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聖なるイデアの入場

 白い視界が彩りを取り戻していく。

 さざめきが押し寄せ、そよ風が通り過ぎる。


 ――エルフの里アールヴガルズ。木漏れ日の降り注ぐ、その広場。

 私は、エルフ達が生まれ落ち、森の恵みに与る土地を踏みしめていた。


 濃い緑の薫りに外界から解き放たれた心が、体を前へと衝き動かす。

 地上から伸びる階段の先、吊り橋で繋がり合うツリーハウスを見上げながら散歩してみた。


「すごい……」


 生という祝福を享けた時の自由な気持ちが、初めて分かった。


 この世界全てを好きになる。

 そんな予感がした。



 さて、ここからの流れはどうだったかな、と先人(βテスター)のお言葉を振り返る。

 確か冒険者ギルドで無料会員登録を済ませる、だったような……。


 その時。

 不意に、風が強まった。


「――て……」


 風に乗って声が届いた。

 近くの誰かに向けたような、微かな声だった。

 でもその声は、何かを悲愴に、切実に願う力強さで確かに響いた。


 風上を確認しても、誰もいないしもう声も聞こえない。

 ただ地上と樹上に家が数軒建っているだけ。

 その家々に声の主を期待し、風上へ遡っていく。

 階段を上るほどに声は存在感を増した。

 そして一番上の家の前に着いた時、私は核心に到った。


 ――この、家だ。


 私をここまで連れてきたのは、女の子と母親の会話だった。


「お母さん、本当に苦しくない? (つら)くない?」

「大丈夫よ。ミィが心配してくれてすごく楽になったわ」

「……わたし、やっぱり〝天使様〟にお願いしてみる!」

「待って、ミィ……」


 開け放った扉の陰に私を収めて、女の子が飛び出す。

 階段を駆け下りていく彼女を上の空で見つめていると母親が震える声で零した。


「囲いの外には異教徒がいるのに……一体どうすれば……」


 その言葉にはっと我に返る。


「わ、私がなんとかします!」


 そうとだけ言い置き、私は慌てて女の子を追いかけ走り出した。

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