聖なるイデアの誰何
本作は英語のほかラテン語、古英語、古ノルド語の影響も受けており、しかし辞書を持っていない後ろ2言語については特に語彙が乏しく、ごまかす場合がごさいます。なにとぞご了承ください。
冷たい手を両手で包み込み、目をつぶって一心に願う。
【献身】を使った後も私の祈りは続いていた。
天使様ならきっとこの祈りを聞き届けてくれるはず。
希望を、希望だけを懐いて私は待つ。
そして【献身】のクールタイムが明ける頃、私はようやく異変に気付き、目を開いた。
あるいはこの身を差し出した時には始まっていたのかもしれないその変化は、私自身に現れたものだった。
服の下に隠れる私の武器――痣が心臓の鼓動に合わせて時に強く、時に弱く、彼女から流れ出る液体と同じ色に輝いていた。
――導かれてる。
手を引き新しい遊び場を教えてくれる幼い姉のような天啓に昨日学んだばかりの痣の使い方が蘇る。
私は、抗うことのない手から手を解き、今度は自分の手だけで祈る。
こういう時唱えるべき呪文を、私のスキルは教えない。
でも、この場に、今の私にぴったりの言葉なら、知ってる。
息を大きく吸う。
より強さを増していく輝きに、その言葉を答えた。
――献身。
その瞬間。
痣から光が広がった。
空まで、森の向こうまで広がって、天使様と私以外は輪郭を残して白に染まった。
その天使様も祭壇に横たわる体は真っ白で、自らの色を保つのはその上で丸まって浮かぶ逆様の天使様だった。
ぷかぷかとたゆたう天使様のやんごとないお顔に見入っていると、眉がぴくと動き、ただくもりゆくものと思われた瞳がわずかにさらけ出される。
私を見つめ返しはじめたその目は優しい金色で、どんな宝石よりも輝き透き通っていた。
(――自分を呼ぶ声が聞こえたの。
長い夜の冷たい闇で。
志半ば、愧じと憾みに看取られ倒れた。
でも光が来たの。
温もりに手を引かれ、今に到った。
あの声はあなた? あなたは誰?)
言語中枢に降りてくる声なき声が儚く優しく私に問う。
「は、はい!
あ、わ、私は魔術師イデア・マギカです。
あなたは……天使様、ですか?」
美声で無声の彼女の誰何に、友達には好評の声をうわずらせ、名乗る。
そしてすがり付くような私の誰何には、慮外の存在の名でもって返されることとなった。
「Nei……でも間違いとも言い切れないかも。
自分は主神から独立してるの。
使命の遂行のため独自の裁量を許された一柱。
権能は【葬送】。
死者を運び、英霊となす。
名はグラズガルド。
――昔の人がヴァルキュリアなんて呼んでくれた、その死に損ない」




