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1.春休み

 真っ暗な部屋の中でロウソクの炎だけが揺らめいて、インクで文字や紋様が記されている羊皮紙を照らしていた。

 そこに書かれているのは、常人には理解できない内容の数々。世界には無いと思われていた力を用いて奇跡を起こす、荒唐無稽な妄想たち。


 しかし、それは存在してしまった。


 ついに理論は完成した。

 あとは、これを実現する力がある場所に行って、実践するだけ。


 行こう。模布市に。


 魔法がある場所に。



――――



 フィアイーターとの戦いが終わり、世間も落ち着きを取り戻し始めていた、三月の終わり頃。

 学生たちは春休みの時期に入り、年度が変われば受験生になる悠馬たちは勉強のために部屋にこもることが多くなっていた。

 まあ、適度に遊ぶし息抜きもしてるから、そんなにつまらない一年で終わるわけではないだろう。


 そして僕、ラフィオも勉強の真っ最中だった。リビングのテーブルでつむぎと向かい合って、問題集を解いている。


 僕も春から小学生。つむぎと一緒に学校へ通う。そこで授業についていけないとか、恥ずかしいことにはなりたくない。

 だから小学生のこれまでの単元をしっかり学ばなきゃいけない。


 そう心配することはないだろう。僕だって既に、この世界に一年近く過ごしてきた。つむぎに学校に連れて行かれて、授業を聞くことだってあった。

 つむぎのお古の教科書を開いてしっかり読んで、ドリルやら問題集やらを解く。不安なら書店に行って参考書とか別の問題集を買ってきて重点的に学ぶ。

 わからない箇所はつむぎに訊いてもいい。


 うん、六年生の授業にもついていける気がするぞ。


「むあー! ラフィオまで真面目に勉強しちゃったら! この家のわたしの立場が無くなるじゃん!」


 あ。遥が絡んできた。


 勉強ができないとかで部屋を飛び出して、僕とつむぎがいるリビングまで来たんだな。逃避のための何かを探して。で、真面目に勉強してる僕たちを見つけた。

 会社に行ってる愛奈以外で、この時間家にいる僕らの中で、遥だけが勉強に身が入っていない。


「勉強のできるできないで無くなる立場はないよ」

「でも! 悠馬もアユムちゃんも真面目に勉強してるし! わたしだけやってないの! なんか仲間外れじゃん! そこにラフィオまでやり始めたら、もう駄目だよ!」

「じゃあ勉強すればいい」

「やだー!」

「もー! 遥さんラフィオの邪魔しないでください! ほら! 部屋に帰って!」

「ひゃんっ!?」


 せっかくふたりきりで勉強してたのに邪魔されて、つむぎは怒っているらしい。遥のお尻をバシバシ叩いて部屋へと追いやる。


「待って! わたし義足! 危ないから! まだ慣れてないから!」

「そんなこと言って! 階段とか普通に歩けるようになったじゃないですか!」

「叩かれながら歩くのは慣れてないから! 転んじゃうから!」

「じゃあ早く部屋に戻ってくださーい!」

「うわー!」


 遥が部屋に戻されるまで、つむぎの手はお尻を叩き続けていた。

 戻ってきたつむぎは、勉強中の僕の顔をじっと見つめて。


「……なんだい?」

「わたしの彼氏って、勉強する時の真剣な顔も格好いいなーって」

「そ、そうか。変なことは言わないでくれ」

「えへへっ」


 いきなりそんなことを言われても、どう返事すればいいかなんてわからない。

 でもまあ、嬉しくはあった。


「どう、ラフィオ。わからないところ、ある?」

「いや、今のところ問題ない」

「そっかー。ラフィオ頭いいもんね。わたしよりも成績よくなりそう」

「それはわかんないけどね」

「でも、クラスにはラフィオより勉強できない子はたくさんいるはずだよ? ちゃんと五年間学校に行って、授業受けてるはずなのにね」


 それはたぶん、ちゃんと受けてないからじゃないかな。


「でも、遥さんのせいで集中切れちゃったね。休憩しよっか。プリン食べよ」

「うん」


 勉強するために遥を叩いて追い出したのに、すぐに中断するなんて。これじゃあ遥のお尻が浮かばれない。まあいいか。こっちは真面目に勉強してたんだし。


 お茶とプリンの用意をして、テレビの前のソファに並んで座る。そしてテレビをつける。

 今の時間は、別に教育テレビでも子供向けなモフモフ系番組はやってないはずだ。着ぐるみが寸劇をしたり、歌のお兄さんお姉さんと共にスタジオで子供たちと踊る番組は、もっと早い時間にやっている。


 この時間帯だと、民放はだいたいワイドショーとか情報番組を放送しているはずだ。


 テレビをつけた時のチャンネルは、ミラクルフォースを見てた時から変わってない。だいたいいつも、このチャンネルの番組をなんとなく見ている。

 そこでも情報番組をやっていた。芸能ニュースのコーナーらしい。


『あの「もふもふ侍」が出演者を刷新してリメイクすることが決まりました。新たなもふもふ侍を演じるのは、今注目の若手俳優の――』

「え! もふもふ侍また作られるの!?」


 ニュースにつむぎが素早く反応した。


 なんだっけ、もふもふ侍って。そういう映画があるのは知ってるけど。


「昭和の時に作られた時代劇の映画なんだよー。もふもふが好きな侍が、いろんな事件に巻き込まれて戦う話なんだよ!」

「そうか」


 そういえば以前、つむぎがサブスクで映画を見てたな。

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