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天才魔術師、ロリ吸血鬼を拾う  作者: くまねずみ
第二章 ルナ冒険者デビュー編
33/34

32 依頼完了

 

 森をかなり奥深くまで来ていたカイ達。帰り道はどっちだと一瞬焦ったが、ロルフが匂いを辿る事によって案内してくれたので事なきを得た。


 また例の子虎についてだが、ルナが「だめだよ」と何度言ってもついて来てしまうので、仕方ないが一旦連れて行く事にした。

 その際当然の如くリーニャに反対されたが、取り敢えず森を出てからどうするか決めよう、とカイが宥めると、渋々だが頷いてくれた。


「――おお、戻りなさったか! いやはや、ご無事で何よりでございます……!」


 そうして森を抜け村に出ると、すぐさま村長が駆け寄ってきた。どうやら森の手前の広場でずっと帰りを待っていてくれていたようだ。


「ただいま、村長さん。依頼は完了したわ、はいこれ」


 リンカが布の袋を掲げ、中身を見せてやる。

 中には虎の牙がぎっしりと詰まっていた。


「お、おお……!」

「大体30体くらい倒してきたわ。これだけ駆除すれば十分よね?」

「何と、そんなにも!! とんでもございません、これ以上何を望みましょうか。感謝の極みでございます」


 村長が深々と頭を下げる。良かった、とリンカは微笑んだ。

 その時。


「お姉ちゃん!!」


 村の方から少女がこちらへ走って来た。

 あのレイラという子だ。


 レイラはリンカのもとへ一直線に駆けて来ると、縋るような表情で彼女を見上げた。


「お姉ちゃん、ミーちゃんは!? ミーちゃん、見つけてくれた!?」

「ああ、ミーちゃんね……」


 リンカはおもむろにビーゾンを振り返り、目配せする。


「……チッ」


 ビーゾンは気に食わないというように一つ舌打ちした後、気怠そうにレイラの元へ歩み寄って行き――クマのぬいぐるみを差し出した。


「ほらよ」

「!! ミーちゃんっ!!!」


 レイラが歓声とも悲鳴とも取れる声を上げる。そしてすぐさまぬいぐるみを受け取り、大粒の涙を零しながらその場に座り込んだ。


「ミーちゃん、ミーちゃんだあ!! よかった……よかったよお……!!」


 ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ、嗚咽するレイラ。


「レイラ!」


 そこへまた一つ叫び声がする。見ると、レイラの母親がこちらへ駆けてきていた。


「!! ぬいぐるみ、見つかったのね!?」

「うん……! ミーちゃん、帰ってきてくれたの!!」

「ああ、よかったねえ! レイラ、よかったね……!」


 母親がレイラを抱き寄せ、優しく頭を撫でてやる。レイラはぬいぐるみに顔を埋め、わんわん泣いて体を震わせた。


 リンカ達はその心温まる光景を、ただただ無言で見守っていた。リンカはもらい泣きしたようで人知れず涙を拭い、アレクに至ってはレイラに負けじとする勢いで号泣している。


「……ぬいぐるみ、見つけてあげれて本当に良かったね、カイ!」


 ルナが嬉しそうに笑い、カイの顔を見上げる。


「…………」


 だが、返事が無い。

 カイはレイラとその母親の姿をじっと見つめたままだ。


「カイ?」

「……ん? あ、ああ、そうだね」


 カイはふと気づいたように返答し、微笑む。

 ルナは困惑し、不思議そうにその顔を窺った。


 ――どうして今、そんなに悲しい顔をしていたの?


 ルナは見ていた。

 まるで何か辛い事を思い出すかのように、瞳を暗く染め、抱き合う母娘の姿を見つめていたカイの表情を。


 なぜなのか、ルナは尋ねようとしたが――何事も無かったようにニコニコ笑うカイを見て、思いとどまった。きっと気の所為だろうと。

 そして、微笑むカイにまた笑顔を返すのだった。


 ――――


 しばらくして、レイラの母親がリンカに頭を下げて言う。


「冒険者さん、ありがとうございました……! まさか本当にぬいぐるみを見つけてくださるなんて。何とお礼を言ったらいいのか……」

「あー、見つけたのは私じゃないの。こっちの男よ」


 リンカはビーゾンを指した。


「こいつね、虎からぬいぐるみを取り返そうって、凄い頑張ってくれたのよ」

「! し、失礼しましたっ!! あの、本当に……本当に、ありがとうございました! ほらレイラ、おじさんにお礼は?」

「……おじさん、ミーちゃんを連れて来てくれて、ありがとうございました」


 レイラは涙で目を腫らしつつも、ペコリと頭を下げた。それを見たビーゾンは口を尖らせる。


「……そんなに大事な物なら、肌身離さずに持っとけってんだ。もう二度と無くすんじゃねえぞ」

「うんっ」


 レイラはニコと笑った。そのいたいけな笑顔にビーゾンは面食らったようで、気恥ずかしそうにそっぽを向く。

 そんなビーゾンに、レイラの母親が尋ねた。


「あの、お礼なのですが……いくら程お支払いすればよろしいでしょうか」

「あ?」

「そ、その、ぬいぐるみの件の報酬です。冒険者さんに探索をお願いした以上、それは依頼という事になりますし……報酬はお支払いしなければならないと思いまして」


 レイラの母親は不安げな表情を浮かべ、身構えている。高額を吹っ掛けられるのではないかと思っているのだろうか。


 だがビーゾンは少し考えた後、チラとレイラの方を見て――


「……ケッ、そんなのいらねえよ。ガキから金を巻き上げても、ただ気分が悪くなるだけだ」


 そう言い放ち、背を向けてのそのそと歩いて行った。


「!! あ、ありがとうございますっ!!」


 そんなビーゾンの姿を、仲間の男二人はあんぐり口を開けて、リンカはやれやれというように微笑んで見ていたのだった。


「……さて。じゃあ次は、いちごを食べることにしましょうか?」

「お、待ってました!」


 場も一段落した所でリンカが提案すると、アレクがすぐ反応し、背負っていた大きな鞄をドサッと地面に下ろした。

 そして鞄を開け、巨大ないちごを一つずつ取り出していく――間もなくして、柔らかな芝生の上に山盛りのいちごが解き放たれた。

 それを見て村長が目を丸くする。


「これは、カルミットベリーでは……? こんなに採れたのですか!?」

「ええ、そうよ。ちょっとラッキーな事があってね」


 リンカは村長に、虎がいちごを溜め込んでいたらしい事を教えてやった。


「……なんと、そうだったのですか! これは驚いた!! 虎がいちごを収穫していたとは……この村で生まれ育って70年になりますが、まったくの初耳ですわい」


 村長は驚きつつ、感慨にふけっているようだ。


 聞けば、このカルミットベリーは知る人ぞ知る「森の食宝」で、長らくその植生が謎だったらしい。


 村に隣接するこの森は昔、冒険者たちによって探索され、「特に何も無い場所」という烙印を押されたという。

 特別有用な資源があるわけでもない、貴重な素材が取れるようなモンスターがいるわけでもない。強いて言えばカルミットベリーがあるくらいなのだが――それも、()()()()()()という理由からあまり見向きはされなかった。


 ヴィルドタイガーという中途半端に手強いモンスターがいるせいで、一定の強者でなければ探索は命がけ。それでもと頑張って探しても、数個しか見つからない。

 それが金銀財宝ならまだしも――たかがいちごなのだ。


 そのため、いちごに興味を持ち森を訪れる者は昔から少なかった。そして時が経つにつれ、人々のその興味も徐々に薄れてゆき、今では一部の美食家しか知らないような代物になってしまったという。

 結果、その植生の研究なども全く進んでいなかったらしい。


「いやあ、びっくりですな。希少な物とばかり思っていましたが、虎が先に収穫していただけだったのですか」

「……まあ、私達もよく調査した訳じゃないから、確かな事は言えないんだけど。虎がいちごを集めてたらしいのは確かよ。これってもしかして、新発見ってやつなのかしら」

「そうなりますでしょうな。本来は凄まじく希少な果物であったはずなのですから……これほど大量のカルミットベリーにお目にかかれるなんて、あり得ない事です。長生きはするものですなあ」


 村長がそう言ってしみじみといちごの山を眺めていると、アレクが口を挟んだ。


「リンカ、もう待ちきれねえよ! 食っていいだろ!?」


 村長の長話にアレクはしびれを切らしたようで、その場で細かく足踏みしている。


「そうね、食べましょ……でも、食べすぎないように。一人5つくらいよ?」

「おっけ!!」


 許可が出るや否や、アレクは巨大ないちごを一つわし掴み、思い切りかぶりついた。

 そしてもぐもぐと味わうようにゆっくり咀嚼し、ゴクリと飲み込む。


 次の瞬間。  

 アレクは顔を輝かせ、天に向かって叫んだ。


「う、うんめえーーーーっ!!! すげえ、何だよコレ!! う、うますぎるっ!!」


 そのままいちごに顔を埋め、貪るように食べ始めた。


 その様を見たリンカとリーニャは顔を見合わせると、我先にといちごに手を伸ばし、それぞれ口へ運んだ。

 そしてアレクと同様、歓喜に顔を染める。


「! なるほど、これは凄いですね……!」

「ほんと!! 美味しいわね!!」


 二人は口々にそう言って、脇目も振らずいちごにかぶりつき始めた。

 一体どれ程美味しいんだ、とカイはゴクリと唾を飲み込む。


「カイ、一緒に食べよっ」


 そんなカイのもとへ、ルナがいちごを二つ持って駆けてきた。カイはありがとうと頷き、いちごを一つ受け取る。

 そして、「せーの」で声を合わせ、一緒にいちごへかぶりついた。


 もしゃもしゃとゆっくり咀嚼し、飲み込んだ後。

 二人は思わず顔を見合せた。


「「おいしいっ!!」」


 ルナがその場でぴょんと飛び跳ねる。カイも跳ねこそしないものの、心踊る気持ちで満面の笑みを浮かべた。


 凄まじく美味ないちごだ。

 かぶりついた瞬間にみずみずしい果肉が弾け、濃厚ないちごの甘さが拡散していく。その後で程よい酸味も広がっていき、甘味と絶妙に絡み合い――もうとにかく、幸せが口いっぱいに広がっている。


 一口で分かる、普通のいちごとの格の違い。  

 カイは今まで味わった事のない美味しさに、感動すら覚えていた。ルナに至っては幸せで顔をくしゃくしゃにし、一心不乱にいちごにむしゃぶりついている。


「ほら、村長さん達もどうぞ?」


 いちごに夢中なカイ達をぼんやりと眺めていた村長達に、リンカがいちごを差し出した。


「……! よ、よろしいのですか!?」

「ええ、こんなにあるんだしいいわよ。一緒に食べましょ」


 リンカは微笑み、村長、レイラとその母親にそれぞれいちごを手渡した。三人は頭を下げ、それぞれいちごを口に運び――カイ達と同じように顔を綻ばせた。


 そうやって、一同はしばらくの間無言でいちごに舌鼓を打った。

 辺りにはかぶりつく音と咀嚼音だけが響き渡っている。


 そしてその様子を、ビーゾン達3人が少し離れた所で座り込み、羨ましげに見つめていた。


「いいなあ、俺たちも食いてえなあ……」

「ああ、美味そうだよな……頼んだら分けてくれねえかな」

「駄目だ。乞食みてえな真似は俺が許さねえ」


 ビーゾンが腕を組みながらきっぱり言う。男二人はがっくり項垂れた。


 そんな時。


「……あなた達も、食べたいですか?」


 静かに、そう尋ねる声がした。


 ビーゾン達が顔を見上げると――そこには意外や意外、いちごを3つ抱えて立つリーニャの姿があった。


「沢山ありますので、差し上げてもいいですよ」

「え? く、くれるのか!?」

「おい、マジかよ! こりゃありがてえ!!」


 すかさず男二人が身を乗り出し、いちごを受け取ろうとする。

 だがリーニャはそれを静止した。


「ただし! 今後、二度と悪事を働かないと誓って頂きます。それでもいいならの話ですが……どうです?」


 ニヤリと笑みを浮かべるリーニャ。最初から交換条件を持ちかけるつもりだったのだろう。

 だが男二人は、


「おお! そんなのいくらでも誓うとも!」

「しないしない! もうしないから、早くそのいちごくれよ!!」


 話を聞いているのかいないのか、口々にそうまくし立てるばかりだ。その興味関心は完全にいちごに向いている。

 呆れるほど薄っぺらい誓いに、リーニャは大きなため息をついた。


「……まったく。どうしようもない人達ですね」


 しかしながら、彼女は少し考えた後――ほら、といちごを差し出した。


「うおお! やったぜ、いただきます!」


 いちごを受け取るや否や、二人はそれにかぶりつく。


「……!! う、うめええっ!!」

「なんだこれ、すんげえ甘いぞ!!」


 そして夢中でむしゃぶりつき始めた。


「ほら、ビーゾン。あなたもどうぞ」


 リーニャがビーゾンに向き直り、残った一つのいちごを差し出す。

 だが彼は怪訝な表情を浮かべた。


「……お前、いいのかよ。見ての通り、こいつらは都合がいいからテキトーに言ってるだけだ。そんな誓いなんかこいつらがする訳ねえし、俺だってするつもりはねえ。それでもくれるって言うのか? 一体何企んでやがる」


 腕を組み、不審そうに尋ねるビーゾン。

 するとリーニャが静かに問い返した。


「……あなた達は、一体何なんですか?」

「あ?」

「最初は、よく見る小悪党の冒険者かと思っていましたが……ぬいぐるみの為に体を張ってみたりして……それで善人かと思えば、手柄を横取りしようと悪巧みもしていたり……全く理解に苦しみます。悪人なのか善人なのか、ハッキリして欲しいのですが」


 リーニャがジト目でビーゾンを睨みつける。それを聞いたビーゾンは、


「ハッ、そんなの知ったことか。俺らは俺らの好きなようにやってるだけだ。善人か悪人かはこっちが決める事じゃねえ……ま、基本は悪人だがな」


 そう言ってフンと鼻を鳴らした。


「……中途半端な悪人もいたものですね。悪人なら悪人で一貫していて欲しいです。とても扱いづらいので」

「ケッ、悪人だってたまにはいい事もするだろうが。見返りを求めて人助けだってするし、チャンスがあれば盗みだって働く。こっちに都合が良ければ、何だってするんだ。俺は今までそうやって生きてきた」

「へえ。では、ぬいぐるみの件は何だったんです? さっき報酬を断っていたじゃありませんか。見返りを放棄するのはそっちに都合がいい事だったんですか?」

「…………」


 リーニャの鋭い指摘に、ビーゾンはバツが悪そうにそっぽを向いた。

 そこへ男二人が割り込む。


「おいおい、さっきから聞いてれば……しつこいぞ! 善だの悪だの、そんなのどうだっていいだろ! 中途半端で上等だ!」

「そうだ! それにぬいぐるみの件だって、きっと何か考えがあってのことなんだよ! ですよね、ビーゾンさん!」

「…………」


 騒ぎ立ててビーゾンを持ち上げる二人に、リーニャは再びため息をつく。


「……あなた達のことは大体わかりました。では最後に一つだけ言わせてください」

「なんだよ!」

「そこの二人はともかく……ビーゾン。あなたは、悪人には向いていないと思います。今すぐその二人を切って、心を入れ替え、別の善良なパーティに入るのをオススメしますよ」


 リーニャはそう言い放った後、「これは餞別です」といちごをビーゾンに無理やり押し付け、踵を返していった。


 男二人は不服そうにその背中を睨みつける。


「なんだよ、あの狐娘! 生意気な……」

「ビーゾンさん、俺たちを見捨てたりしませんよね?」

「…………当たり前だ。お前らは俺の大切な仲間だからな」


 ビーゾンは、何か思うようにリーニャを見送った後――彼女から貰ったいちごを半分に割り、「俺は要らん」と二人にそれぞれ手渡した。



 ――――



 それから暫く経った後。カイ達は、カルミットベリーを納品する3つ以外、全て平らげてしまった。

 一つ一つが両手で持てる程大きいいちごだったが、その美味しさ故、完食するのにそう時間はかからなかった。


 腹も膨れ、余韻に浸りながら満足感をひとしきり味わった後――そろそろ撤収しようか、という事で腰を上げた時。


 なぜか突然、レイラがしくしくと泣き始めた。


「う、うう……ぐすっ……」

「ど、どうしたの!? 何かあった?」


 リンカが慌てて尋ねると、レイラは声を詰まらせながら答えた。


「だって……だって、ミーちゃんが……よく見たら、いっぱいケガしてるの……」


 どうやら、ぬいぐるみが傷だらけになっていた事に気づいて、悲しくなってしまったらしい。


「そんなの、我慢しなさい! 戻ってきただけでもありがたいでしょ!」


 母親がそう言って宥めるが、レイラは泣き止まない。

 それどころか、叱られたと思ったようで、声を上げてわんわん泣き出してしまった。


 リンカと母親はすぐ慰めにかかったが、聞いてもらえず――泣きじゃくる彼女を前に困り果ててしまう。


 それを見て、アレクが口を開いた。


「しょうがねえなあ……おい嬢ちゃん。ちょっとそのぬいぐるみ、見してくれないか?」


 レイラは不思議そうに彼の顔を見上げる。


「……何するの」

「いーからいーから。とりあえず、ちょっとお兄ちゃんに貸してみてくれ」


 何か考えがあるのか、レイラの前で腰をかがめて微笑むアレク。

 レイラは少し悩んだ後、分かった、とぬいぐるみを差し出した。


「ようし……ちょっと待っててな。すぐ終わるから」


 するとアレクはおもむろに懐をまさぐり始め、何やら小さな布袋を引っ張り出した。

 リンカ達が何かと思って見ていると――なんと中から、針や糸などの裁縫用具が出てきた。


 そして次の瞬間。

 アレクは針に糸を通し、ぬいぐるみを修繕し始めた。


 実にこなれた手さばきだ。シュバババ、と目にも止まらぬ速さで、傷やほつれを次々に縫い合わせていく。


 そして一分と経たないうちに、ボロボロだったぬいぐるみを完璧に直してしまった。


「ほらよ、嬢ちゃん」

「すごーい!! ありがとう、お兄ちゃん!!」


 レイラは一転して喜びに飛び上がり、ぬいぐるみを受け取りぎゅっと抱きしめた。その涙は既に引っ込んでいる。

 そして彼女の母親が、今日何度目になるか、深々と頭を下げた。


「こ、こんなにまでして頂いて……! 本当に、本当に何とお礼を言っていいのか……」

「いいんだ。それより嬢ちゃん、そのぬいぐるみ……ミーちゃんだっけか。大事にするんだぞ? 兄ちゃんと約束だ」

「うんっ!!」


 レイラがにっこり笑う。アレクはそんな彼女の頭をポンポンと撫でてやった。


 その一連の様子を、リーニャが口を尖らせて眺めていた。


「アレクのくせに……あの図体で手先が器用なんですから。あんな道具まで持ち歩いて……」

「どうしたのよリーニャ。目が恋する女の子みたいになってるわよ?」

「……!?」


 リンカがニヤニヤしながら指摘する。リーニャは瞬時に顔を真っ赤にした。


「はあーーっ!? どこがですか!! 適当な事言って、からかわないでくださいっ!!」

「いいのいいの、分かってるから。アレクって、あのナリで優しくて家庭的なんだから、ギャップよねえ」


 リンカはわざとらしく、うっとりというような表情でリーニャに言う。


「他の冒険者とかギルドで働いてる子とかに、ファンが結構いるらしいわよ。早めにいかないと、誰かに取られちゃうかもね?」

「なっ……」


 リーニャはしどろもどろで、言葉に詰まってしまう。リンカはその反応を楽しむようにくすくす笑っている。


 だが、そのとき。

 リーニャは何か閃いたのか、打って変わって不敵な笑みを浮かべた。


「ふ、ふふっ……リンカこそ、いいんですか?」

「なによ」

「カイですよ。早めに行かないと、ルナさんにとられちゃいますよ?」


 リーニャは、離れた所で子虎とロルフと一緒に戯れている、カイとルナを指差して言った。


「……はあっ!?」


 今度はリンカが顔を赤く染めた。リーニャは一本とったかのように満足げにまくし立てる。


「私、全部知ってるんですから。あんな子供に惚れちゃうなんて、リンカもうぶな所がありますよね! まあ、気持ちは分からなくもないですよ。大人びてて顔も整ってますし、なんでも出来る魔術師でかっこいいですし……あれで16歳というんですから驚きです」

「………」

「あの二人、相当親密な関係みたいですよ? 事情は聞きましたが、たった2日であそこまで仲良くなるなんて不思議な事もあるものです。それに私の予想では……ルナさんはもう、カイに惚れちゃってますね」

「……っ!」

「んへへ、まあ頑張ってくださいよ。確かルナさんは11でしたから……同じ5歳差じゃないですか! 今度デートにでも誘ってみたらどうです? あはははっ」


 リーニャはリンカの背中をバシと叩き、勝ち誇ったように高笑いしながら離れて行った。

 リンカは怒りと羞恥が入り交ざったような顔を浮かべてそれを見送り――楽しそうにロルフ達とじゃれ合うカイとルナに目線を移し、一人頬を膨らませた。


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