2.もふもふ侍
自分のスマホを手に取り調べてみる。そう、自分のスマホだ。
僕は市民であり双里家の一員となったから、こうやって堂々とスマホも契約できたんだ。もう誰かのを借りることはない。調べ物も連絡も自分でできるんだぞ。ふふふ。
とか考えている間に、検索結果が出た。
ミラクルフォースを作っているアニメ会社の親会社である、映画やドラマ制作会社の作品だ。荒波が三つの岩にぶつかるオープニングが定番の会社と言えばわかりやすい。
トンファー仮面みたいな特撮番組も作っている会社だけど、元はこういう時代劇や、任侠物作品がメインコンテンツだった。その一環として作られた、異色の時代劇。
江戸時代、仕官先を探して日本のあちこちを流浪する侍、不破狩ノ助が各地で騒動に巻き込まれるという話。
昭和後期から平成にかけて、コンスタントに作品を出し続けていたらしい。
「もふもふ侍」
「続・もふもふ侍」
「もふもふ侍 三毛猫藩お家騒動」
「もふもふ侍 網走羆大惨劇」
「もふもふ侍 秘剣・天橋立モフモフ崩し」
「もふもふ侍 見切ったり! 三保松原モフモフ落とし」
「もふもふ侍 九十九里浜モフモフ返し」
「もふもふ侍 受けてみよ! 安芸宮島モフモフ回し」
「もふもふ侍対からくりもふもふ侍」
「もふもふ侍 海を渡る」
「もふもふ侍 南蛮テディベア大騒動」
「もふもふ侍 激闘! シーサー団!」
といったシリーズが制作されたが、狩ノ助役の俳優が惜しくも逝去。以来制作はされていない。
「タイトルから内容が想像できない……」
なんかモフモフをメインテーマに扱っているのはわかるんだけど。
というか途中から、なんで日本の景勝地を回ってるんだ。各地でモフモフ系の剣技と遭遇するのか? なんだよ天橋立モフモフ崩しって。あと、からくりもふもふ侍って何者だよ。
「楽しみだね、リメイク」
つむぎはファンらしい。サブスクのおかげで、子供たちも昔の映画に触れられるようになった良い時代。けど時代劇をモフモフ視点で好きになる子供というのも珍しいよな。
ニュースでは、そんなリメイク版もふもふ侍について紹介していた。
制作会社の京都撮影所で、メインの撮影は行われるらしい。普段は時代劇風テーマパークとしても使われている映画村も、オープンセットとして活用される。
しかし、一部は模布市でロケも行われるらしい。週末、公開ロケを行うというお知らせも伝えられた。
「え、もふもふ侍がこの街に来るの!? しかも公開ロケ!? ラフィオ! 行こ!」
「わかった。行こう」
こうなると、つむぎに行かないという選択肢はない。ひとりでも行くだろう。
だったら僕もついて行ってあげるべきだ。小学生の女の子だけでお出かけはよくない。
「でも、なんで模布市に来るんだろう。撮影場所は京都のはずなのに」
「日本全国を旅して、そこの美しい風景をカメラに収めてきたシリーズでもあるんだよー」
「ふうん」
天橋立とか三保の松原みたいな有名な景勝地は、模布市にはないけれど。
「シャチホコがあるじゃん」
「あるけど。あれモフモフなのか?」
「お城は模布市の有名な風景。そこでロケするんじゃないかな」
テレビでは公開ロケがあるという情報しかなかったけれど、ネットを見れば詳細が乗っていたそうだ。
今週末行われるらしい。急だなあ。そしてロケ地はやはり模布城だった。
どうやら、先日の怪物騒ぎへの復興支援の面もあるらしい。
フィアイーターになってしまった金鯱は、新しいのが作り直されるとのこと。壊れたあれは地上で展示されて、魔法少女が街を守ったシンボルとして新しい客寄せの材料になっている。
砲撃によって壊されたオランダ水車も、作り直しが検討されていると聞いた。
怪物が出なくなった模布市だが、受けた被害は消して少なくはない。そして全国から、災害支援の善意が寄せられている。主に、模布市にお出かけに行こうとかそんな形で。
こういう形での支援は素晴らしいな。支援する側も楽しんで貰えるし、模布市の経済も潤う。
観光地がない街だとよく言われる模布市だけど、世間がその魅力に気づき始めている。この国民性は立派だと、僕は思う。
そうやって世間の注目が集まっていく過程で、ロケ地として選択するという動きが映像業界の中にも出てきたんだろうなあ。
「楽しみだねー」
「ああ。そうだな」
「ふたりきりでデートだね」
「いや、誰か付き添いは連れて行くからな」
「えー!?」
僕らはまだ小学生だ。小学生だけで遠くまでお出かけは良くない。近所の川に石拾いに行くのとは訳が違うのだから。
年上の誰かに引率してもらわないと。
そして数日後。待ちに待った土曜日が来た。
「まったく。なんでオレが付き添いなんだよ」
「アユムさんが適任だったので」
愛奈は休日に起きようとしないだろうし、遥は全く勉強が進んでいないことがバレて悠馬に怒られている。今頃監視されて机に向かっていることだろう。
アユムしかいない。
「まあいいけどさ。模布城、一度ちゃんと見ておきたいし」
「アユムさん、本当にこの街が好きですよね」
「おう」
ちょっと誇らしげなアユムと一緒に電車に乗り、城へと向かう。