13.占い師
「うがー。わからないー。あの子はなんで、正しい魔法陣を描けたんだ? 何を参考にした?」
妖精姿で机に突っ伏した。
もしかして、僕の考えすぎなのか? あの子は単なる静岡から来た旅行者で、ちょっとオカルト趣味があったから魔法少女のいる土地でそれっぽい魔法陣を描いてみて、それが偶然に使えそうな物に似てしまったとか。
そう考えた方が妥当な気がしてきた。
「随分と悩んでるみたいねー。どうしたの? なにかわからないことがあるの? 金属加工についてなら教えられるわよー」
晩酌中の愛奈が気楽そうに尋ねてきた。そんな悩みではない。
けど、訊くなら愛奈が適任なのも事実だ。この街にずっと住んでいた大人だからね。
「愛奈、教えてくれ。ここ二十年の間で、模布市でオカルト的な事件なんかは起きなかったかい? 魔法が使われたような、奇妙な事件だ」
「魔法? 事件? んー、わからないわねー」
ビールで酔った頭で考えても、あまり成果は出ないよな。うん、そういうものだ。
けれど愛奈は何かを思い出したようで。
「魔法かはわからないし事件ではないけど、よく当たる占い師がこの街にいたのよ。Mr.フワリーっていう」
「フワリー?」
「そう。地元では結構有名だった。この件ローカルのタレントってことね。占いなんだけど、その人の運命を当てるの。近々良いことがあるよとか。悪いことがあるとか」
「そんな漠然とした予言、適当に言ってても当たった気になるものだろう?」
人間生きてれば、良いことも悪いこともある。ちょっとした事含めれば、無数にある。それを、あの占いが当たったんだなって思い込ませるのなんて誰にだってできる。
「まあね。それについては、当時の大人たちも同じこと思ってたらしいわ。テレビでもっともらしく占いが当たったと言われると、あの時のわたしは目を輝かせて奇跡を信じてたけど」
「君にそんな時期があったのかい?」
「小学生だったしね、当時は。他の女の子と一緒で、占いとかおまじないとか、好きだったのよ」
「へえー」
そんなに前のことか。
となると悠馬たちは、まだ物心つく前の年齢。この占い師については覚えていないだろうし、情報源は愛奈だけが頼りだな。それかネットを使ってもいいけれど。
「それでもフワリーは人気だった。いいこと悪いことが起こるっていう、先のことを当てるからじゃないのよ。初対面の相手の職業なんかを、彼はぴたりと当てられた。あなたは教師ですね。あなたはドライバー。あなたは製造業の会社で働いている、みたいにね」
「……そんなことできるのかい?」
「できたのよ、フワリーには。あとは、結婚してるかどうかとか。子供がいればおおよその年齢なんかも当てられた。その上で、あなたには近いうちに幸運が舞い降りるとか言われたら、信じようって気にならない?」
「なるね」
その気持はよくわかる。
眼の前の相手の背景を言い当てるというのは、推理小説に出てくる探偵みたいだな。実際、かの有名なシャーロック・ホームズは初対面だったワトソンの背景を言い当てたという。推理力によってだ。
そのフワリーなる人物は実は、ものすごい推理力を持つ人物だったのではないだろうか。それを駆使して占いをやって成功した。
「んー。そうも思えないのよね。成功って言っても、ローカルタレントで終わったわけだし」
「そこまで人気なら、全国区に出るものじゃないのかい?」
「出たわ。そして失敗した」
「……失敗?」
「東京のスタジオで収録した番組では、まるで当たらなかったのよ。こっちでの活躍が嘘みたいにね」
「……」
「結局、地元では何かインチキをしていたのじゃないかって世の中がそう思うようになって、フワリーは失意のうちに帰ってきた。世間はその人のことを忘れて、次に思い出されたのは今から五年前」
「なにかあったのかい?」
「亡くなったの」
「そうか……」
手元のスマホで調べてみる。webの百科事典に、愛奈が語った通りの経歴が書かれていた。
対面した人の背景を当てる占いで県内では人気を博したが、東京進出に失敗。インチキの烙印を押されて、地元に戻ってからは失意のうちに暮らしていた。
世間から隠れるようにひっそりと。元々家族もおらず、人気だった頃に得た蓄えを切り崩しながらの生活。晩年は困窮して、年齢もあって徐々に体が弱っていった。
誰にも看取られることのない孤独死で、発見された際には死後二週間が経っていた。周辺の住民から異臭がするという通報があっての遺体発見。つまり、普段から連絡を取る相手がいなかったし、交友関係も希薄だったことがうかがえる。
困窮しながらひとりきりで死を待つ気持ちはどんなものだったのか、僕にはよくわからない。知りたいとも思わなかった。
知るべきことは別にあったし。
「興味深いね。つまりこの占い師は、模布市だけで占いができていた」
相手の素性をぴたりと当てることを占いと呼ぶかは別として、突き詰める価値はあるはずだ。
「この占い師、もしかしたら魔法を使っていたのかもしれないね」
「使えるの? この人、普通の人間だけど」
「偶然使えるようになったのかもしれないよ」
占い師の生年月日もネットには載っていた。二十年前の聖装戦姫の件よりもずっと前だ。だからこの人自体は普通の人間。
しかし占い師として研究を続けている間に、何か方法を見つけてしまったのかもしれない。魔法は確かにそこにあるのだから。偶然でも活用することは可能なはずだ。昼間の少女みたいに。
「おもしろい……」
静かにつぶやいた僕の言葉に、愛奈はコップを傾けながらニコニコと笑みを向けた。
僕がこの世界の何かに興味を抱いて調べてみらいって思ったことが、愛奈にはとても愛おしいらしかった。どういう気持ちなんだろうね。




