継続して常に新規のファンを作ってきたおもてなし武将隊とコラボすれば、世間の注目も集まるというものだ。プロモーションとして正しいのだろうな。


 ところが、トークショーの始まるはずの時間になっても、もふもふ侍は姿を表さなかった。


 周囲がざわつき始めた。


「どうしたのかな? なにかトラブル?」

「さあ。わからない」


 ややあって、おもてなし武将隊の織田信長と、豊臣秀吉を名乗る武将がステージに出てきた。いつもの勇ましい口調で、もふもふ侍殿は所用で出られなくなったから、代わりに秀吉が登場したと説明した。

 所用ってなんだろう。


「体調不良とかかな?」

「さっきは普通に撮影されてただろ」

「急にお腹痛くなったとか」

「どうかなー。アユムはどう思う……いや、いい」


 ステージに熱い視線を向けるアユムを邪魔しちゃ悪いな。


「ラフィオ、行こ」

「うん」


 もふもふ侍が出ないなら興味がないといった様子のつむぎに手を引かれて、ステージから離れる。アユムには後で連絡して合流しよう。


 と言っても、他にやることがあるわけではない。なんとなく天守閣の方に向かっていた。

 入り口近くに壊れた金鯱が飾られている。先日フィアイーターにされて、僕たちが倒したものだ。


 それなりに人の視線を集めていて、展示物としての役目は果たしているらしい。なにしろ少し前まで天守に飾られていた本物の金鯱なんだ。さらに金箔の下がどうなってるかなんかも、結果的にわかるようになっている。

 興味を持った人にはたまらない展示なんだと思う。


 天守閣のてっぺんには、今は片方しか金鯱がいない。今頃職人たちが急ピッチで作ってるんだろうな。


「さっき撮影でさ、お城が映る場面撮ってたよね」

「そうだな」

「シャチホコ片方ないけど、どうするんだろ」

「CGで足すとかするんじゃないかい?」

「そっかー」


 自分で聞いていて、あまり興味は無さそうだった。


 天守閣にも登れるらしいけど、つむぎの足はそっちには向いていない。モフモフの気配を感じなかったから。

 代わりにお土産もの売り場に向かっていった。そっちにはモフモフあるのか。あるのかもな。


「わーい! シャチホコさんモフモフー!」

「こら。騒ぐな。周りに迷惑だから」


 金鯱のぬいぐるみを見て、今日一番のテンションになるつむぎ。一番大きなぬいぐるみを抱きしめてレジに向かっていく。

 また家にぬいぐるみが増えるな。いいんだけど。


 まだ昼前だけど、家に帰るまでぬいぐるみ抱きしめ続けるのか。いや、いいんだけどね。つむぎにとっては全く苦では無さそうだから。


「ラフィオ、お腹すいたねー。お昼どうしよっか」

「アユムと相談してから決めないとな。お店はこのあたりにたくさんあるけど」


 模布市のシンボルだから、県外の観光客向けの店も多い。いわゆる模布めしの店がメインだ。きしめんとか味噌煮込みうどんとか味噌カツとか。そういうの。


「トークショーまだ終わらないみたいだね。桜見ていこ」

「そうだね」


 興味のある物へ次々に向かっていくつむぎに、はぐれないようについていく。


「桜きれいだねー。でも、ラフィオの方がもっと綺麗だよ?」

「それ、男が女に言うことじゃないかい?」

「どっちが言ってもいいんだよー」

「それはそうだけど」

「ねえラフィオ」

「うん?」


 つむぎがまた面白そうな物を見つけてそちらに突撃するのかと身構えた。けど違った。彼女の口調はどこか深刻で、片腕でぬいぐるみを抱きしめながら片腕である方向を指差した。

 男がひとり、一本の桜の木の下で体育座りしている。顔を膝に埋めているから、どんな表情をしているかわからない。けど、どう見ても落ち込んでる時のポーズだ。


「モフモフの残滓を感じる……」

「なんだよモフモフの残滓って」

「モフモフの気配の……なんだろ。残り香みたいな?」


 わからないなあ。そんなもの、こいつには見えるのか? 見えてもおかしくないけど。


 見た感じ、その男は確かにモフモフを持っている様子はない。じゃあ、残滓がなんなのかというと。


「さっき着てたファーだね」

「ファー?」

「あの人、もふもふ侍の役者さんだよ。こんにちはー」

「あ、おい!」


 つむぎはまた、遠慮なく話しかけに行った。


 わかるものなのかな。顔は見えないし、服装だって現代の洋服を着ている。侍の格好だったさっきの撮影の衣装とは異なる。あと、さっきは髷を結っていたな。あれはカツラだったのか、今の彼は普通の髪型だ。

 いやよく見たら、セットが崩れたみたいな髪型をしている。まるでカツラを乱暴に脱ぎ捨てて、その後髪を整えなかったみたいだ。


 つむぎが構おうとする気持ちはわかる。


 確かに気がかりだよな。さっきトークショーに出られず行方がわからなかった人だものな。体調不良かなって推測はしたし、それで体育座りになってるのかもしれない。

 周りに人がいない外で安静にしてるという様子ではないし、変だとは思うけど。


「長坂正治さんですよね? どうしましたか?」

「……放っておいてくれ」


 もふもふ侍、不破狩ノ助を演じる俳優の名前を呼んで気遣うつむぎだけど、正治と呼ばれた男は顔を上げることなく返事をした。

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