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いかれた桃源郷。  作者: 一暁午後。
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狂って仕舞えば。

 ……一瞬、なんと言われたのか分からなかった。


「ーーーーそんなの……っ、ぜったい、おかしいよ。した記憶がない……」

「きみの記憶がなくても、過去がある。いちばん最初のきみが言っていたことを、ぼくはきちんと叶えたよ。」


 そして、何を言っているのかわからない。

 初対面の彼と出会ったときを思い出す。あのときは何の話もせずに終わったはずだ。


「証拠に、きみの襟に勇者の証があるでしょ。」

「……貰ったときに、この話はしてない」

「だって既に叶えたもの。」

「ーーーー」


 話にならない。

 この赤いリボンは手紙と交換したのだ。なんの関係もない。まるで願いを叶えてもらった後に、これをもらう予定だったというような言い方に、当然シュンは困惑する。


「……じゃあ、じぶんは一体、どんな『契約』をしたんですか」


 話もしていないのに話が進んでいるという矛盾の中身をまずは知らなければならない。

 それなのにーー


「さぁね。」


 男は会話をする気がないようだ。

 あっさりとしすぎた返答にシュンは眉根を寄せる。


「それだけ……?」

「かなり前のことだから、もう記憶にないんだ。ほら、人間っていうのは忘れる生き物でしょ。」

「そんなことどうでもいいよ‼︎ ーー『契約』、したならその内容くらい、おぼえてるもんじゃないの……?」


 平然と御託を並べられて憤るシュンに、賢者は言葉を述べる。


「ぼくはきみと『契約』をしたことと、それを叶えたという事実だけ知ってる。きみは既に、この世界と同等の価値のものをもらっているのだから、これ以上はただの強欲だ。ぼくのおもう『契約』は願いを叶える力だ。この力は時に世界さえを変えてしまうことだってある。だから、そう簡単に交わすことはできないよ。」

「……でも、じぶんはほんとうに記憶にないんだよ……? おかしいよ。ーーあなたはただ、契約をしたくなくて、逃げてるんじゃないの……?」

「それこそ言い掛かりだよ。ぼくはちゃんときみとの『契約』を叶えた。覚えていないのはきみのほうじゃないのかな。」


 その言い方には怒りも、何の感情も見えない。ひどく平坦で、無機質な声音だった。表面的に見れば明るい声音も、温度差で本質は冷たいように感じる。むしろ、そういった感覚で表現するべきではないのかもしれない。

 諭すような責めるような台詞にシュンは無力感を覚える。


「でも……それでも、おかしいよ。きちんと理由を言ってくれなきゃ、納得できないよ……」

「きみが納得できるかできないかは関係ない。きみが知らなくても世界が知ってる。世界が知っているならぼくも知ってるってだけだよ。きみはまだこの世界から遠い位置にいるから知らないのも仕方ないんだ。」

「ーーさっきから、言ってる意味がわからないよ」


 哲学的な話なのかまた新しい概念の話なのか、突拍子のないおとぎばなしのようなものに、面倒臭ささえ感じる。


「だから、理解も納得もいらないんだ。」

「…………それでもーー!」

「きみはただ、ぼくとの『契約』を既にしているという事実だけ持ち帰ってよ。」


 後の展開を悟り、シュンは男の言葉を遮ろうとするが無慈悲にその言葉はねじ伏せられーー

 次に瞬きをした刹那、男は眼前から消えていた。

 とぼとぼと、王宮の廊下をシュンは歩く。

 ようやく打開できたと思っていたが、こちらの現実もそううまくはいかないらしい。あれから彼の姿を少しだけ捜したがどこにも見当たらなかった。

 埒が開かないのでひとまず食堂に戻ろうとしたが、勢いよく飛び出してきてしまったので帰り道を覚えておらず、結局また迷うこととなった。迷子になるには素質が必要だと思っていたが、ここでは初見殺し以上に迷わせてくれる。バリエーション豊富な見た目の道中に慣れるには相当な時間がかかりそうだ。

 かれこれ数十分ほどを体感し、さっきの事も含め焦りを感じながら小走りで廊下を移動しているとーー


「ーー!」

「おっ迷子。」


 廊下でも副流煙を撒き散らしながら歩いている女医と出くわす。

 ゼリューは即座にシュンの状況を察知し、しかし一旦持っているそれを咥えだした。


「そ、そうなの! えっと、えっと……」

「ゼリューだ。」


 ふうぅと煙を吐きながら言う。


「そう、ゼリューさん! あの、あのね、食堂にもどりたいんです、迷っちゃってっ」

「マァ落ち着けよ。一本やるから。」

「えぇえじぶんまだ未成年」


 縋るように用件を述べるシュンに、女医は白衣のポケットにあった煙草の箱から次に吸う一本を覗かせて差し出す。

 シュンは驚きのあまり勢いよく彼女から離れた。


「冗談だよ。キミはこっちだ、ホラ」

「わっ」

「ガキは飴でもしゃぶってろ。」


 今度は反対のポケットから何かを取り出して投げつけられる。

 仕草で何かを投げられるのは察知できたが、生憎身体の動かし方はあまりわかっていないのでそれが反射的に振り上げた手には触れず、シュンの胸あたりに当たって落ちた。

 困惑しながら拾い上げる。


「……大阪のおばちゃんかよ」

「知らん文化の話をボクにするな。」

「いつも飴ちゃん持ってるの?」

「ガキは大人に憧れるからな、少しだけ大人の気分になれるよう珈琲味のものを常に用意している。ボクは優しいからちゃぁんと微糖だぞ。」

「無駄に用意周到」


 丁寧に棒付きだ。

 大人の布教を得意げに話す女医はどこかこどもっぽいようにみえる。


「そういやキミ、歳はいくつだ?」

「え、と……いまは十五で、もうすこしで十六です」


 おそらく食堂の方へ向かってゼリューは歩き出し、シュンはそれについていく。

 この世界の日付もまだ分かっていないので、ピッタリ型に嵌る言い方を思いつきながら返答。


「以外に歳のいってるガキだったか、人は見かけによらんな。ちゃんと食べてる?」

「食べてもうんこにしかならないので……」

「マァ、体質もあるわな。」


 シュンに身長の才能は無い。代わりに代謝は良かった。


「しかし、やはり見た目は第一印象と言うだけ、ひと目見ただけでソイツの内面さえも判断してしまうな。案内兎の少年とか、情報屋の少年とか」

「エフくんと、ラディアさん?」

「ーーそうだ、先生にはもう会ったか?」


 シュンの問いかけを無視してゼリューは別の話題を押し付ける。

 あまり人の話は聞いていないらしい、シュンはさほど気にせずその話題に心を移す。


「先生……って?」

「ジア先生のことだ。あの形容し難い雰囲気を纏った、とにかくよくわからん人」

「それならついさっき会って……え、ジアさんってゼリューさんの先生なの?」

「ああ、」


 歩きながら大人のキャンディを咥えて煙を肺いっぱいに頬張り、ゆっくり吐き出すと、


「ここら辺で医学を教えてくれる人は彼以外にいないからな。トペリには学問を学ぶ施設というのは無いから、医者になるには基本外国に留学しなければいけない。けどなんか、教えてくれた」

「なんかなんだ」

「ボクにとっては外国に行くのは面倒だったから好都合だ。競争相手みたいなんがいるのも嫌だし。ガキの頃、ボクが冗談のつもりで教えてと言ったらなんか快諾してくれた」

「えぇ……」


 師弟関係の締結はこんなにあっさりしているのに、勇者との『契約』は意味のわからない理由で結んではくれなかったことに、シュンは心の中のもやもやを再発させる。


「どうしてジアさんは、ゼリューさんの先生になってくれたの?」

「そう訊くと、教えてと言われたからとしかあのヒトは答えてくれない。中身が何も見えない。あのヒトと会ってから数年経ったが、姿形も認識も、出会った当初と何も変わらない。」

「ーー話を聞くかぎり、ジアさんも不老不死みたいな」

「そうだよ、」

「やっぱり」


 この世界で不老不死などそんなに珍しくもないだろうし、彼のような奇怪な人物であればそうであっても容易に納得できる。

 少しだけこの世界に慣れてきたと感じる。


「不老不死の“ヒト”だ。真偽は不明だが、かなり珍しい不老不死の病に罹っているのらしい。似たようなもので吸血鬼のがあるが、日光に怯えず通常の人と変わらずに過ごせる。ただ不老不死になるというだけの奇病だ。」


 そう思ったのも束の間、別の角度から予想だにしない情報が舞い込んできた。


「病気とは普通、身体が悪くなることを言うはずだが、きっと生命体としての欠陥なのだろう。人の理想ではあるがな。」

「矛盾してるのかしてないのか……」

「ーーキミは、不老不死になりたいと思うか?」

「ぇえ……?」


 立ち止まり、シュンの赤い瞳をじっと見つめながらゼリューは訊く。

 ゼリューの夜空の色の瞳が、どこか期待を抱いているような気がしたが、その質問の最善の答えなどシュンにはわからない。


「…………えっと、よく、わからないです。」


 子どもの頃は希死念慮と正反対の感情を持つことがあったような気はするが、今となっては生死のことなどあまり考えなくなった。ましてや不老不死など、現実とはかけ離れたことを考えることも少なくなった。

 シュンは自身にも、ゼリューにとっても曖昧かつ適当な答えを残して、女医から目を逸らした。


「いまは目の前のことに必死で、考える余裕がないというか。想像がつかないというか……」

「ただの世間話なのだから、死にたくなかったらなりたい、死んでもいいのならなりたくないのどちらかで構わないのだが」

「それ先に言うべきでは?」

「あまりにもキミが真面目に考えるものだから。こういうのはテキトーでいいんだ、そういう“適当”はかえってボクがもやもやするからな。テキトーテキトー」

「じぶんがもやもやするよ……」


 あまり心のなかに虚像の浮かばない性格は、やはりよく災いするとおもう。


「それに、あのヒトは確かにヒトでないのかもしれないが、本当にヒトだったらどうなると思う?」

「どうって」


 訊き方が悪い。

 その質問の意味を咀嚼しきる前に、彼女は答えを展開する。


「ボクらはヒトでありながら、不老不死になれる可能性があるのだぞ。すごいと思わないか?」


 得意げな笑みを浮かべて、両手を広げ、天の川のようなきらきらの夜空の色の瞳を向けて。

 その瞳の奥には、やはり彼女の幼さのような何かが見えた気がした。


「…………」

「…………?」

「なんだ、キサマ浪漫というものを知らんのか。」

「……、いや、ゼリューさんはもっと現実を見ているものだとおもってた。」

「そんなことないぞ? 空想のことを考えるのはとても楽しいからな」


 それに吸い込まれて数秒、話が頭に入ってこなかったことに気づき、テキトーなことを言ってシュンは目を逸らす。

 期待はずれだというように、女医は煙草を再度口に含み歩き出し、


「キミは少々頭がかたーー悪いようだ。残念だが成長でも医学でも馬鹿は治らん。」

「ひどい。」


 言い直さない方が良かった。それを愚弄にまで昇華されて、何故か突然シュンの心は滅多刺しにされる。

 それでもこの建造物内は迷うので彼女のあとを追う。


「マァ馬鹿の考え方も使い所によるがーーところで勇者、」

「こんどはなんでしょ」


 ゼリューは夜空の目だけを真っ直ぐにシュンに向けて、


「ここはどこだ。」

「ーーーーぇ」


 世間話かと思いきや衝撃的な事実をさらりと呟く女医に、ようやく気づく。

 この人は、他人(ひと)のことを言えない人だと。


     *


 あれから迷子は二人に増え、しばらく王宮内を彷徨っていたら運良くうんこをしに行った勇者を捜していたネフカに発見されて無事に食堂に戻ることができた。

 食事は冷めきっていたが完食し、その後は一日ぶりに体を洗い、気づけばベッドの中で今日のことを悩みながら就寝。

 ーータイムリミットまで残り二日。

 焦りを感じながら起床し、部屋を出てまたしばらく彷徨い、今度はリアリに会う。

 海のような色の碧眼と、ハーフアップの茶髪の少女である。


「ちょうど良かったです、二人分のが食べられるので。勇者さまはてきとうなお皿を洗っておいてください。」

「ぁ、えぇと……どういうの?」

「二つでいいです。」


 食堂の厨房で二人、朝食の準備をする。リアリが母親、シュンが手伝いする子どものようだった。

 「てきとうなお皿」と彼女は言ったが、何を盛るかによって皿は変えるべきだと思う。それと会話のキャッチボールが少しズレている気がする。


「ーーちなみになにを作るんですか……?」

「え? うーん、なんて言うんですかね。たぶん美味しいやつです、食べたことがないのでちょっとわからないですが。」

「はぁ」

「朝早い日は基本一人なので、誰かいるとこう、大きいものが分けて食べれていいんですよ。」


 リアリは厨房奥の冷蔵庫らしきもの中から、今度はなんの包装もされていない茶色い箱を取り出して、てきとうなところにどかんと置く。厨房の中、台の上はとにかく物で溢れているので、容赦なく何かの上に置いていた。

 言動すべてがてきとうすぎて、シュンは少しだけ冷や汗をかく。


「この前気になって買ってみたのですが、どんなものか忘れてしまいました。どうやらめん類のようです。」


 言いながら早速その辺に落ちていたナイフで箱を切って開け、キューブ状に収まった麺類を確認する。冷凍食品のパスタのようだ。それにしても、こういうのはプラスチックのパックなどに入っているものではないのだろうか。


「味付けもあります。まぁ茹でましょうか。お鍋も洗ってくれますか?」

「あぁ、はい」


 味付け、といったのは細長い小瓶に収まっていて、赤っぽい塊が底の方に集まっていた。ソースかなにかだろうか。

 とりあえずシュンは流しの近くにあったスポンジらしきものを手に取り、


「これで洗うかんじですか?」

「はい。洗えそうなやつでしたらなんでもいいです。」


 飲み物の用意をしているらしいリアリに、それを見せびらかすようにして確認をとり、無数にある食器の中から小さな鍋を見つける。流しの周りには様々な形のスポンジが散らばっていた。

 手をつける前に洗剤を探し、それらしきものがないのでリアリに訊く。


「あの……洗剤とかってーー」


 シュンの語気が弱まる。

 言う途中で、ここは異世界だという事実が脳をよぎる。大雑把な生活環境をしているので、洗剤という存在は無いのかもしれない。水だけで洗う可能性がある。


「え? ああ、洗剤でしたらそこにありますよ。」


 普通にあった。

 彼女の人差し指の先を視線でなぞって、それらしきものをとりあえずてにとってみる。


「ーーただの花瓶では?」

「花瓶ですよ?」

「これが洗剤?」

「そうです。こぼしたら罰金ですよ」

「間違えてお花を活けそう」

「たぶんそれしても罰金です」


 透明の花瓶。ガラス製で細長く緩やかな曲線の体形を描いており、口の部分がギザギザの凹凸を広げている、何の変哲のない花瓶の体内に、それらしき青半透明の液体はあった。


「なんでこうなったの?」

「洗剤を買いに行く際に、容器を持ってって直接入れてもらった方が安く済むからですかね。あと注ぎやすい形をしているので。」

「本人はくやしいとおもう」


 本来の用途と違う使い方をされているのは面白いと思う反面、すこし切ない感覚がある。

 それでも郷に入っては郷に従えとはいうので、これ以上は掘り下げないこととする。今までも、王宮内の連絡用のパイプらしきものがドリンクバーだったりした記憶があるし。

 鍋を洗い、軽く拭いてリアリに渡す。リアリがパスタを茹でているのに並行して、シュンは昨日の塩焼きそばのと一緒くらいの二皿を洗う。それとフォークやコップなども。使う分だけ洗ってあとは放置するというのはなんとも引っかかるが、とてつもなく時間がかかりそうなのであまり考えないことにした。

 隣を覗くと味付けの入った瓶は鍋の端の方で茹でて、パスタと混浴をさせていた。

 皿を用意しパスタを盛りつけて、いつの間にか瓶の中でどろどろになっていた赤っぽい味付けをパスタにぶっかけて朝食は完成。カウンター席の方へそれを運ぶ。

 見た目は具のないミートソースのスパゲッティのようだ。


「それじゃあ、いただきます」

「……。」


 手を合わせるシュンに、隣でリアリが疑問を顔に出しながら料理に手をつける。

 異世界にもインスタント食品があるのはなんとも不思議だなと思いつつ、日本にいた頃とあまり変わらないような雰囲気になんとなく懐かしさを感じる。味付けはミートソースに似ているが、ソースがトマトの酸味とは違った方向性で少し酸っぱい。

 あっという間に完食して食器を流しに運び、席に戻って食堂内をただ眺めていると、


「お、いた! さがしたんだぞキミ!」


 突然扉が勢いよく開き、女医の声が響く。

 副流煙を撒き散らしながらシュンの方へ歩を進めると、


「朝は診察するから部屋にいろと言ったのに、どこをほっつき歩いてんだキサマは」

「ーーそんなはなししてました、っけ」

「……、……あれっ」


 目をぱちくりさせるシュンに、責め立てるような声が弱まり途端に首を傾げるゼリュー。

 そんな女医にリアリが「煙草するなら換気扇の前でしてください」と不機嫌そうに言い放ち、女医は渋々コンロの前に移動して上側にある換気扇のボタンを押してから話しだす。


「ーーこれをしているからか、最近脳が萎縮してる気がする。」

「やめればいいじゃないですか」

「気がする、であって実際に萎縮してるとは限んないだろ。人というのはいくらか思い込みで出来ているところがあるのだから、萎縮してないと思えばしてないんだ」

「してる気がするって言ってませんでした?」

「…………そんなことよりそれうまそうだな、はらへった」


 矛盾から逃避する女医はとりあえずリアリが食べ進めているパスタを指差す。

 ちなみにゼリューは王宮内の地理を完全に把握している訳ではなく、方向感覚で移動するのだが、夜は暗いので迷ってしまうとのことだった。


「もうこれしかないので、自分で作ってください。」

「じゃあ朝昼兼用にしよう。」

「……朝ごはんは食べた方がいいですよ?」

「ボクは脳味噌以外なら天才だから、少し怠けた生活如きで体調を崩すことはない。」


 心配をするように言うリアリにゼリューは自虐的な言い方で返す。


「それより勇者、背中の調子はどうだ」

「え、」


 急に話題をふられて声を詰まらせるシュン。


「えと、気づいたら痛くなくなっているというか、特に何も感じなくなっているというか……」


 最初に女医に診察された際に言われた通りのことをそのまま述べる。

 あんなに苦しかったはずの痛みがたったの二日で良くなっていることに内心驚くが、女医は平然とした様子で、


「健康に問題がないのならいい。キミはやはり身体の治りが常人よりはやいのと、例の幼少女が丁寧に改造したおかげだな。」

「幼少女?」


 さらりと出てきた聞き慣れない単語に、シュンはまたもや首を傾げる。


「キミを襲った犯罪者どもの名称だ。騎士団は犬の世話で忙しいからな。昨日すこしだけ調べたのだが、幼女がひとり、少女がひとり、成人の女がひとりずついるから幼少女なのらしい。最近なんか偉い人を殺害したりで有名らしい。」

「由来はわかったけど罪状が曖昧すぎる」

「ヒトの名前というのは不規則だから覚えるの苦手だ。それにトペリ(ここ)では犯罪などほぼ起こらんし、ボクは他国のうんたらにあんまし興味がない。」


 言い終わった後にふうう、と気持ちよさそうでもなくただ煙を吐く。

 騎士団とかいう警察的組織が動物の保護活動をしている街だ。事件や指名手配などには疎いのだろう。


「そうだ、ゼリュさん」

「ん」


 食事をし終わって、食器を流しに運ぶリアリが言う。


「勇者さまをここに連れてくる際、ひどく痛がっていたので魔法を使おうとしたのですが、全く効かなくて……」

「キミあれに治癒魔法使おうとしたのか?」

「痛みならとれるかなと」


 さっきと同じ席に座り直し、純粋に答えを求めるリアリに対し、ゼリューは呆れた表情を彼女からそらして、


「じゃあイチから説明しよう。勇者も聴くといい」


 小さくなった煙草をそこらへんにあった灰皿に突っ込んで、カウンター越し、先生のように二人の前に立つ。


「この世には二種類の人がいる。単純なハナシで魔力を持っているかいないかだ。」


 人差し指と中指を立てて、壮大そうな話から始める。


「魔力と言ってもフシギナチカラや超常現象などと一緒の括りには入れるなよ。あくまで魔力や魔法魔術についての解説だ。けど勇者、今言ったのは複雑なので聞き逃していい。」

「……?」


 なんらかの勘違い防止の注意点のようだ。頭が追いつかないはずのシュンをゼリューは少しだけ気にかけて。

 ふたつを表した手を白衣のポケットに入れて、煙草の入った箱をそわそわと触りながら


「まず魔力というのは原子と似ていて、この世界を構成するごくありふれた物質だ。これを魔力因子と言い様々な系統があるが、総じて魔力と言う。魔力はたとえると水に最も近く、よく”ながれる“などと表現し、普段は水蒸気のように、基本的に気体の中にいたりする。」

「ここら辺なら私もしってます」

「そんでもってほとんどの生物は大気中の魔力を体内に取り込み、感覚的に魔法を扱うことができる。生物が魔力を取り込む原理などはまだ未解明だ」


 ゲームや小説など、創作物の世界観としての魔法は夢やファンタジーで出来ていたが、こうも現実として目の前にしてみるとひどく科学臭く思える。


「というのも、魔力というのは大気中のと体内のとでは全く形が違っているらしく、取り込んだ後は自身の専用の魔力の形に変換されているのが近年判ったらしいが……もっと簡単なところの話をしよう、」


 説明をするのに悩みながらも、ゼリューは言葉を紡ぐ。


「たとえば、リアリの魔法は傷口を塞ぐなどの治癒効果がある。これはリアリの魔力に、生物の自然治癒力を増幅させている効果があるからだ。時間経過で治る欠陥をはやくに治せるというのが、キミの魔力の特性だ。」

「なるほど、そうだったんですね。」


 さらりと煙草を取り出して、女医はリアリにそれを向けながら言う。

 リアリは改めて納得したというように相槌をうつが、


「いや、再認識したならいいとか、ボクはそんな甘ったるくないからな。生物の自然治癒力を上げる魔法なのだから、鎮痛目的でむやみにやたらと使うなよ。銃弾が体内に残っている人物にそれを使っても、取り出すのにまた身体を切ることになるんだぞ。勇者の場合は傷じゃないからどうなるかわからんけど」

「そ、そんなことに……⁉︎」

「ああ、なりかねない。キミの魔法の特性はせいぜい、傷や風邪、疲れとかそういうのにしか効かん。魔力に思い込みは通用しないし、無知は罪になる。鎮痛効果はないからね」


 過去にとんでもない失敗をしていたかもしれないという事実にリアリは震える。

 それでも、人智を超えた力を使えるというのは羨ましいとシュンは思った。きらきらとした目を女医に向けると、


「ーーちなみにゼリューさんも魔法使えるの?」

「無理」

「きいてた話と違う!」


 矛盾した返答にシュンはつい叫んでしまう。


「まほううんぬんの話は人によりすぎる。十人十色以上に百人百色だ。ひとりひとり個性や才能がちがう。」


 ゼリューはやる気なく、今度はさっきと反対の手を白衣のポケットに突っ込んで言う。


「たとえ水に関する系統でもリアリは治癒、ニカは水合成ができて、ネフカは身体強化と、王宮内でもひとりひとり違う。そしてそれぞれの感覚を勉強して治癒魔法も水合成も身体強化もできる、それで様々なことをするという職を一般的に魔法使いという。身体強化は未だに方法が発見されていないらしいが」

「やっぱり魔法使いいるんだ!」

「ああ、ボクは魔法は使えないが、魔力は体内に流れている。この魔力のおかげで免疫力と自然治癒力が常人より強い、超健康人となっているわけだ。有害物質の分解も早いので、飲酒喫煙は趣味以上にボクの長所でもある。」


 自分の話だと得意げな顔で語るゼリュー。

 こう見えてポケットの中でライターに触って遊んでいた。


「それとは別に……結局のところ、勇者さまに魔法が効かなかったのはどうしてですか?」


 女医のナルシズムをどうでもいいというように受け流して、リアリは話を振り出しの方へ戻す。


「ついさっきも言ったが、この世には魔力を持っているのと、持っていないのがいる。魔力の持ち方というのは謂わば体質のようなもので主に遺伝によって決まるが、魔力を持っていないのは基本的に遺伝子の欠損で、先天的な異常といった形だ。そういった人物は瞳に自身の魔力の色が無いので、必然的に黒色になる。」

「パツパチちゃんがそうでしょうか」

「……面識がないのでボクにはわからんが、むしろヒトというのは魔力がなくても生きていける。それどころか生物は老いると共に段々と魔力を失っていくらしい。話を戻すが、魔力を持っていない生物は体内に魔力が流れない。根本、質から違うんだ」


 女医の瞳の色は一見黒っぽいが、よく見れば紺色であったりする。魔力を持っているかの判断材料は意外にとても少なそうだ。

 語りながらついにライターを取り出して、煙草に火をつけて、一応換気扇の方を向いて一服し、耳をよく傾けている二人に反対の手の指を一本立てながら、


「例えるなら、金属は電流を通すが木材は電流を通さないだろ? それと一緒で、体質そのものが別物なんだ。」

「なるほど、それで……」

「電流を通す木材があったらどうなるの?」

「ボクの比喩表現に文句あんのか?」


 手のひらを女医に向けさらりと知識欲にまみれた鬱陶しい子どものような質問をするシュンに、ゼリューはコホンと咳払いをして。


「ーーそして、勇者という存在は絶対的な後者で、身体にも頭にもその概念は無い。何故ならば勇者の元いた世界には魔力という概念すらないから、必然的に魔力は流れていないし、もちろん魔法も使えない。たとえ勇者の虹彩が青でも黄でもな。……。」


 予想はしていたが、やはり魔法は使えないとはっきり知って、シュンは心の中で少し落胆する。

 女医は再度煙草を咥えようとして、何かに気づいたように普通に持っていたそれに視線を落とし立ち止まるように固まる。立ち止まった理由の半分は、それについてではなかった。


「とりあえず、謎が解けてよかったです。痛みを抑える目的で使うのはよしたほうがいいんですよね」

「……んぁ、うん」

「わかりました、大切なことを教えてくれてありがとうございます。」


 にっこり笑顔で丁寧に礼を述べるリアリに、ゼリューはなんだかうわの空な様子で、ちらりとシュンの顔を見てコンロの前に帰っていった。

 そんな女医の様子をシュンは疑問に感じていると、背後で扉の開閉音がして振り向く。


「おはようございます。きょうも早いですね」


 銀髪の青年のニカだ。その後ろからひょっこりとニィティラが顔を出して「オハヨ」と挨拶するが、距離が遠すぎてカウンターの方だと何も聞こえない。

 騎士の二人はシュンたちのいる方へ歩き、


「朝食はもう食べたんですか?」

「はい。そのあとなんかゼリュさんに魔法について色々教えてもらってました」

「キミが言うから教えたんだろー!」


 ニカの質問にリアリが適当に答えて、厨房の奥からゼリューが叫び、回ってニカがあははと笑う。なかなか賑やかな状況である。

 ちなみにニィティラは厨房ですでに朝食の準備を進めていた。


「自分の魔法について理解が深まって良かったですよ」

「ーーそういえば、さっきの話でニカさんの、その、みずごうせい? って言葉が出てきて、どういう魔法なんですか?」


 話には出てきたがそれについて細かく訊けなかったので、本人が今ここにいてちょうど良いと思った。

 シュンの問いかけに、ニカは少し驚いて頬を掻きながら


「水合成っていうのは単純に、大気中の水分子と酸素を僕の魔法で集めて、水を生成することを言うのですが、その……、!」

「みせて。」

「姉さんが言うの?」


 見せた方が早いのかな、と呟く前にニィティラに透明のコップを頬に押しつけられるニカ。コップは洗ったばかりらしく、細かい水滴がついている。ガラス製っぽいのでグラスというべきかもしれない。


「じゃ、じゃあみせるから持ってて」

「ン」

「もうちょっと下」

「ン」

「もうちょいこっち」

「はよしろ」


 漫才のように会話をしながら、ニカはニィティラの持っているグラスの高さ、位置の調整をする。どうやら魔法を使うのに諸々のこだわりがあるらしい。


「動かないで、溢すから」

「ン」


 そう言って、コップの上に手をかざす。

 ニカが目を瞑って数十秒すると、手の真ん中あたり、人差し指と中指の付け根の間くらいからグラスに向けて数ミリの間隔をあけて、光の球のようなものが発生しちょろちょろと水が出る。

 本物の魔法を目の当たりにして、シュンはおぉ、と感嘆の声を漏らす。

 勇者はグラスいっぱいに溜まる水をしっかりと見届けて、きらきらとした視線を青年に送り、


「すごい! ほんとに水出た!」

「えぇ……っと、ただ水が出るだけですよ……?」


 ファンタジーを目一杯に摂取できて興奮しているシュンに、ニカは困惑気味だ。隣のリアリは微笑ましく見ている。


「でもすごいっ。その水って飲めるの?」

「やめた方がいいぞ。水分子と酸素だけで出来ているから、それは純粋な純水、完璧な水だ。普段飲んでいる水は水以外にも様々なものが入っているが、純水は不純物が一切無くきれいすぎて逆に腹を下す可能性がーー、……」

「え?」

「え」

「えっ」

「ヱ。」


 ニカ、シュン、リアリ、ニィティラの順番で同じ感動詞を呟く。

 煙草片手に女医がカウンターから顔を出したときにはもう遅く、ニィティラが空のグラスを手にしていた。


     *


 ーー二日目も結局、何の収穫もなかった。

 あれからひとりで図書館に行ってみたが、やはり誰もおらずそこの司書にはなにも聞けずじまいだった。それでも情報収集ができればと思い試しに適当に本を手に取って開いてみたが、読めずに断念した。

 その後は昨日とほぼ同じような感じで、中庭(ベランダ)に通りかかった際にネフカが犬の散歩をしようとしていたのでそれに加わり、夕食を摂って、記憶の中をまさぐりながら身体を洗って、八方塞がりの現状に延々と苦悩しながら床に就きーー。


 気づけば最終日だった。


 起きたばかりというのは何も考えつかないものだが、焦燥がじわじわと脳を支配していく感覚はあった。

 寝台に座って昨日までの苦悩を延長していると、ネフカが勢いよくドアノブを破壊しながら部屋に入り、


「おはようございます! きょうは聖教堂の方へ行きませんか⁉︎ ……あれっ」


 自身の手中にあるものを見て、一気に青ざめる騎士団長をよくわからない感情のまましばらく慰める時間が続いた。


     *


「あれが聖教堂です。ずっといまの勇者様に見せたくて、ここ最近は夜眠れなかったんですよ」

「そんなにですか」


 興奮気味に丘の上のものを指さすネフカに、シュンは困惑の反応をする。

 朝食を摂った後、王宮を出て立方体が段々と少なくなっていく通りをかなりの時間歩いていくと、また微妙なビスマス結晶のような立方体と直方体の集合体のような歪な建造物が見えてきた。小さな王宮のようだとも思う。いつもながら植物にまみれている。

 第二ビスマス王宮は丘の上にあり、行き着く道中の土地に様々な形、大きさの石が刺さっていた。続く小道を一列で辿りながら、疑問に思ったことをシュンは素直に口にする。


「これは……おはか?」

「はい、トペリの人は死んだら大抵ここに入ります。挨拶をするときはお花を持ってくるんですよ。」


 一緒にきていたリアリが背後で答える。

 それぞれの石のまわりには花瓶が置いてあり、花が挿してあったり、枯れていたり、倒れて割れてしまっている花瓶もあった。墓ひとつひとつの間隔もばらばらで、故人へのおもいかたの形はテキトーのようだが、一見だけしてそう思うのは早とちりかもしれない。


「夢の中で出会ったら来るんでしたっけ?」

「基本的にはそうらしいですが、急にそのひとを思い出したときや、会いたいときにいつでも来ていいらしいですよ。……とは言っても、私も大事なひとをなくしたことがないのでわかりませんが。でもたぶん、生きてるひとが満足できるやり方でいいと思います。」

「……」


 やはり、テキトーであったがそれが適当であった。王宮に勤める二人は孤児で、親戚や先祖の墓参りにいくということはないのだろう。

 ふわふわとした会話を聞きながら丘をのぼり、三人は聖教堂の中へ足を踏み入れる。


「ここは、昔の勇者様が当時生きていた頃のお部屋が展示されているんですよ。今日はそのお掃除をしに来ました。」

「へ? は、え?」


 入った途端、斜め上以上の説明を受けてシュンは固まる。

 ちなみに内装は小さな礼拝堂で、真ん中の通路を長い椅子が挟む見たことのある形の空間で、奥の側の左右の壁に扉がついていた。それと天井の照明以外は特に何もなく、殺風景でさびれた空間である。


「今日は休館日……休堂日? ですので、お掃除をしにきたんですよ。ここは王宮が直接運営しているので」

「それもはや歴史資料館じゃないですか」


 言葉選びに悩むネフカにシュンは突っ込む。

 確かにこの様子だとここで葬式などをする訳ではなさそうだ。この空間の意味とは……。


「そう、勇者様のいる世界の研究のために残している重要な文化財なのです。勇者様というのはひとりひとりが英雄なのですから、記念として王宮にいたという形を今日(こんにち)までに伝えるのは当然のことでーー」

「はい、勇者さまは廊下の雑巾掛けをお願いします。」

「ままま待ってくださいリアリちゃん⁉︎」


 勇者過激派の長話を無視して、奥の右の方の扉から出てきたリアリが持ってきたバケツをシュンに手渡そうとする。


「勇者様に雑巾掛けをさせるつもりですか⁉︎ 勇者様が汚れちゃいますよ!」

「掃除はもともと汚れるものでは?」

「わ、わたしがやりますから! 雑巾掛けは私がやるので、勇者様はーー」

「じゃあ窓拭きをやってください、こっちに窓用の雑巾があるので。」

「リアリちゃん窓も、窓も私がやりますから……‼︎」

「ネフカさんは窓割るのでやらないでください。」


 言いながら今度は違うバケツを持ってくるリアリ。焦るネフカと突然バケツを持たされて困惑気味のシュンに、


「今日は三人しかいないので、さっさと終わらせますよ。勇者さま、」

「はい」

「水道は外に出て右の方にありますので。」

「あぁ、はい」


 それだけ言い残して奥の扉の方へと姿を消す。

 残った勇者と萎んだ表情の騎士はいったん顔を見合わせ、


「……それじゃぁ、お水汲みにいきましょうか」


 かくして、三人だけで歴史資料館での大掃除が始まった。


     *


 あのあとネフカは「いっしょだとお仕事を忘れてしまいそうなので」と、別々で作業をすることとなった。リアリは展示物にはたきをかけている。

 シュンはというと、王宮のとあまり変わらない雰囲気の廊下で、縦に長い窓に難航していた。まず窓がシュンの身長の二倍ほどあるので当然背伸びをしても届かない。仕方がないので届く範囲だけを一所懸命に磨いている。そのせいか一枚の窓にかける時間が長く、背伸びしたり跳ねたりの作業をしていた。たまに外で墓参りにきたらしい人影に気も取られていたりしていた。


「勇者さま、」

「ーー! な、なんでしょう」


 突然リアリに声をかけられてシュンは肩を震わせる。彼女は茶色の包みを抱えており、


「お昼にしましょう。どこまで終わりましたか?」

「もうそんな時間……? えっと、まだ一階の廊下のしかーー。」

「そうですか、勇者さまはお仕事が丁寧なんですね。ネフカさんがこっちで待ってますよ。」

「えぇっと……」


 笑顔で温かい言葉を投げかけられ、窓の上半分を磨けなかったことに罪悪感を感じながら、雑巾をバケツに投げて彼女の後ろについていく。

 二人の今いる廊下はさっきの礼拝堂の隣で、礼拝堂に入り長い椅子の一つにネフカは座っていた。その隣にリアリが座り、その隣に少し距離を置いてシュンが座る。

 リアリは茶色の包みをシュンに差し出して、


「勇者さまが先に選んでください。勇者さまの好きなものがわからないまま選んでしまったので……」

「え、いいんですか……?」

「はい。この際に勇者さまの好き嫌いがわかればと」

「私も勇者様の好物が知りたいです!」

「それじゃあ、先に見てみます」


 二人の視線と言葉の圧が凄まじく、押し流されるままに包みを手に取り開けてみる。

 そこには、おとといラディアに買ってもらったサンドイッチのようなものと、ドーナツかベーグルのような円形のパンのようなものとーー


「お、おにぎり……⁉︎ おこめ……!」


 遥か弥生時代の渡来人から伝わりし日本人の歴史と遺伝子を支えてきた究極のそれがふたつ、そこにはあった。

 白い粒の集合体には海苔のような物体が巻かれており、懐かしく香ばしい匂いがシュンを誘う。


「これーー、ほんとに食べていいんですか?」

「いいですよ。勇者さまはお米が好きなんですか?」

「毎日のように食べてたので……安心感がすごいというか。」


 震える手でそれを手に取りながら言う。おにぎりの下半分は薄い紙で包まれていた。

 朝食の麺類にも懐かしさのようなものは感じたが、米は爆弾級の安心感がある。空気も風景も何もかも違う異世界にいて、こんなに心が揺れ動いたことはない。ちなみに朝食はパンより米派、麺より米派だ。


「おにぎり、おにぎり……! 具はなんだろう……?」


 赤い目をきらきらさせて、口内で唾液の分泌量を増やすシュン。

 そんな隣をリアリとネフカが微笑ましく思いながら、それぞれ昼食を選び全員が自分が食べるものを手にすると、


「それじゃあ、いただきます……‼︎」


 一旦おにぎりを膝に置いて、手を合わせてから食べ始める。

 「んー!」と喜びの声を心の底から漏らしながら、きちんと白米に含まれているデンプンを唾液でじっくり分解しながらーー


「んん?」


 何かの違和感につまずいて、素っ頓狂な声が出る。

 口に入れた瞬間は普通のうっすら塩の味がする、素材のもともとの味を生かしたおにぎりなのだが、思っていたものと絶妙になにかが違う。味が違うとひとことで言ってしまえば大雑把すぎる気がするが、的を得ているのも事実で。ただなにか、日本の米ではないと断言できる何かが存在するようなのだ。いや、そもそもここは異世界で日本など存在しないのだが。


「どうしました?」

「いや……おもってたのと少し違くて……」


 ベーグルのようなパンを食べながら、ネフカが訊く。

 さっきの高揚が消え、弱々しく言うシュンにリアリが食べているものを嚥下してから、


「たぶん、勇者さまの世界の作物を育てる環境や、育て方などが違うのでしょう。環境が大きな要因だと思いますが。」

「これはコシヒカリとか、ひとめぼれとか、ゆめぴりかとかあきたこまちみたいなおこめじゃ、ない、の……?」

「…………???」

「すべての用語解説をおねがいしますっ」


 ポピュラーな日本産の米の品種を唱え、ネフカがスカートのポケットから手帳を召喚した。

 目の前の米に対する期待が高すぎたことにシュンは気づく。

 ここはまず日本でないのだ。自然の中の化学反応は全て特別で、偶然この世界のどこかが日本の気候と酷似するなんてことはないし、コシヒカリやひとめぼれのような米もこの世に存在しないのだ。昔インドカレー屋に入ってライスを注文した際に、その米がとても独特な味だったことを思い出した。ちなみにシュンが普段食べている米はササニシキである。


「おこめ……」


 失望したように呟き、再度おにぎりを口に含み


「……うま」


 ただこだわりが拭いきれないだけで、味自体には文句はなかった。素直になれない。


「そ、そうだ、勇者様の世界のこともっと教えてくれませんか? さっきのやつもそうですし、ほら、ごはんを食べる前に手を合わせて言うやつとか……!」

「いただきますのこと……?」

「板を抱くんですか?」

「ちがう」


 シュンの気を紛らわそうとネフカが過去のことを掘り起こして質問する。リアリがそのまんまの予想を口にし、即座に否定すると


「いまから食べるものや、それを作った人にお礼をするみたいな……ありがたくいただくための挨拶みたいな……?」


 自身の習慣を疑問に思うことはないので、首を傾げながら説明をする。


「それをして食事をするとどうなるんですか?」

「……どうなるか、といわれるとどうもならないけど、ただごはんに対して、じぶんの生きる糧になってくれてありがとうって言うだけというかんじ、です」

「トペリではあまり聞きませんが、そういった礼儀作法の文化はたまに耳にしますね。シバフコフとか、食事の前はとても長いおいのりの時間がありましたし。」

「そういえばこの前遠征に行ってましたね……」


 礼儀作法という観点には気づかなかったと、シュンは納得する。習慣の深掘りも興味深い。

 「あれは大変でした」とネフカは苦笑いを浮かべながら、


「それに、歴代の勇者様の中にもそういったことを言う方がいる、というようなお話を聞いたことがあります。勇者様を通じて別の世界を文化を知ることができるというのは、世界が二倍広くなったように感じますね」


 わくわくとした面持ちで言い、持っていたベーグルに食らいつく。

 あまり聞かない表現がどういうことなのか想像しながら、シュンも持っていたものにかみついた。


 それから三人は黙々と食事をし、シュンが完食した際に「ごちそうさまでした。」と言うのを聞いて、手帳を再度開くネフカ。


「そっそれは……、いただきますのおやすみ版ということでよろしいでしょうか」

「おはようとおやすみと、こんにちはって会った人にさようならを言うのとは、少し違うと思いますけど……意味は一緒だし、どうなんだろう。」

「さすがにくどいです」


 底なしの知識欲に振り回されて、リアリは疲れたというようにため息をついた。


     *


「ふぅう、ようやく終わりましたね。二人ともお疲れ様です。」


 肩を回しながらネフカが言った。学校にあるようなほこりっぽいにおいのする掃除用具入れの扉を閉じて、三人は聖教堂の出口へと向かう。

 あれから一階の窓拭きを終えた後に、リアリから「展示室のは面倒なのでやらなくていいです」と言われ、途中から一緒にはたきで展示品をぱたぱたして気づいたら二時間が過ぎていた。床の掃き掃除もしないらしい。

 二階以上は似たような廊下に窓が並んでいると思っていたがそうでもなく、部屋の配置が歪なので廊下すらあまりなかった。部屋から部屋の繋ぎで一瞬だけ外に出たり、展示室の入り口が小さな子どもがちょうど通れるくらいの大きさだったりして、探検をするという心持ちだととても楽しかった。なお、一部の家具は当時のものを実際に展示しているらしい。


「そういえば勇者様、展示室でそちらの世界のものと似たようなものとか、なんか、ありませんでした?」


 帰路、一列になって丘をくだる一行。曖昧な質問を投げかけるネフカに、シュンは悩む。


「えっと……、あんまりよくわかんなかったです……」

「なっ、そ、そうですか」


 過去の勇者の私室の展示といっても、この世界での生活を切り取っているので当然この世界の家具、道具で再現されている。なので家具の店でモデルルームをただ見歩いていただけという感覚に近い。

 そもそも異世界召喚の仕方というところから、勇者本人とその持ち物だけしかこちらの世界に来ないので、あの世界の遺物から何かを知るには情報が少なすぎる。衣服のことからなら何か分かりそうではあるが。


「やっぱり、昔の人の伝記とか、解説の紙っぽいのが読めたらまだ何かわかったかもですけど……」


 展示室のひと部屋ひと部屋のテーブルや壁に紙が貼られており、各勇者の紹介のような解説の長文が書かれていたのを思い出して言う。


「たしかに、勇者様はこちらの文字を知らないですね。うぅ、ごめんなさい……」

「いや、イーー家具屋さんを眺めてるみたいで楽しかったですよ」


 某北欧スウェーデンの家具屋を思い浮かべながら、解説するのが面倒くさいので言う直前に飲み込んだ。逆にここでは言った方が良かったかもしれない。

 ここに来るタイミングを間違えてしまったと後悔するネフカに、今度はリアリが、


「じゃあ勇者さまが文字を読めるようになったら、また来ましょうか。」

「! 確かにそうです! え、でもリアリちゃんそれただ人手を増やしたいだけじゃ……」

「ただでさえ王宮は人不足なのに、こういった文化財の管理もするなんて忙しすぎますよ。働くひとが勇者さまかどうかなんて関係ないです。」

「関係なくないですよぉ」


 ネフカの縋るような言い方に、シュンは小さく笑う。

 二人の会話から、ネフカはシュンを勇者として接するのに対し、リアリはシュンを個人として接しているのがわかる。その価値観の対立を見るのが楽しい。


「はぁーーそうだ、帰りにお夕飯の食材を買ってもいいですか?」

「きょうはネフカさんが当番なのですか?」

「はい。最近はずっとニィたちの優しさに漬け込んでしまったので、今日こそきちんと、腕によりをかけて勇者様に振る舞おうかと」


 自信満々に言うネフカに、リアリは一瞬だけ歩みをやめそうになる。

 王宮の食の事情はたしか、休日は夕飯のときだけ当番制だった。


「……、でもネフカさん、きょうはたくさんお掃除してお疲れでしょう? たまにはごはんをお持ち帰りしませんか?」

「大丈夫ですリアリちゃん、私は体力には自信がありますので。」

「でも明日から平常運転ですから、さすがに平日前に無理をするのは身体に悪いですよ」


 焦りを笑顔で隠して心配(説得)をするリアリ。

 シュンは一昨日ニカが姉の料理の腕をくそうんこと評価していたのを思い出した。


「それにまた、勇者さまの好きなものを知れますし。時計塔爆破の事件とか、勇者さまを襲った犯罪集団の調査とかも明日から始まりますし」

「そう考えると大変ですね……」

「あと帰ったらすぐに食べたいでしょう? いつもニィさんのお説教とわんちゃんのしつけで忙しいでしょうし。最近勇者さまのおかげで夜寝れてないって聞きましたし、あ、それに勇者さまの歓迎会として祝い菓子も買っていきましょうよ、あとお酒とかも買っちゃって、ね?」

「たしかに、祝い菓子は大事ですね。作るのにも時間がかかりますし」

「ですよね、ですよね。それに、聖教堂にまたくるのと一緒で、しっかり準備してから勇者さまに振る舞った方がいいと思います。」

「なるほど、一理以上に二理も三理もありますね。」


 いつも以上に早口で壮絶な雰囲気がする。シュンはまだ何も知らないが、そこには生命の危機のような強烈な何かが存在するのだろう。

 リアリの説得を完全に飲み込んだネフカは「じゃあ、」と前置きして、


「今日は色々買って帰りましょうか。」


 そう言った途端、リアリが「ぃよしッ……!」と小さく呟いたのが聞こえた。


 それからトペリの繁華街へと寄り道をし、ジャンクフードっぽい料理やおにぎりをたくさん買ったりした。荷物のほとんどはネフカが抱えており、よほど力に自信があるのかこっそり酒が入っているらしい瓶状のものをさらりと買っており、リアリにこっぴどく叱られていた。ついさっきの説得の文句はただの説得の文句であったらしい。

 そして、シュンは先ほど話題に出てきた“祝い菓子”とやらの並んだショーケースの前にしゃがみ、赤い目を幼い光で満たしていた。


「け、ケーキだ……!」

「勇者さまの世界ではけーきと言うんですね。こっちではけーきは祝い菓子と言って、誕生日などの記念日に食べるんですよ。そうじゃなくても食べますけど」


 色とりどりで様々な形をしたそれをワクワクした表情で眺めるシュンに、リアリが母親のように言う。


「どれか好きなのを一個、選んでいいですよ。まぁ、みなさんの分も買うので一種類ずつ買うか、大きいのを一つ買うかという感じですけど」

「ーーホール! ホールで買お!」


 大きいの、と聞いて視線を巡らし、端の方にあった白い、苺の多く乗ったホールケーキを見て叫ぶ。


「ほ、ほーる?」

「後者! あのでっかいの!」

「ああ、わかりました。すみませーん、」


 人差し指をホールケーキに向けて言うと、リアリがショーケースの奥にいる店員を呼んだ。

 リアリが注文して、ショーケースの中のホールケーキが回収される様子をしっかりと見届ける。店員の女性がそれを硬い紙製の箱に入れ、リアリが金額を払い終わった後にそれを渡しーー


「ーー?」


 シュンが立とうとした途端、一瞬だけ視界の中に入った既視感の正体が気になって、地面を見つめる。整備されていない土の道に、黒い石のようなものがあった。

 拾い上げて見てみると、赤と黒が乱雑に混ざった、宝石のようなーー


「石ですか?」

「! いや、その、きになって……」


 ケーキの箱を持ったリアリが横から話しかける。咄嗟に隠すように手のひらで包み込むが、既にバレている。


「なんだかそれ見たことあります。ルーマおじさんが集めていたような……。勇者さまも石が好きなんですか?」

「えぇ、うん」


 てきとうに返事をして、ここ最近の独りを苦しめた憂鬱の犯人をポケットに入れる。話的に、この石について触れるというだけならセーフらしい。つい危機感が薄くなって、危うく契約違反を起こすところだった。


「そういえば、ネフカさんはどこに……?」

「あれ?」


 気づけばいない騎士団長に、リアリは「もう……!」と少し苛ついた様子で、


「近くに酒屋さんがあるので、そこに行きましょう。あの人も結構お酒好きなので」


 それだけ言って歩き出した。

 シュンはポケットの中のそれにもう一回触れて、憂鬱と共に彼女の背を追った。


     *


 結局酒屋にいたネフカをリアリが怒鳴って、瓶が二本増えていて、それでも平気そうに荷物を抱えて歩いていた。けれども荷物を抱える術がもう無いので、ケーキを運ぶ係はシュンになった。ちなみにリアリはネフカに酒を買った罰として荷物運びをさせていたので、何も持っていない。ネフカはもっと反抗心を抱いていいと思う。

 だんだん赤くなっていく空に焦燥に似た何かがシュンの中で加速しながら、三人は無事王宮に着いた。


「それじゃあ、私は子どもたちを上に連れてきますので。」


 リアリはそう言って、建物の周りを囲む、広い庭の遠くで遊んでいる子どもたちの方へ向かった。

 そういえば、食堂で子どもたちの姿を見たことは一度もなく、疑問に思ってネフカに質問する。


「あの子たちは普段どこでご飯を食べているんですか?」

「食堂が実は一階にもあって、みんなで作ってみんなで食べるんです。今日はたくさん買ったので、王宮のほぼ全員で食べますけど」


 以前王宮で働いているメンツは食事を当番制で作っていると聞いたが、そこで働く前の場に料理の腕を磨く機会があったらしい。


「食材を切る係とか、煮込む係とかありましたけど、何故か私はずっと盛り付けと皿洗いばっかでしたね。本当に何故かわからないんですけど、弟たちにずっと役を取られていました」

「そう、ですか……」


 悲しい話だが、本当に料理の才能がないらしい。

 良い感じの相槌が打てず、申し訳なくなる。


「でも、お料理は楽しいので続けて、それでいつか勇者様に食べてほしいです。」

「た、たのしみにしてます」


 将来の夢を語るネフカに、とりあえずそれらしい言葉を返す。彼女は大変な勇者ファンであるが、シュンはまだ自身が勇者であるということにも慣れていない。

 シュンは悩んだ視線をそらし、対照的にネフカはにっこり笑顔で。


「ほんとーですか? えへへ」

「ーーーー」


 謎に自信過剰なところも、彼女の言う「いつか」が来ない可能性があることも、色々なことに対して疲れてしまっている。

 特に後者に。


「ーーあ、勇者様。それ、開けてくれませんか?」

「? はい」


 王宮、教会の入り口の横に見るからに郵便受けらしき四角い細長い鉄の箱があり、それをさしていると思いシュンはその横向きの蓋に手をかけると、


「ぅわ、わぁああ……?」


 雪崩のように何十枚も地面に落ちていく手紙に、困惑の声を出す。数秒経って地面には小さな山ができた。


「最近忘れていましたが、やっぱりいっぱいでしたね」

「えっと……、これは?」

「ほとんど騎士団というか、私宛てです。ここの騎士団でなく、外国の軍隊などに入らないかというお誘いのお手紙ですね」

「それがこんなに……」


 葉書サイズくらいの封筒を一枚てにとって、表と裏をみてみるがやはり字は読めない。便箋を一枚一枚見ているだけで時間がかかりそうだ。


「はい、最近は全然読んでいませんが。外国のは給料がすごい良いにはいいんですが、多分戦争とか害獣の討伐に動員されると思うので、死ぬ気は全くないし基本無視してます。家族もいますし」

「…………」


 ゼリューがネフカの魔法はまだ見つかっていないと言っていたのと、ニィティラが彼女のことを戦いの天才と言っていたように、その実力は世界に轟くレベルなのだと知る。

 実際その才能と実力は相応の場で使うべきだとも少し思うが、どんな人生を歩むのかも志を持つのかも本人次第だ。


「私は昔からこうなのでよくわかりませんが、とにかく戦いに向いているみたいで……でもやっぱり迷惑だなぁと」

「そりゃ、そうですよね。毎日こうなんですか?」

「毎日ですね。来た始めの頃はすべて読んでいたのですが、脅迫状まがいのものでもう読まない方がいいかと思い、それからは全部捨ててます」

「ーー脅迫状?」


 既視感のある単語に、シュンは訊き返す。


「たまに来るんですよ。わたしたちの軍に入らないと、家族や友人が『契約』に因る病で死ぬというような文書が。古来の遺物で勝手に『契約』を行ったといい、強引に転職を進めようとしてくるんですよね」

「……なん、え、それはどうして解決したんですか?」


 一番のヒントが都合よく舞い込んできた。

 シュンの動揺の含んだ質問に、ネフカは素直に、


「もともと『契約』なんてしてないですからね。」


「ーーえ?」


 意外にも答えはあっさりとしていた。


「詐欺の手法の一種で、古来の遺物と『契約』を手紙でちらつかせて、相手を思いのままにするらしいです。最初に見た時は驚きましたが、私は孤児で本名はないし、いろいろな手紙で古来の遺物を持ってるなんて詐欺をしてくるので怪しいなと思って無視したら、結局いまのいままでみんな平和に生きれてるってかんじです。」


 『契約』を嘘だと信じること。それが唯一の打開策だと彼女は言う。

 確かに契約をしたという文章しか送られてこないわけで、実際にしたかどうかはわからない。


「えっと、ネフカさんは孤児で本名がないって言ってたけど、もし本名があって本当に『契約』がされていたら、どうするの?」

「は、はじめて勇者様に名前呼ばれました……うれしい」


 この質問は、会話はグレーゾーンにいる気がする。それでも、ポケットの中にある石は眠ったままだった。

 謎に喜んでいるネフカは一旦落ち着いて、


「そのときはそのときです。運悪すぎですけど、受け入れるしかないか、自棄になって全部めちゃくちゃにするとかくらいしか想像できないですね。『契約』はこの世界のことを絶対的にするものですから。」

「………………でも、そっか」


 独り言のように呟く。

 あの『契約』を越える方法など存在しない。そうであればもっと手前側、あれを疑えば彼が死ぬことも、あわよくばトペリが爆発することもない。

 嘘が正解だなんて、醜く気色が悪いと思うが。


「……それで、良ければこのお手紙を拾ってくれたらーー」

「ありがとう、ネフカさん。」

「ははははぇ⁉︎ わたしなにかしたでしょうか⁉︎」


 名前を呼ばれる次はお礼プラス名前に、ネフカの持っている荷物が揺らぎ。

 シュンは胸にケーキの箱を抱えながら教会の扉を開けた。


「すこし用事が出来たので、先に行ってます! ごめんなさい!」

「ゆ、勇者様? 用事ってーー」

「うんこです!」


 そう叫んで、シュンは王宮内を駆け始めた。

 どこかに必ずいる彼を捜す。彼の私室も何も知らないが、以前いた場所を記憶頼りに探す。

 階段をいくつか駆け上がったり下がったり。

 同じ廊下を行ったり来たり。

 外の通路から赤く染まる空に気持ちだけ見惚れながら、進んで。

 進んで、すすんでーー


「はぁ、はぁ、……みつけた。」


 息を上げながら、ようやくその後ろ姿がとある個室に入っていくのを見てーー


 シュンは赤い目を光らせた。


     *


 壁に窓も扉もない、とある廊下の突き当たりにある怪しい個室。ルーマの私室だろうか。

 とりあえずノックをしてみる。ノックをして数秒、出る気配はなく、


「おじさーん、王さまのおじさーん」


 名前を忘れてきとうに呼んでみる、しかし結果は変わらず。


「……おじさん。いまいる?」


 友人に呼びかけるように言うが、これも変わらない。


「…………」


 しばらく無言で待ってみても、反応はなく。


「はいっていい?」


 シンプルにそれを言って、数秒後。


「ーー入りなさい。」

「!」


 ようやく許可が降り、シュンは部屋に入る。

 廊下からの光だけがこの部屋を照らし、シュンの影が王の壮年へと伸びていた。部屋は薄暗いが、ひどく片付いているのがわかる。整えられた寝台、なにも物が置いていない机の上、両開きのタンスは開けっぱなしで中には何も入っていない。

 そして、真ん中奥に設置されている机の前の椅子に、王は座っていた。


「もう、準備は出来ているよ。」


 すべてを諦め切ったように、掠れた声で弱々しく呟くように彼は言う。


「いや……あなたを殺すつもりはもともとなくて」

「ーーーー」

「これを乗り越えるかもしれない方法を知ったんだ。……聞いてくれる?」


 既に屍のように返事のない壮年に、シュンは自分勝手に話を始める。


「端的に言うと、手紙の差出人は『契約』をしてないかもしれなくて、」

「ーーーー」

「それに賭けた方がいいかなって。」

「ーー…………もし、ほんとうに『契約』が行われていたら?」


 静かな低い声で、ルーマは訊く。

 シュンは待っていましたと言わんばかりに口角を上げて、


「そのときは、一緒にめちゃくちゃになろうよ。嘘をつき続けるのも、死ぬのも、どっちも嫌だから、この『契約』を嘘にしようよ。」


 真実かどうかではなく、考え方の問題。

 シュンも事実に囚われた人間であったが、ネフカの言った通りの事をそのまま述べる。偶然もここまで来れば都合がいい気がしてきた。

 そして、この救いは伝染すべきだと思った。


「ーーーーそうか」


 ルーマの返答はただ、


「であればわたしは、」


 ただそれだけだった。


「それをほんとうに、真実にしてしまったのらしいーー」


「ーー!」


 赤い何かが、彼の周りを囲っていて。酷く落ち着いた声の後に、爆発音のような、破裂音のような、聞いたことのない、けれどグロテスクなことが起きているようなのが理解る音がして、気づけば、目の前には人間だったものだけが残っていた。

 それが、瞬きをしている間に起こっていてーー


「ぇ……え?? え???」


 シュンは当然困惑の声を漏らす。

 肢体の形をとどめていないそれは皮膚上の無数にある穴から大量の赤い体液を撒き散らしており、空間内も固まる勇者も、赤血球という成分でできたそれに一部、染め上げられていた。

 嗅いだこともない強烈な鉄の臭いが充満する。

 視界、嗅覚、聴覚から摂取した不快感が脳裏にこびりつく。


「……ぅ、」


 突如、頭蓋骨の中で脳味噌をぐるぐるに掻き乱されているような感覚がして、地面に倒れ込む。近くでまた柔らかいものが潰れた気がする。シュンの虹彩は光ったままで、瞳孔の黒色が糸がほつれたようなグルグルの形状になる。

 そして、何かが食道を込み上げてくる感覚がして、


「ーーぉ、おぇえええええっ‼︎」


 吐き出す。最高に気分が悪い。脊髄にまで不快がいる。脳の内外が負の感情で満たされている。脳漿が脳漿でないものでできている気がする。視界が黒いノイズで覆われていく。「いきて」「しなないで」と言う雑音と騒音が延々と鼓膜のトランポリンで遊んでいる。脳内の視界が様々なビビットカラーを映していて見たくない。鉄の味は絶望的に苦手であることに気づく。鼻が物理的に捻じ曲がっている感覚がする。無重力の感覚への期待を忘れる。

 しにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいしにたいで脳内が埋め尽くされる。


「はぁっ、はぁ、ぁ、はぁ……っ」


 呼吸をするのが苦しい。それでも生命の本能が急かしてくる。

 どすぐろい血液がシュンの口の端を垂れる。

 絶望以上のなにかの深い不快の渦中にいる。


「ぁ、はぁ、は……ぁ。」


 柔らかすぎて、ぐちゃぐちゃとした何かに触れる。

 それどころじゃない。

 むかむかやいらいらなんて薄っぺらい擬音では足りない。

 懐かしいように、ただひたすらしにたいが反芻して。


「は、はあ、はぁ……………はぁ……、」


 正常な呼吸な仕方をやんわりと思い出したところで、


「ーーやぁ、調子はどう。」


 背後から聞き覚えのある、訊いているのに疑問符のない声がした。足音は無く、無からその声は生まれた気がしたが、植物の蔦が絡んだわかりやすいシルエットが目の前の床に伸びていたのがわかった。


「きちんと『契約』の通りに動いて、力を手に入れたんだね。」


 無さえ含んでいない純粋で無機質ないつもの言い方で、シュンの目の前に腰を下ろして言う。

 シュンはようやく五感のほとんどを取り戻して、けれど身体は床に伏したまま、血のような真っ赤な瞳だけが男を睨むように見る。


「……なんで、……あの『契約』のことを知っているの……?」


 訊きたいことは山ほどある。震え、掠れる声でシュンは言う。


「だって、あの手紙はぼくが書いたんだもの」

「ーーえ」


 全ての元凶だと、奥の人物を精神を地獄へ追い込み、果てには肉塊にまでした犯人だと、男はただ自白する。

 そこには何の色もない。


「なんでこんな、こんなことしたの……? こんなむごくて、きもちわるくて、ひどいことしたの……? このけいやくは、なんのためなの?」

「ぼくは手紙を書いただけで、実際にぼくは『契約』をしていないよ。」

「……は?」


 身体に力が入らない状態で、へにょへにょの声音で問い詰めるように訊くのに対し、男はあまりいつもと変わらない調子で、


「ぼくはただ、カレにむかしむかしの筆を貸して、きみの本名を教えてあげただけだよ。それでカレが、きみと『契約』をしたというだけの話。」

「…………だけ、じゃないよ……」


 人の心を冒涜し、操り、それでなんの罪悪も感じていないような様子が、ひどく癪に障る。だけ、のひとつひとつが重い。

 何故か男の持っている古来の遺物をルーマは使って、それから彼はーールーマは、どうして死んだ?


「じゃあ、あのひとは……?」

「きみが殺したんだよ。」

「ーーーー???」


 濡れ衣、言いがかり、そんな言葉が思い浮かび、シュンの脳がまた混乱する。その見出しは納得がいかない。


「手紙の内容は、きみがカレを殺すことでトペリが爆発を免れるということと、その内容から逃げることが出来ないようにするための枠がある、というただの文章だ。それを、カレが勝手に信じてしまっただけだよ。実際カレは本物の『契約』に踏み込んだ。それによって、きみは運命の通りにカレを殺しただけだよ。」

「うんめいの……とおりに……?」


 あの手紙の内容が実際は嘘だったこと、それをルーマが真実にしたこと。そこまでは理解る。

 憎しみを持って呻くシュンの背後に、ジアはまわり


「そう、『契約』はこの世界の運命を変える、願いを叶える力なんだ。そもそも、『契約』の完全な違反、実行されないということはあまりないんだ。」


 ひどく抽象的な話をしながらシュンの肩を持って、上体を起こし


「カレは手紙の内容を信じ込み、きみに殺されようとした。けれど、きみに殺意はなかった。ーーだから『契約』がきみの中で魔法のような新しい力を芽生えさせて、カレを殺すようにしたんだ。」

「ーーーーなにいってるか……わかんないよ」


 複雑な話を理解する気力もない。

 力無いシュンの背中を身体で支えながら、今度はその黒い血にまみれた両腕を掴んで


「勇者のきみは魔法だけど魔法じゃない、フシギナチカラを手に入れたんだ。てのひらを見て、針のような物体をそうぞうしてみて。」


 背後の人物に失望と不信感を感じつつ、しかしとてつもない疲労で単純になっているシュンはその言葉通りを試してみる。

 細くて長い、小さな形状のそれをひとつーー


「…………さっきの、」

「そう、これがきみの、きみだけの特別なまほうさ。きみの意思で、きみの思うように創って動かせる、きみだけの力だ。」


 細長い菱形の形状をした赤半透明の針がひとつ、自身の手のひらの上で浮いている。ジアの言う通り、この存在の全てのようなものを無意識的に知っており、体を動かすのとほぼ同じ感覚で回したり、それっぽくふよふよさせたりと操作できる。まるでリモコンの操作ミスを抜き取ったラジコンのような使い心地だ。

 この力を祝福するように、ポジティブな言葉選びでジアは言った。


「ーーーー」


 確かに、特別な力に憧れていた。

 目の前の惨状を見る。

 ヒトであったという形も、声も、体温も、命も存在も奪ったのはーーこの針なわけで。

 この魔法モドキは誰かを殺めるための道具なのだと、理解する。


「ーーどうして、」


 針をめいっぱいの力で握りつぶしながら、シュンは呟く。針は手の中で粉々になるかと思いきや、形を変えた途端に消え失せる。


「どうして、こんなことしたの。ぜんぶ、ぜんぶジアさんが仕組んだってことはわかったからーーなにをどうして、こんなことをしようとおもったの。」


 すぐ隣にあった、足跡のついた紅白の残骸を見つめながら低い声で訊く。

 背後の男はやはり何の感情も無く、


「きみを安全かつ、平坦に狂わせるためだよ。」


 シュンの両の瞼を触りながら淡々と言う。


「勇者というのも、瞳の色に沿って力を持つ。この世界のルールだ。きみはこうした方が生きやすくなる。たったそれだけだよ。」

「……言い訳みたい」

「ぼくは基本的に、本当のことしか言ってないよ。」


 御託ではなく説明だと、御託のように、感情のない機械のように。


「たしかに世界は単純じゃない。だからこそ、この世界を救う準備をするのは大事でしょ。」

「ーーーー、」


 きっとその猛毒のような理性には倫理というものが入っていないのだろう。

 シュンは自身の瞳を包み込むように動く冷たい手を払って、逃げるように距離を置く。身体が少しずつ回復してきた。


「それでも、おかしいよ。こんなことゆるされるはずないよ。ひとをころしたんだよ? どうしてそんなふうでいられるの???」


 けれど頭の中は不可解と不純物のできごとで混乱したまま、形の整っていない質問をぶつける。


「ぼくはその人物のいのちと、この世界を天秤にかけたら、後者に傾いたというだけだよ。この世界がいちばんたいせつで、いまのこの世界にはとにかくきみが必要なんだ。」

「ーーーー」

「その問いかけの答えは、これでいいよね。」


 上がった口角は下がらず。言葉という存在は情報を共有するためだけの手段だと認識しているというような言い方だった。

 最善の策であれば、犠牲は厭わないと。この犠牲の意味さえ、不可解だというのに。

 ーーようやく、理解した。


「うん、……もういいや」


 震える脚で立ち上がり、だるいからだでふらつきながら部屋の出口へと向かう。さっき血を大量に吐いて、頭がふわふわする。

 幸いジアは通せんぼをせず、シュンに顔だけ向けて「どこにいくの。」と訊く。

 シュンはそれに無言で返答すると、


「じゃあ、さいごにきみとぼくがいっしょの色をしているんだってことだけ、おぼえていってよ。」

「……、それになんのいみがーー」


 廊下に出て、背後の声の方へ振り返ると、男は自身の瞼を縫っていた糸をするりとはずしーー


 血のように真っ赤な虹彩をあらわにした。


「意味はもう、わかったでしょ。」

「……………………………………………………」


 シュンは咄嗟に、その瞳に、呑み込まれてしまうとおもった。

 視線をそらして口をおさえて苦しく咳き込み、また血反吐のようなものを吐きだしたのち。

 逃げるように、よろめきながらその場を後にした。


     *


 ーー男は、追ってこなかった。


 あれからシュンは王宮を出ようと思った。誰にも会いたくなくなった。ここにいてはいけないと、本能が言っているような気がした。

 二足歩行であるのに這うように、壁を手でつたい、たまに血を吐き出しながら進んだ。何故血を吐くのかわからなかったが、吐くとなんだか気分がよくなった。

 幸い誰にも会うことなく王宮内をくだり、教会の部分から外に出ることができた。

 そこからはただがむしゃらに歩き出した。喉奥で常に付き纏う不快感と、貧血で脳が浮いた感覚に慣れ、壁に縋ることなくしかしふらついた足取りで歩けるようになった。

 さっきの出来事で、思考の回転が止まなかった。

 ーーあの男にはきっと、感情がなかった。そういう意味で狂っていた。

 方法を考える際の、人の命さえ妥協しない倫理性が。ましてや、本当にこれが理に適っているのかさえ曖昧だった。狂人は本当に、何を考えているのかわからない。この殺人の意味は、こうして力を得た意味は、いまやるべきことはーー。

 そればかり考えながら、進んでいた。

 正解はどこにもない。だからわからない。

 あの瞳の色が記憶にこびりついている。自身も、あの男のように卑劣で己の思いのままに赦されないことをして、のうのうと生きていくのだろうか。それこそ狂っている。

 あの男の思いのままになってはいけない。狂ってはいけない。自分はまだ正しい倫理を持っている。あれの正反対にならないといけない。

 ーーそして自分は、人を殺したのだ。たとえ『契約』に則っていただけだとしても、この手で、この眼で、罪を犯したのだ。

 この赤が天性だというのなら、


「ーーーーそうか、」


 贖罪を、しなければいけない。


「しねばいいのか。」


 正解を、最適解をみつけた。

 生まれてきてはいけなかったという事実に気づいた。

 この世界に来て早々、あの少年とおかしな『契約』を結んだ理由に気づいた。

 心の中を常に蠢いている希死念慮が一番正しいのだと、罪人は生きてはいけないのだと。

 この世から去ることが、誰にとっても望ましいのだと。

 ーーシュンは立ち止まり、てのひらをかざして、例の赤い針を繰り出す。

 従順で、無機質で、使い勝手が良い。けれどその登場シーンは最悪だった。

 凶器で、凶刃で、ただそれだけのそれを、シュンは自身の首元に動かす。そう想像する。


「…………」


 目をつむって、自身の首を横に掻っ切るような想像をする。

 している。

 しているのだ。

 そのはずなのに、苦しみも意識が遠のくのも始まらない。

 目を開けて、赤い針をみるとそれは震えていた。震えて、空気中にとけるように消失した。

 当然だった。自身の手で首を絞めても死ねないのと一緒で、これは身体の感覚であるのだから、生存本能に守られて死ぬどころか自傷もできない。

 やはり死ぬのは、こわかった。


「ーー」


 再度、歩きだす。

 他殺はできたのに、自殺はできない。

 生きてはいけないのに、死ぬのがこわいだなんて、ひどく愚かで醜くて傲慢だとおもった。

 赦されない矛盾を抱えているとおもった。

 銃が欲しい。ナイフが欲しい。縄が欲しい。いま死ねるのなら、なんでもいい。

 だれか殺してくれるなら、殺してほしかった。あのとき自身の名前を言わなければと後悔する。

 あたりを見回して、自身を殺してくれそうな何かをさがす。

 首をいくらかまわして、死を希うシュンの視界に映ったのはトペリの象徴とされる時計塔だった。

 ーーあそこから飛び降りたら、確実に死ねるだろうか。

 そんな期待を抱いて、シュンは時計塔の方へ歩き出した。

 背が高いのでどの路地に入っても方向がわかり、その直近まで真っ直ぐに辿り着く。一部の壁が崩れた時計塔の周辺は、ところどころ瓦礫が散らばったままになっており、立ち入り禁止らしい範囲をしめすテープのようなものがてきとうに落ちていた。

 それでも、死ぬためには仕方がない。シュンはテープを踏み越え、時計塔の入り口を探す。

 時計塔の一面は長く、壁を手でつたいながら歩いているとーー


「ーーいたっ! 勇者さま!」

 

 ちょうど入口らしい、南京錠らしきもので施錠された両開きの扉を見つけたところで、気持ち悪い言葉の聞き慣れた声がした。

 息を切らしながら、蒼い瞳の少女がシュンのもとへ駆け寄り、


「さがしたんですよっ……、みんなでご飯を食べる直前にいきなり行方不明になって、いま王宮総出で勇者さまの捜索をっーー勇者さま?」


 シュンの様子がおかしいことに気づく。身体の一部が謎の汚い赤で染まっていて、どこか具合が悪そうだ。さっきまでの雰囲気はこれっぽっちもなく、時計塔の錠をひたすら観察している。

 金属製だが錆だらけの錠はこの中をかたく護っており、鍵が必要なようだった。

 シュンはリアリに見向きもしない。


「どうしたんですか? さっきからなにをしてーー」


 ようやくリアリは鉄の臭いに気づいて、その赤の意味を知る。


「どこか怪我をしたんですか……⁉︎ はやく処置を……魔法は使えないから、ゼリュさんに診てもらって……」

「ーーーー」

「……ねぇ、ゆうしゃさま?」

「ーーーー」

「わたしのはなし、きこえていますか……?」


 そうリアリが訊いた途端、狂人(シュン)は赤い虹彩を光らせ、錠に手をかざして自身の手のひらよりも大きな赤い針をひとつ繰り出し、錠のユー字部分の付け根あたりを狙ってそれをぶつける。

 謎のかたいものと金属のぶつかり合う甲高い音が響いて、リアリが悲鳴をあげた。


「ーーゆうしゃさま……? いま、なにして…………」


 困惑するリアリをよそに、意外に脆くユー字の部分と長方形の部分で真っ二つになって地面に落ちた錠をシュンは一蹴し、重い鉄の扉を身体で開ける。

 時計塔内部は崩れた壁から日が差した空間の中心に螺旋階段があり、回転する階段の中央には歯車が何重にも重なって駆動していた。

 シュンは何も思うことなく侵入し、上へと続く螺旋階段を登ろうとする。


「ぁ、そうだ、ここは立ち入り禁止で、すからーーあぁあもう!」


 延々と自分を無視する勇者にリアリはついに腹が立って、シュンの血で濡れた腕を強く掴む。


「勇者さま! さっきから無視ばっかりして、立ち入り禁止の場所にも入るし、いい加減にしてください! ほら、帰りますよ」

「ーーーー」

「いいから帰りますよ! ここにはなにもないですから」

「ーーーーやだ」


 いうことをきかない子どものような返答をするシュンに、リアリは少し驚きながら、


「ーーやだじゃないです、もうお夕飯ですからーー!」

「やだ」

「だからやだじゃない!」


 おなじ返答を繰り返す勇者に叫ぶ。

 シュンの腕を引っ張って、じりじりと時計塔の外へ出そうとすると、


「ーーーーぅ、」

「勇者さま?」


 突如地面にしゃがみ込んで、くちもとに手をあてる。息づかいを荒くして、四つん這いの体制になって勢いよく血を吐き出し、赤い海を即座に生成させる。


「ゆうしゃさま⁉︎ 血がこんなに……大丈夫ですか⁉︎ ゆうしゃさーー」


 リアリが勇者の背に手を添えようとして、シュンがその手を拒むように払い。


「……だいじょぶ、ぜんぜん、だいじょうぶだから。やめて」


 絡まった黒い糸のような瞳孔が、前だけを向いていて。

 口を赤い袖で拭いながら立ち上がり、ふらついた足取りで階段の方へ向かう。

 リアリの中で「やめて」が反響し、少し距離を置いたところでシュンの後ろを追いかける。

 二人は階段を登り始めーー、


「…………ゆうーー」

「それも、やめてほしいです。じぶんはもう、勇者じゃないので」

「勇者じゃない……?」


 一段ずつ、ゆっくり上がる勇者を呼ぶとそれすらも否定され、リアリは困惑する。何をするつもりかわからないが、リアリにはただ心配と不安を抱えながら、シュンの後ろをついていく勇気しかなかった。さっきまでの勇者は消え、目の前の人物は、他人のように思えた。

 シュンは手すりに寄りかかりつつ、息を荒くしながら、


「じぶんは、しゅんっていいます。……だから、勇者って呼ばないで……。」


 リアリにようやく自己紹介をする。一昨日に初めて出会って、既にしたかもしれないが記憶にない。ゆうしゃさま、という少しだけ慣れた呼び名は今の自身には似合わないどころか、捨てるべきものだった。


「ーーじゃあ、シュン?」


 勇者というと拒絶反応のようなものを見せるシュンに、リアリは素直にその名前を使って訊く。


「勇者じゃないって、どういうことですか……? シュンは、別の世界から来たのではないのですか?」

「ーーーー」


 再度、無言のシュンにリアリは質問を変えてみる。


「ここを登って、何をするつもりなんですか? ここは崩れていて危ないですし、シュンも怪我をしていて辛そうなのに……、」

「ーーこれは、怪我じゃないんで」

「でもさっきたくさん吐いてたじゃないですか」

「…………。」


 シュンは何故吐血を繰り返すのか、わからず吐いている。初めて自覚をして、けれど王宮に戻る気はなく、そのまま階段を登りつづける。


「ほら、帰りましょうよ。ゼリュさんに診てもらいましょ?」

「ーーーー」

「……ね?」


 優しい笑顔をむけてこちらに手を伸ばすリアリに、シュンは一度歩みを止めるが。

 ーーその手をとると、狂った方に行ってしまうと、そう思った。その優しさは、罪人に向けられるべきものではなかった。

 シュンは上へと向かって歩きだす。


「……シュン…………」


 リアリはその弱々しい背中を見ながら、


「ーーせめて、目的くらいは教えてくれませんか?」

「ーーーー」


 勇者は何も答えてくれない。

 それでも、少女は勇者を呼びかけ続ける。


「ゆーー、シュンはここで、なにがしたいんですか?」

「ーーーー」

「……わかれたあとに、なにがあったんですか?」

「ーーーー」

「何に悩んでいるんですか……? 私があなたにできることならーー、」

「……」


 その言葉に、シュンは一旦立ち止まる。自身の、相手の優しさに漬け込むような動きを気持ち悪く思いながら


「なんだって、とは言えないですけど……、あなたの気が晴れるのならーー」

「じゃあ、かえってよ。」

「ーーえ」


 甘えて、けれども最善の言葉を低い声にして吐き出す。

 リアリは一瞬固まったがめげず、シュンの背を追うのをやめない。


「どうしてですか? 私が帰ったあとに、シュンはひとりでなにをするんですか?」

「……なんでもいいでしょ」

「よくないです! 何をするか知るまで帰りませんから」

「…………」


 頑なな背後の人物をシュンはとてつもなく鬱陶しく感じながら、けれども言いにくそうにする。

 言っても、絶対に帰らない気がした。


「ーーそれで、結局何をするんですか?」

「…………」

「夕日でも見るんですか? たしかに今日のお空は特別きれいですけど、」

「…………」

「そんなに近くで見たかったんですか? それとも違う?」

「…………」

「んー、違いましたか。たしかに、夕日は誰とでも見れますし」


 一人で勝手に予想したその内容はとても平和的なもので、いまのシュンとは正反対にあった。

 ここに来る道中、空など全く見ていなかった。それどころか、ずっと自分自身と会話をしていて、街中のことなどなにも気にも留めていなかったので、リアリの話をシュンは別の世界の話のように思った。


「じゃあ、ここが気になっていたんですか? たしかにトペリで一番高い建物で気になるかもですけど、普通は入っちゃダメなんですよ。たまに整備の人が入りますけど、一般人は基本立ち入り禁止ですし、なんか最近爆発し出して危ないですし……」

「…………」

「……はなし、きいてますか?」


 リアリは不服そうに訊くが、返答は帰ってこない。

 これ以上質問は思い浮かばず、けれども勇者が何をするかわからないので、しばらく双方が無言のまま階段を登り続ける。

 途中シュンが咳き込み、いくらか血を吐きながらゆっくりと時間をかけてーー

 二人は最上階らしき空間へとたどり着いた。

 シュンは既視感を覚えながら、崩壊する前の壁が隠していた、橙色の空の肌が見える寸前までーー


「勇者さま! そっちは危ないですよ!」


 当然リアリが注意をして、シュンの手を引く。勇者の奇行に、リアリはいつもの呼び方をしてしまったことに気づいたが、その言葉でシュンは自身の襟元を見て、


「ーーそうだ、りありさん」

「……?」

「これ、かえすね。」


 赤いリボンを外して、リアリに差し出す。


「……返すも何も、私の物じゃないんですが」

「じゃあ、じあさんにかえしといて」

「というか、そもそもこれはなんですか? それを聞かないと受け取れません。」

「ーー勇者のあかし……。もうじぶんは、ゆうしゃじゃないから……」

「じゃあ尚更受け取れないですよ。シュンは勇者さまですから。」

「………………。」


 やはり彼女は自分の発言に責任を持たないタイプであるらしかった。

 納得がいかないというように目を伏せて、受け取られなかったリボンをシュンはじっと見つめる。


「ーーさっきからどうして、自分は勇者じゃないって言うんですか? ここへ来た理由も話してくれませんし」


 リアリは口を開きながらそのリボンを手に取り、シュンの襟に戻すように結びながら訊く。

 まるで母とか、姉のような人間性だと思った。

 シュンはその行為に半分の半分くらい困惑する。


「さっきと人が変わったようになってしまいましたし……それでちょっとこわくなっちゃいましたし。でもーーそれを無くしたいからここに来たんですよね。」

「…………」

「大丈夫ですよ。私はあなたの味方ですから、」


 きゅっ、とリボンを結び終えて、


「なんでも言ってみてください。きっとその方が、気分も良くなりますから。ーーねっ?」


 甘ったるい声で、優しい眼で、リアリは言う。

 それがまるで、無知な天使が誘惑しているように思えた。

 シュンは彼女から、一歩身を引いてーー


「それで、シュンはどうしてここにーー」

「ーーしににきたの」

「…………ぇ?」


 死にに来た、その台詞にリアリの笑みが消える。


「ーーどうして? どうして、しんでしまいたくなったんですか?」

「…………ひとを、ころしたから」

「ーーーー」


 死ぬ理由は必要だと思い、数秒考えたのちにシュンはそう発した。

 ーー彼女の優しさを、真っ向から否定した。


「ひとをころしたって……だれを……?」


 リアリは困惑と動揺に心を揺さぶられながら訊く。


「………………おうさま」

「ーーーー」

「だから……罪をおかしたから、しのうとおもった……」


 冷や汗を掻きながら小さく呟くシュンに、リアリは固まって。

 しばらく二人は俯いて、冷たい風に触れながら、互いに互いの言葉を待つ時間が続いた。

 ーー数十秒が経過して、リアリが口を開く。


「ーーーーーーどうして、シュンはおじさんをあやめてしまったんですか?」

「どうして、って……」


 直球な問いかけに、シュンは困惑する。


「シュンはそんなことをする子じゃないって、私が思ったからです。ルーマおじさんも優しい人なので、きっと別の角度から何かがあったんじゃないかって」

「……」

「だからきっと、人を殺したというより事故のようなものなのでしょう?」


 ーーシュンの頭の中で、疑問が、希死念慮が渦巻く。

 それは事実には近くても、シュンからは遠くにあった。やさしさだけを含んだ予測だと、シュンにはそう思った。


「……なんで、りありさんはそうおもったの? どこをきりとってそうおもったの? じぶんは人をころしたから、贖罪をしないといけないのに」

「シュン……? あなたはただ、事件に巻き込まれただけでーー」

「ほんとうにころしたの!」


 子どものような甲高い叫びをあげて、シュンはリアリの優しさを否定する。根っからのやさしさなのか、勇者という存在を彼女の中で汚したくないのか、シュンにはわからない。

 わからなくて、いらいらする。


「ほんとうにじぶんはひとをころしたの。このてであのひとをころしたの」

「だから、それはーーっ」

「ちがう! ほんとうに、ころしたんだって……!」

「殺してませんから! すこしおちついて」


 人の話を聞かずころしたを連呼する気狂いを起こしたシュンをリアリは止めようとし、狂人はその言葉通りに興奮を少しおさえて、


「ほんとにっ……! ほんとうに、罪をおかしたのに、ひとをころしたのにーーどうしてあなたは、じぶんにやさしくするの?」

「ーーぇ? それはシュンが、ほんとうはころしていないからーー」

「ころしたの」

「だから……っ」


 さっきの一連の通りをリアリは知らず、狂人はその経緯を説明しない。というより、できる状況にないので、話がまったく噛み合わない。片方の常人が困惑を、両方が苛立ちを繰り返し続けている。

 リアリはシュンがころしたの事実から全くうごかないのを理解し、


「ーーたとえ、あなたがルーマおじさんを殺したと何度も何度も言っても、私はあなたを信じますよ。」

「…………なにを? なにをしんじるの」

「あなたが殺してないってこと。きっとまだ、落ち着いていないだけなんです」


 シュンの低い声に反して、リアリは明るい声音で諭すように言う。


「きちんと調査して、なにがあったのかわかれば大丈夫です。本当はただ、おかしな事件に巻き込まれただけで、きっと勘違いしているんですよ。そしたら贖罪をする必要も、自殺をする必要もないでしょう?」


 リアリは笑って、


「ーーーー」


 それでも彼女の言葉は、シュンの欲しいものではなかった。それどころか、シュンを失望させた。そもそも出会うべきではなかった。

 シュンの中に事実はあった。人を殺した、生まれるべきではなかった、罰を受けるべきだ、快楽も他人のあたたかさにも触れてはいけないのだ、生きてはいけないのだ、死ぬべきなのだ、それが今のシュンのすべてだった。

 それを彼女はーーリアリは、全て否定した。彼女の言葉と罪人の中との齟齬は完璧だった。

 ーーシュンは、彼女も狂っていると思った。

 リアリはシュンに手を伸ばしーー


「だからもう、帰りましょう? 暗くなっちゃいますし……」


 そのやさしさは、自身に向けられるべきものではなかった。


「ーーーーいや。」

「え……?」


 脳内を埋め尽くすしにたいが、その言葉を否定して、

 シュンは走った。


「ーー! シュン⁉︎」


 リアリの伸ばした手はシュンには届かず。

 次の瞬間には、シュンは空中に身を投げていた。



 街のずっと向こう側を橙色の光源が落ちていて。


 夜の帳が下りる最中を。




 狂人は堕ちた

















































































































































































































































































































































































































































































































































































































































あとがき

 前回のあとがきで宣言した通りのことができず、申し訳ありませんでした。三月中に書き終える予定でしたが予想以上に思い浮かばなかったり、けれど寄り道をしすぎたり、やる事がかさんだり、体調が悪かったり、すべて自己責任です。これが商業的ーー仕事だったらと考えますが、趣味と仕事、だれが見ていようがいまいが関係なく締め切りを守らないのは良くないことです。本当にごめんなさい。


 ここからは長ったらしい話なので、どうでもよかったら一番下から六行だけお読みください。


 今回の話はいままでの数万文字が塵芥となる結果となりました。

 主人公が身投げをするまでの話、ライトノベル一巻分くらいです。私の創作はここまでが土台、これからが本番といえば、大変長ったらしく鬱陶しい作品になってしまいました。理由としては設定がめちゃくちゃ細かいとか、人との関わりが長いとか(特に後半)。でも設定はすごく大事で、もはや物語は設定のセッティング、配置で成り立っているので、もはや設定だけで動いているといえると思ったりします。そう考えると、小説にも意外に法則性というものがあるのかな。美術や音楽理論と同じで……。

 それはそうと、この小説はめちゃくちゃ言葉足らず、というか説明されていない部分があります。

 例えば、

・トペリには学校(教育機関)がないよ、とか。

・前日の聖教堂は勇者の祭りの観光客でわんさかだったよ、とか。

・王宮の周辺にもお墓はあって、王族とか昔の勇者とかが眠ってるんだよ、とか。

・勇者のお祭りの最中に騎士団の一部の人は旅行をしているよ、とか。

・複数人を巻き込む『契約』ならその範囲内での署名が必要だよ(国による)、とか。

・『契約』に使用する「本名」というのも人によって感覚が違うし、とか(ラディアと作者の説明不足)。


 など、たくさんあります。

 シーンとしてはルーマおじと他の王宮メンバーの接点をもっと増やすべきだったなと思いました。終活引きこもりおじすぎる。とりあえず今はこの形で投稿して、のちのち改良していこうと考えています。

 それと、未知も設定としてあります。曖昧ささえ作品の世界観にはリアリティが増すと思い、シュンの目の色がどうして赤色なのか作者は知りません。ただ鬱くしいものをつくりたくて、都合よくできたフィールドに彼らを住ませて遊んでいるだけ。こうみると、都合がいいのカモフラージュがどれだけ出来るかも創作家の技量が必要だなとおもいました。都合がいいの理由、言い訳を考えるのもまた楽しいです。

 そしてやっぱり主人公は特別でないと、とおもいます。特別はやっぱりたのしいから特別なんですけど、特別なものにはやっぱりデカい代償が必要だともおもいます(強さの秘訣)。あとシュンの針はもともと可塑性のあるものにしようとしたけど、面倒だと思ったのでやめた。魔法やファンタジーは範囲を定めるの大事。


 執筆画面のフォーマットが変わって、なんだかすごくあとがきが長くなってしまいました。

 今までタイトルにしっくりこなかったのですが、今度新しくタイトルを変更します。今回はサブタイトルがタイトルを襲名しているかんじでした。

 この作品がメンヘラのように頭から離れてくれなかったら、くれないかもなぁと思ったら作者の名前を覚えてください。

 次回は五月十日となります。

 ここまで読んでくれてありがとうございました。

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