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もふもふ侍vsキングカピバラ~姉魔法少女スピンオフ~  作者: そら・そらら


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23.もふもふ侍vsキングカピバラ

 果たしてケージは、カピバラの前にあった。


 カピバラはといえば、目の前の男女には警戒心をさほど持ってないらしい。こっちに怯えているわけだからな。

 故に、そちらなら危険がないと判断して、のっそりと歩き出した。そしてカピバラの進路方向にはハムスターもいる。


「ラフィオ! ハムスターさんを助けないと!」

「駄目だ間に合わない!」


 僕だって全力で駆けているけれど、ハムスターがケージごと巨大カピバラに踏み潰される前に助け出すには距離がある。ハンターは弓を構えているけれど、位置関係の問題でカピバラの進路を妨害するようには放てない。


 陽向が絶望したように、その場にへなへなと座り込んでしまう。このままだとハムスターどころじゃない。陽向まで踏み潰されてしまうぞ。


 まずいまずい。なんとかしないと。一番いい方法は、ハンターの手でカピバラの首を射抜いて殺すことだけど、それは無理だ。ハンターの気持ちの問題だけではない。カピバラの首がどこなのかわかりにくいのもある。


「ああ……くそ……」


 この状況で、カピバラの前にいる長沼正治という男は、ガタガタ震えながらも逃げなかった。


「俺は。俺はもふもふ侍だ。モフモフを愛して守る、正義の侍だ」


 その視線はカピバラではなくハムスターに向いている。


「モフモフを……守る!」


 足が震えている。声もだ。逃げたくて仕方がないらしい。

 それでも彼は、間違いなくもふもふ侍だった。


「な、南蛮の獣よ! 暴れるのはやめろ! どうしてもこの小さき命を消すと言うなら! このもふもふ侍が相手になろう!」


 そして、腰に差している剣を抜く。


 殺傷能力なんかない模造刀だ。自分の身長の倍近くある巨大なカピバラに、そんなもので立ち向かっても勝てるはずがない。

 が、勝てなくても戦おうとする意思は無駄にはならなかった。


 模造刀の刃に日の光が当たり、それが反射してカピバラの目に入った。


「ヴァッ!?」


 突如として眩しさを感じたカピバラの歩みが、悲鳴と共に止まる。


「い、今だ!」


 と、正治はカピバラへ、何よりも怖いモフモフの方へと自ら駆け出した。そしてハムスターの入ったケージを掴むと引き返そうとして。


「ヴァァァァァァ!」


 復活したカピバラが怒り狂った声を上げて正治たちの方へ向かっていく。正治も刀を放り出してケージを両腕で抱えて必死に走っているが、恐怖はまだ拭えていないらしい。ちゃんと走れていない。

 カピバラの巨体が迫り、踏み潰されかけて。


「ワンッ!」

「あ! さっきの犬さん!」


 トラウマ克服用に用意された、雑種の犬が正治に横からぶつかる。ひとりと一匹とケージの中の一匹が同時に地面に倒れて、カピバラの足を回避することに成功。


「た、助けてくれたのか? 俺は君を、あんなに怖がってたのに……」


 犬は答えず、正治に体をこすりつけた。


 人間に飼い慣らされた犬だから。人間のピンチに思わず手を貸したとかだろう。本来のトレーナーの手も振り切って駆けつけてくれた。

 ようやく僕も追いついて、カピバラの前に立ちはだかる。


「モフモフー!」

「ヴァッ!?」


 再び前に現れたモフり魔に、カピバラは大きくのけぞった。また跳躍しようとしたけれど、今度は真正面から頭上へ向けて鼻先をかすめる矢が飛ぶ。やむなくカピバラは方向転換をする。


「正治! 無事か!?」

「あ、ああ!」


 彼は犬の体に片手を回して抱えるようにしながら答えた。触れても平気なのか。


「ロケバスを運転できるか!?」

「できる! この業界で生きるにはなんでも必要だと思って免許は取ってるから!」


 真面目だなあ。モフモフが苦手だったこと以外は完璧な俳優じゃないか。


「このカピバラはクラクションの音を嫌がるはずだ! うまく山の方まで誘導してくれ!」

「わかった! 君たちも来い!」


 君たちとは、陽向と彼女が抱えているハムスターと、それから犬だろうか。それも勘定に入れつつ、それぞれロケバスの中に乗り込ませて発進。指示した通りにクラクションを鳴らした。


 この音、聞いた人間が不快になるような音として設定されているらしい。だったらカピバラにも効くはずだ。

 案の定、カピバラは苦しげに頭を振って逃げようとする。ちょうど山の方だ。


「いいぞ! そのまま車で追いかけてくれ! ハンター僕たちは細かな軌道修正だ!」

「うん! モフモフ待てー!」

「そうじゃなくて! いやそれでいいのか」


 恐怖のモフリストの追走によって、カピバラはさらに恐怖して山の方へと逃げていく。というか、自分の足で積極的に向かっていった。いいぞ。この調子だ。


 魔力が流れているかどうかの境界線も、僕には見えている。きっちり別れているわけではなく、だんだん薄くなるっていう感じだ。


 カピバラがその境界線を越えた。フィアイーターが倒れた時と少し似ているかもしれない。カピバラが巨大化した時には光に包まれていたけど、その光が逆に周囲に発散していって、消えていく。あれが魔力なんだ。つむぎたちを魔法少女にするのと同じような、光の魔力。


 それに伴ってカピバラがだんだん小さくなっていく。そうなればこっちのものだ。


 魔力がある方に戻らないように、さらに追い立てる。元々俊敏な動物ではないから、あまり心配はしていなかった。小さくなれば歩幅も縮むし、体重も落ちる。僕に追いつかれて、そして押されて完全に境界の外に出た。

 カピバラは、無事に元のサイズに戻った。


「わーい! カピバラさん! うわっ!」


 普通サイズのカピバラをモフモフしようとしたハンターが僕の上から降りようとして、バランスを崩して転んでしまった。


「えっ!? なんで!? 力が入らない!?」

「境界から出たからね。魔法少女の変身が解けかけているんだ」


 魔法少女の場合は、宝石に魔力が溜められているからすぐには変身が解けることはない。けど、だんだん無力化していくのだろうな。

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