二人しかしらない冒険/自由とマグロとマンモスと
『今からTPRGを始めます。私がGM、あなたがプレイヤーです。準備はよろしいですか?』
「急も急だが、問題ない」
『では貴方のキャラクターを作りましょう』
「どんなキャラクターがいいかな」
『まずは名前がないと始りません』
「名前はもう決まっている。『ケン』だ」
『シンプルかつ強い響きの良い名前かと。次に年齢と性別、種族です』
「年齢は20歳、性別は男。種族は人間にしよう」
『わかりました。では【体】【技】【心】に、6点を好き放題割り振ってください』
「体1、技2、心3で」
『貴方は精神力の強いキャラクターですね。僧侶や精霊使いに向いています。反面体は弱いので戦士などは不向きでしょう』
「なら職業は僧侶だ」
『はい。僧侶ですね、宗派は選んでおいてください。僧侶は、【回復の御技】、【照光の御技】、【天罰の御技】、【静謐の御技】、【福音の御技】の五つから二つを選んで習得できます』
「天罰と福音にしよう、効果は知らん」
『テキストの二枚目に書いてあるので読んでください。寝ずに考えました』
「わかった、ありがとう」
『最後に貴方の使う武器を3d6のダイスを振って決めましょう』
「ダイスの女神にお任せする」
『出目は18、では貴方の武器は冷凍マグロです』
「冷凍マグロ……なぜだ。まあいい、ありがとう」
『強いですよ? 大きな鈍器で、食料にもなります。あと生臭さで弱い敵にデバフがかかります』
「そいつは素晴らしい。早速プレイを始めよう」
『はい。冒険の始りです。貴方は何らかの理由で故郷を飛び出した駆け出しの冒険者いちねんせいです』
「いちねんせい……だと……」
『不服ですか』
「いや……問題ない。続けてくれ」
『はい。まずはそうですね。故郷を飛び出した理由を、漢字二文字で説明してください』
「え、急だな」
『思いつかないならランダム表をこちらで振りますが』
「うーん、よし、決めたぞ! 1人で生きていくために村を出たんだ!」
『漢字二文字といっとるやろがい』
「うぐぅ……じゃあ、ランダムで」
『はい。ころころころ。【自由】ですね』
「自由」
『はい。貴方は自由をもとめて冷凍マグロ担いで故郷を飛び出しました。もうすでにかなり自由な気もしますね』
「おい待ってくれ」
『はい。質問は随時受け付けます』
「自由って漠然すぎないか、どんな意味で受け取ればいい」
『私はGMであって国語の先生ではないのですが……「友の危機に天より舞い降りる翼」とか、そんな意味ですよたぶん。知り合いが言っていました』
「なるほどわからん」
『それもまた自由です。さて、冒険を始めるにあたってですが』
「できれば冒険の前に仲間を集めたい」
『貴方は冒険者いちねんせいなので仲間を募ることがまだできません』
「えっ」
『いちねんせいが出来るのは、【おそうじ】と【おかたづけ】と【害獣駆除討伐】の三つですね』
「その三つは冒険者いちねんせいに必要なのか……?」
『全てギルドのお仕事です。達成するとお駄賃とご褒美の飴玉と、花丸を一つ貰えますよ』
「ご褒美が飴玉なのか聞いてもいいか」
『飴玉お嫌いですか?』
「いや、嫌いじゃないが」
『いちご味です』
「ああ、そう」
『はい。一応ギルドのお仕事をおサボして、町の中を歩き回ったり、危険を顧みずその辺の森に突撃もできますよ』
「えっ、いいのかそれは」
『はい。結果に対する保障は一切ありませんが、貴方の行動ですから貴方は自由です』
「自由ってそういうことなのか……悩ましい」
『迷えるいちねんせいにGMから何かアドバイスをするなら、貴方いま無一文ですよ』
「なんでだ!?」
『何故といわれましても。故郷を飛び出してから一度でもお仕事をしてお金を得た描写はありましたか』
「いや、ない」
『はい』
「いや、でも、おかしいだろ! 普通は何か仕事してて持ってるものだろ、俺僧侶だし!」
『でも貴方は、故郷でしていた僧侶の仕事をほっぽって自由になりましたので』
「確かにそうだな。これはまずい」
『僧侶の仕事に未練があるようでしたら、今のところまだ肩書きは僧侶ですから、教会にでもいけば働き口はあるかもしれませんね』
「教会! それなら安心だ!」
『ところで貴方の宗派はなんですか?』
「宗派……?」
『はい。教会といっても信奉する神は様々ですから。この街の教会は【腰骨デストロイ教会】、腰痛の神アンマ・ツライ以外の信奉者は異教徒として晩御飯にされます』
「なんて物騒なんだ」
『それで、貴方の宗派は』
「ああそういえば最初に選んだな、俺は無宗教だ」
『無。ああ、虚無の神ナンモカケンを信奉するレア宗派ですね』
「まて、無ってあれそういう意味だったのか。ナンモカケン……?」
『ナンモカケン』
「ナンモカケンってなんだ」
『原稿用紙を前にして数時間真っ白になってる状態が奉納になる神様ですね、何も書けん』
「それは虚無だな」
『はい。まさしく』
「ナンモカケン」
『ちなみにバリバリの異端派なので全世界で両手足の指の数信奉者がいれば良いくらいにはレアですよ』
「そんなレアな宗派をなんで選んだんだこの僧侶の方の俺は」
『宗教の選択は自由ですから。貴方は虚無の信奉者なので腰骨デストロイ教会に行けば晩御飯にされちゃいますが、いきますか?』
「絶対に行かない」
『はい。では、別の行動にしましょう。冒険がおススメです』
「まあ、しかたない。冒険を始めよう」
『冒険、つまりギルドのお仕事ですね。【おかたづけ】、【おそうじ】、【害獣駆除討伐】から選べますよ』
「…………じゃあ【おそうじ】を」
GM「はい」
----------------------------------
【おそうじ】
内容:ギルド周辺の掃き掃除
危険度:ほこりをすわないように
お駄賃:50ギガマクスウェル
----------------------------------
「ギガマクスウェル」
『この世界のお金の共通単位です。1ギガマクスウェルでリンゴが一個買えます』
「GM、質問がある」
『はい』
「価値としては1ギガマクスウェル=100円くらいの認識でいいか」
『今のレートですと1ギガマクスウェル=200円くらいですね。昨今はリンゴも高いので』
「リンゴいまそんなに高いか?」
『はい。物価高で』
「世知辛いな」
『かなしいですね。で、このお仕事を請けますか? 気になるようでしたら他のお仕事の説明もしますが』
「受けよう、内容は簡単そうだ」
『はい。貴方はギルドから貸し与えられた箒を片手におそうじをします。備品は壊さずに返してくださいね』
「俺は掃除が苦手なんだ」
『なんで『おそうじ』を選んだんですかね』
「いやなんか、やりたくなった。掃除はどうすればいいんだ」
『はい。これはいちねんせい向けの簡単なクエストなので、判定に1回成功すれば達成できます
ここで使うステータスは【技】ですね。
ここにあるコインを好きな枚数コイントスして表が技の数値、貴方の【技】は2ですね。表が2より少なければ成功です』
「コインを使うのか……よし、達成してみせよう」
『沢山なげて裏の数が多いほど凄い成功になりますが、表の数が数値を上回って失敗したら裏の数だけ派手な失敗となります』
「雑なのか細かいのかわからないルールだ」
『最低限ステータスの倍の枚数は投げないといけないので下限は4枚からになります。何枚投げますか? 沢山用意したので沢山どうぞ』
「4枚で」
『……はい。ではコイントスをどうぞ。ああ裏が4つ。これはヒドイ大失敗ですね』
「そんなばかな」
『大失敗の場合は……ああ、ギルドから借りていた箒(2500ギガマクスウェル)がべきべきにへし折れました』
「おいおい、大丈夫なんだよな?」
『はい。2500ギガマクスウェルを貴方は弁償しなければいけません』
「えぇ……」
『まあ現状無一文なのでギルドへのツケが2500ギガマクスウェルということですね。今後お仕事の報酬が自動で返済に充てられます』
「次からは、ちゃんと仕事を選ぼう」
『はい。労働意欲があるのは良いことです。【おかたづけ】と【害獣駆除討伐】が残っていますよ』
「【おかたづけ】にしよう」
『はい』
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【おかたづけ】
内容:ギルド倉庫内の整理整頓、重い荷物あり
危険度:あしのこゆびぶつけないように
お駄賃:50ギガマクスウェル
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「これも報酬は同じか。一応聞くが所持金は」
『無一文ですね。借金は2500ギガマクスウェル』
「わかった、受けよう」
『内容からして肉体労働ですが大丈夫ですか? 貴方の体1ですよ』
「大丈夫だ。問題ない」
『はい。ではエースコンバット六個分はあるギルドの倉庫迷宮に貴方はやってきました』
「そんなに広いのか。あとたぶんエスコンフィールドだ」
『…………毎年、迷子になったいちねんせいが数名は今も帰ってきてません』
「おい」
『大丈夫、貴方はギルドから地図を貸し与えられていますから』
「おお、地図があるとは心強い」
『これも2500ギガマクスウェルなので破損しないように注意しましょうね』
「なんでそんなに高いんだ」
『ギルドは高級志向なので備品がえげつないほど高いんです』
「しかし……わかった、仕方がないやろう」
『ではお仕事の判定です。貴方の【体】は1なので最低2枚のコインを投げる必要があります』
「なるほど」
『上限はありませんが1よりも多く表がでると成功になりませんのでお気をつけて』
「了解した、では2枚投げよう」
『はい』
「どうだ」
『裏が二枚。残念ですが失敗なので仕事は終わらせられませんでした』
「なるほど。もう一度挑戦ってできないのか」
『おや、残業になりますがよろしいですか?』
「承知の上だ」
『残業は一回するごとにHPが1減ります。貴方のHPは3です』
「3か、ちょっときついな、なんでこんなに低いんだ」
『はい。貴方の体が1だからです。今なら諦めて報告にいくこともできますが』
「大丈夫だ、やるぞ」
『では残業開始です。HPが1減って2になりました。命を削って再度判定チャレンジです』
「そうか。ここで失敗は避けたいな」
『では御技を使いますか?』
「ここでか!? 一日一回の切り札と書いてあったぞ」
『貴方は福音の御技を持っています。福音の御技は判定のコイン1枚を引っくり返せる効果です』
「うーむ」
『今回なら2枚なげてどっちか引っくり返せば確実に成功にできるということですね』
「そうか、これはいつ使えるんだ」
『コイントスの結果を見てからで大丈夫ですよ』
「わかった、ではまずコイントスだ」
『裏と表、おめでとうございます、御技なしでも成功です』
「よかった……」
『では残業こそしましたがお仕事は成功です。お駄賃50ギガマクスウェルと、飴玉一個、花丸ひとつをもらえました』
「ああ、良かった。これで借金も返せる」
『はい。50ギガマクスウェル返済して残り2450ギガマクスウェルですね』
「……ああ。すぐ冒険にでて稼がないとな」
『HPが減っていますが大丈夫ですか?』
「まあ、仕方がない」
『はい。ではのこっているお仕事は【害獣駆除討伐】になります』
「……………【害獣駆除討伐】を」
『はい』
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【害獣駆除討】
内容:害獣ヘルゲートマンモスの討伐
危険度:死して屍拾うもの無し
報酬:5000ギガマクスウェル
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「GM」
『はい』
「ヘルゲートマンモスってなんだ」
『たま~~~~~~~~~~~~~~に何にもない原っぱに開く地獄の門、そこから出てくるマンモスさんです。草をもりもり食べて環境破壊を起こす害獣ですね』
「めちゃくちゃ危険じゃないか」
『危険ではありませんが、放って置くと数週間で原っぱが砂漠にはなるでしょうね』
「なんでそんなものを野放しにしているんだ」
『いや野放しにしたくないから依頼になってるんですが』
「くそ、そうだな仕方ない。それにしても、危険度凄いな」
『マンモスさんですからね、踏まれたら痛いかもしれません』
「……すまないGM、少し気になることがある」
『はい』
「今まで俺が受けた依頼とこの依頼の詳細を見せてほしい」
『はい。わかりました』
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【おそうじ】
内容:ギルド周辺の掃き掃除
危険度:ほこりをすわないようにね
お駄賃:50ギガマクスウェル
-------------------------------------------------
【おかたづけ】
内容:ギルド倉庫内の整理整頓、重い荷物あり
危険度:あしのこゆびをぶつけないようにね
お駄賃:50ギガマクスウェル
-------------------------------------------------
【害獣駆除討伐】
内容:害獣ヘルゲートマンモスの討伐
危険度:死して屍拾うもの無し
報酬:5000ギガマクスウェル
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「これはおかしいだろ」
『なにか気になることがありましたか』
「【害獣駆除討伐】だけ報酬が高すぎる」
『いや貴方、たかが掃除や整理整頓と命がけの害獣との戦いの値段が同じでいいとでも?』
「い、いや。それはそうなんだが」
『ギルドのお仕事はピンからキリまでありますからね』
「ええい、これがキリか」
『報酬額で言えばピンかと』
「これ、俺が受けない場合はどうなる」
『貴方が受けない場合は他の誰かが受けて、まあ何人かは死ぬでしょうけどそのうち討伐されますよきっと』
「わかった、受けよう」
『流石はプレイヤー。この世界プレイヤー以外のNPCいちねんせいは全能力1なので物凄い人数死んでたでしょうね。危ないところでした』
「俺は絶対に【害獣駆除討伐】をやらねばならんのだな」
『はい。では貴方はギルドに指示を受け、件の原っぱにやってきました』
「まだ、ヘルゲートマンモスとやらは出てきていないのか」
『マンモスさんならその辺をのそのそ歩いて生えてる草をむしゃむしゃしてますよ』
「普通にいるのか、やけに平和な害獣だな」
『一日で500t近い草を食べるだけの草食獣ですから』
「それは迷惑だ、しかし勝てるのか俺一人で」
『ちなみに大きさは貴方の膝くらいですね』
「俺の膝……」
『貴方は人間の男性なので平均身長はこの世界だと170センチくらい。その膝ですから、まあ60センチくらいです』
「なるほど、マンモスという割には小さいな」
『はい。その辺の犬と同じサイズですね』
「しかし、マンモスって草原にいるものなのか」
『ヘルゲート産なので』
「ああ、そうだった」
『もう遭遇はしてますが討伐しますか?』
「ああ、もちろんだ」
『はい。貴方はまだ気づかれていません。マンモスさんは食事に夢中ですからね』
「よし、じゃあ俺の攻撃がとどく距離まで近づいて攻撃だ」
『貴方の攻撃の距離は武器である冷凍マグロの近距離か、天罰の御技を使うなら目に見える距離全てです』
「御技は温存したい、武器で殴りつける」
『近距離ですね。では冷凍マグロは打撃と氷の属性なので使うステータスは【体】です』
「属性武器だったのかお前」
『判定に移りましょう、貴方の【体】は1なのでコインを2枚投げて、どちらも表が1つなら成功です』
「ぐ、厳しいがやるしかない。ダイスの女神よ、我に力を!」
『それダイスじゃなくてコインですよ。女神さま怒って帰っちゃったじゃないですか』
「えっ」
『ほら、あっちでツーンってしてそっぽ向いてます』
「そ、そんな……何が見えてるんだ一体」
『まあそんなことより今はコインに命運を託すほうが大事かと思いますよ』
「そ、そうだな。いくぞ」
『おや、どちらも表と裏。成功ですね。先ほどから調子がいい』
「よし。これで俺の勝ちだ」
『さて。それはどうでしょうか。まずは攻撃に成功したのでダメージを出しましょう』
「了解だ、どうすればいい」
『貴方の武器冷凍マグロは打撃と氷属性でダメージは2d8です』
「2d8か、そこそこのダメージが出るなこの回遊魚」
『ヘルゲートマンモスは氷が弱点ではないので追加ダメージは無しですね』
「わかった、ではサイコロを2つ振ろうか」
『はい。8面ダイスを2個です。女神さま呼びましょうか?』
「ああ……いや、呼べるのか?」
『女神さま今日はもう応援したくないそうです』
「……ええい、振るぞ」
『3と7で10点のダメージ。いい数値ですね』
「よし、ダメージは与えたが、どうだ」
『ヘルゲートマンモスはお食事中にいきなり背後から冷凍マグロでぶったたかれて、ズテーンと転びました』
「おお、転等も入ったか」
『脚ががくがく震えて立ち上がれません。ぱおぉんとか細い声で鳴いています』
「ん?」
『貴方に気づくと這うように近づいてきて、食べていた草を鼻で貴方に差し出すような仕草をしています』
「えっ、いや……GM?」
『貴方は確か【心】が3ありましたね。ちょっと判定してみましょうか」
「ああ、わかった」
『コイン6枚で表が3枚までなら成功です』
「よし、いくぞ」
『表2、成功ですね。貴方はマンモスの心情を察することができます』
《なんかめっちゃ痛い、ああ人間さんだ、わかんないけどごめんなさい殺さないで、これあげるから命だけは、ぴえぇぇ》
『とか大体そんな感じのニュアンスが伝わってきました」
「なんか思ってたのと違うんだが」
『まあヘルゲートマンモスって温厚な草食獣ですからね。そりゃ殺す勢いで殴ればこうもなりましょう』
「い、いや。待ってくれ、俺はギルドの依頼で害獣討伐にきただけで」
『はい』
「それで俺はヘルゲートマンモスを討伐するために、この冷凍マグロでぶん殴ったんだぞ」
『はい。その結果ヘルゲートマンモスはプルプル震えて地面に伏して、大好きな草を差し出して命乞いをしていますね』
「ちょっと待ってくれ。じゃあ俺はどうしたらいいんだ」
『どうとは?』
「いや、だって討伐対象はこいつだぞ」
『はい。仕事を遂行するなら命乞いを無視して叩き殺す必要があります。見逃してやるならこのまま帰れば済みますが、お仕事は失敗に終わりますね』
「……いや、俺は人殺しなんてしたくない」
『いえマンモスなんですが』
「……このマンモスは殺したくない」
『はい。では仕事は諦めますか?』
「ああ、そうする」
『わかりました。ではヘルゲートマンモスは貴方にこれ以上の害意がないことを悟ると、目に涙を浮かべてぷるぷる震えながらなんとか立ち上がり、脚を引き摺って去っていきます。あ、転んじゃいました』
「俺は、これでよかったのだろうか」
『それを決めるのもまた【自由】なのです』
「なるほど」
『討伐されない限りあの依頼は残るので、その内また誰かがやってきて何人が犠牲を払った末に討伐するかもしれませんし、その前に原っぱが砂漠になってマンモスは次の場所へ行くかもしれません』
「俺の行為は無駄だったのだろうか」
『さて。明日の晩にはマンモス肉になってるかもしれません。もしかしたら、痛い思いをして学習したマンモスはここを去るかもしれません』
「少しは未来は変わったかもしれないと」
『はい。それが冒険者というものです、まあ貴方の未来は今のところ無一文の借金持ちから揺るがないようですが』
「借金が減ることはないのか」
『稼いでませんからね』
「まいったな」
『マンモスさん退治すれば返済してなお余りがありますよ?』
「しかし、依頼は失敗した。これは事実だ」
『はい。ああそういえばドロップ判定を忘れていました。この場合はさっきマンモスさんが差し出していた彼の大好物ですね』
「ふむ」
『今回は特殊な処理なので【心】で判定をしてください。数値は3、コイン6枚からの判定ですね』
「よし、折角だし9枚で試してみよう」
『おやお見事、裏六枚に表三枚。クリティカルですね』
「クリティカル」
『はい。判定ステータスの倍以上の裏が出てる成功はクリティカルとなり。最良の結果になります』
「そうか。運がいいな」
『はい。この場合ですが、どうやらマンモスさんが差し出した草の中に【最上級の薬草】と【絶滅したはずのお茶っ葉】がそれぞれ一房紛れていました』
「おお、レアドロップということか、説明をしてもらっても?」
『はい。最上級の薬草は燃やして煙を嗅げばあっという間に痛みを感じなくなる代物です』
「薬草は鎮痛アイテムなのか、なるほど」
『上流階級の間では粉末にしたものを手の甲にのっけて鼻から吸引するキメ方がトレンドらしいですよ』
「そうか、そういうヤク草か」
『末端価格10000ギガマクスウェルです』
「………よし、拾って帰ろう」
『なお個人で所有がばれると禁錮8年は固いです』
「いや、流石にそれは、なんとかならないか」
『はい。所有というのはアイテムポーチに入れた状態なので、手に装備したまま帰ってすぐ売り払えば罪は問えません。システム的に』
「そ、そうか。よかった」
『お茶っ葉の方は、まあ味は人それぞれ好みによりますので一旦割愛。ですが何せ絶滅種なので相応の場所に持ち込めばなんらかの謝礼が見込めるでしょう』
「それも持っていこう。売るかは保留だ」
『わかりました』
「薬草が売れて借金を返せれば、買い物が出来るし宿にも入れるな」
『はい。では街に戻って薬草を売ることになりますが、どこで売りますか? これを買い取ってくれそうな場所は以下のとおりです』
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【ヤク草買取案内】
・ギルドの売店
・町の道具屋
・路地裏の怪しい行商人
・マフィアに直接売り込む
・貴族に買い取ってもらう
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「この街マフィアいるのか、妥当なのはギルドの売店だな」
『ギルドですと、あの原っぱには本来存在しないものなので、入手経路を聞かれると思いますがよろしいですか?』
「ああ、構わない」
『経緯を全て話すということで問題ありませんか』
「問題ない」
『では何故かギルドの偉い人が審議を始めて、結果15000ギガマクスウェルで買い取ってもらえました』
「おお何故か増えた、これは嬉しい」
『あとこれは次回以降の余談になりますが、【害獣駆除討伐】のお仕事の内容が、マンモスを痛めつけて草を奪う、に変更されます」
「うん、なるほど。まあそうなるか」
『とりあえず目先の生存はできそうですね、マンモスさん』
「ああ、よかった。それは、本当によかった」
『これで貴方の手持ちは借金返済して12550ギガマクスウェルと、飴玉1個、花丸ひとつ、そして絶滅種のお茶となりました』
「この絶滅種のお茶って売れるのか」
『すでに絶滅から数世紀経ってるので買取相場は存在しませんね。価値を理解する相手を探したほうがいいかと』
「なるほど、大事に持っていよう」
『一房あるので、一杯くらいは飲んでみてもいいかもしれませんね』
「じゃあ、一杯だけ。味は?」
『はい。コーヒーの香りがする緑茶みたいな味でした』
「奇怪だがこれはこれで、何か効果があったりは」
『はい。絶滅したお茶を飲むという不思議体験により10の経験値を獲得しました。更に未知のモノにチャレンジしたことで心が1増加します』
「おお、凄いな! これが絶滅の味か」
『あとは何もなければ今回のセッションは終了してリザルトになりますが』
「ああ、最後に一つだけ訊きたいんだが」
『どうぞ』
「今回俺は一応戦ったが、経験値は与えられるのか?」
『討伐はしていないので戦闘による経験値は残念ながら発生しませんね』
「そうか」
『これが撃退依頼なら依頼成功で経験値があったのですが、討伐ですからね』
「うむ。まあ今回は仕方がないか」
『以上でよろしいですか?』
「ああ、お願いする」
『はい。ではリザルトの発表です』
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達成したお仕事:一件 経験点5点
昇級審査:花丸ひとつ 昇級なし
総評:もっとがんばりましょう
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『飴玉は食べて良いですよ』
「ほう、経験値を貰っていいのか」
『はい。お仕事一つはできましたからね。経験値は溜まった分を消費してレベルアップか御業と獲得に使えます」
「レベルアップと御業か、御技は結局使わなかったな」
『レベルアップなら丁度1から2に上げるのに15点必要ですね。御技はひとつ10点です』
「結構必要だな」
『まあ依頼を二つ失敗したことを鑑みれば、成長の選択があるだけ御の字でしょう』
「わかった、ではレベルアップにしよう」
『はい。レベルアップでは、【体】【技】【心】のどれかひとつを1点増やせます』
「なら【心』に1点」
『特化ですね。ロマンを感じます』
「ああ」
『そしてHPの再計算がされ、HPが4点になりました』
「おお……まだ低いな。次は死ぬかもしれん」
『【体】が1ですからね、かなり貧弱です。HPは【体×3】に【レベル-1】を足す計算なので、【体】を上げれば改善しますよ。能力アップを選びなおしてもいいですが」
「いやいい。次のレベルアップが出来るようにまた頑張ればいい」
『はい。その意気です。ではこれで今回のセッションは終了です。お疲れ様でした』
「ああ、お疲れ様」
『感想などございましたら、次への改善反省に活かしますのでお聞かせください』
「では、さっそくだが」
『はい』
「何故マンモスがお茶を持っていたんだ?」
『あれマンモスさんの故郷……まあヘルゲートが繋がる先ですね、あっちにはまだ生えてるんですよ。最上位薬草も同じく』
「ああ、なるほどな」
『あのマンモスさんはあれらが大好物なので、とっておきのおやつとして持ってきていたわけですね』
「ふむ」
『まあ半殺しにされて命惜しさに泣く泣く差し出したわけですが』
「……で、その後は?」
『お茶や薬草は貴方に差し出した分だけなので、今後ドロップほしさにやってくる人に痛めつけられても普通の草しか差し出せませんからね……』
「可哀想だな……」
『依頼の変更は次のセッションからなので、また会えるかもしれませんね』
「そうか、会えるか」
『会ってどうするか、それもまた【自由】です』
「なるほど、【自由】だったな。考えてみるよ」
『ええ、冒険は自由であってこそですから』
「ところで」
『はい』
「他の冒険者とセッションすることはあるのだろうか」
『現在のシステムがまだ調整中なので当分はソロですね。申し訳ありませんが』
「それは残念だ」
『私と二人っきりは嫌ですか?』
「いや、そういうわけじゃない、そんなことはない」
『でしたら、また二人で遊びましょう』
「そうだな。また君と」
『はい。貴方と』
「わかった。楽しみにしているよ」
『私もです。次のセッションでまた会いましょう』
「ああ、また次のセッションで」
おなまえ:ケン
なんさい:20
せいじにん:♂
がくめい:人間
かいきゅう:いちねんせい
つよさ:2
いのち:4
からだ:1
わざ:2
こころ:5
おしごと:僧侶(無の宗派/虚無の神ナンモカケン)
ちーと:天罰、福音
そうび:冷凍マグロ(2d8 打撃/氷 ex1.食べられる ex2.生臭い)
かばん:絶滅種のお茶一房、花丸ひとつ
GigaMaxwell:12460