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天才魔術師、ロリ吸血鬼を拾う  作者: くまねずみ
第一章 出会い編
18/34

17 魔術、その原理

 

 ルナの発作という最悪の事態は免れた。

 すぐにでもルナのもとへと思ったカイだったが、落ち着きを取り戻した彼女の表情を見て大丈夫だと判断し、まずはギルバートを先に対処する事にした。


「ああ、ギルバート……」


 顔を真っ青にして気絶している彼の体を、マシアスが心配そうに抱えている。

 改めて見ると、酷い傷だ。腕から胸にかけて刻まれた傷からは血こそ流れて来ないものの、肌は爛れ赤く腫れ上がり、何かが焦げたような匂いがツンと鼻を刺激する。全治何ヶ月とかかるような、そんな怪我だ。


 この結末はギルバート自身が招いたもので、自業自得感は否めないのは確かだ。だが、カイがルナの病気の危険性をちゃんと伝えていれば起こらなかった事でもある。

 彼の猪突猛進な性格が災いし起こったこの事故に、カイはかなり責任感を感じていた。


「カイ君! 私は医者を呼んでくるから、ここで彼をみていてくれないか。下手に動かすと良くない」

「……その必要はありません。自分がこの人を治します」

「え?」


 そう言うとカイはギルバートの隣に膝をつき、その患部に両手を掲げた。


「治すって……どういう事だい?」

「回復魔法です」

「回復……あ、ああ。だが、この重症では――」

「大丈夫です、自分に任せてください。絶対に治します」


 不思議と説得力のあるカイのその口調に、マシアスはたじろいだ。


 回復魔法は基本的に、軽いケガ等の応急処置に使われるものである。

 このような深い傷を治す事は熟練の専門術士の所業であり、カイのような若い少年がなし得る技ではない。だがカイの言い方はそのレベルの回復魔法を使うという意志を持っており、怪訝そうな顔を浮かべるマシアスの反応はもっともと言える。


 事実、魔術の天才カイは回復魔法が得意だった。

 これくらいの傷ならば、全力で魔法をかければ治せると確信していた。


「……よしっ」


 カイは決意と責任感のもと、回復魔法を発動した。

 両手から緑色の光が放たれ、ジェルのようにうねりながらギルバートの体を覆うように広がっていく。


 すると、みるみるうちに傷が塞がり始めた。

 凄まじいスピードで癒えていく稲妻形の傷を見て、マシアスは驚きに目を見張っている。


「こ、これは……なんという……」

「結構得意なんです。回復魔法」


 そして何十秒と経たぬ内に、傷は全て塞がってしまった。

 流石に傷跡は薄く残ってしまったが、ほぼ完治に近い状態までに回復した。ギルバートの発汗や震えも止まり、青くなった顔色にも赤みがさしてきている。


「す、素晴らしい……これほどの回復魔法は今までに見たことがないよ。それも、君のような年若い少年が」

「ありがとうございます…………っ」

「! カイ君!」


 くら、と急な目眩がカイを襲った。

 回復魔法は魔力の消費が激しく、術士にかなりの負担を強いるのだ。


 カイは意識が朦朧としたまま、真後ろに倒れ込む。

 そしてそのまま地面に激突――と思ったその時。

 誰かがガシと体を支えてくれた。


「だ、大丈夫? カイ」

「……ルナちゃん」


 それはルナだった。


「あ、あはは。ちょっと、疲れちゃって……ありがとう」


 ルナは軽く微笑むと、横たわるギルバートをじっと見つめた。


「魔法で……治療してくれたの?」

「うん。そうだよ」

「……ありがとう、カイ。本当に、ありがとう……ありがとう……」


 安心したように、そして泣きそうな声で、ルナは何度もその言葉を繰り返した。

 ギルバートのおかげで深い絶望に沈む事はなかったものの、やはり自責の念に駆られているようだ。


「……むう」


 そのとき。

 ギルバートがパチリと目を開け、むくりと起き上がった。


「ギルバート!」

「マシアス殿。私は一体……」


 頭を掻きながらキョロキョロと辺りを見渡すギルバート。気絶していたためか、直近の出来事を見失った様子だ。

 だが隣に座るカイとルナを見て、すぐに全てを悟ったようで、その場で項垂れた。


「ああ、そうだった。ルナ君の電撃を浴びて……」

「ごめんなさい!!!」


 ルナが叫び、地面に手をついて頭を下げた。


「私のせいで、傷つけてしまって……本当に、ごめんなさい……!」


 ギルバートは呆気にとられたようにルナを見ていたが、すぐに首を横に振り、ルナの肩を叩いて優しく言った。


「頭を上げてくれないか。謝るのは私の方だ……説明もなしに、驚かせてしまったね。すまなかった」


 意外にも、ギルバートは素直に謝罪の言葉を口にした。ルナは申し訳無さそうに頷く。


 ギルバートが発端の事故とはいえ、ルナの事だ。謝られても自分のせいだと気に病むだろう。

 あとでしっかり慰めなければ、とカイは思った。


 次にギルバートは、カイに向き直って言う。


「君が治療してくれたのだね。礼を言わせてくれ。ありがとう」

「いえ……あの、自分からも謝らせてください。すみませんでした」

「む? 君が謝る必要はないだろう」

「いえ、この子の電気の凄まじさについて事前に伝えていれば……自分の責任でも、あるんです」


 カイは、ルナの病気について改めて説明した。

 今回はこれだけで済んだが、本当ならばこの場にいる全員が即死するくらいの規模のものなのだと。

 雷魔法を学びたいのは、この膨大な電気をコントロールしたいためなのだと、詳しい事情までしっかりと伝えた。


「……それほどのものだったとは。魔力で防御すれば十分だと高を括っていたのだが……無謀過ぎたな。さっきのは運が良かったわけだ」

「ああ。もしその大放電が起こっていたらと考えると……」


 話を聞いた二人の教師は共に身震いした。


「試す前によく話し合っておけば。全く、私は好奇心が抑えきれなくなるといつもこうだ」

「……いえ、説明しなかった自分が悪いんです。ですから、ある意味自分のせいで――」

「いいや、君達が謝る道理は断じて無い。今回のは私の読み違いが原因の事故だ。どうせ大した事はなかろうと、ルナ君に侮ってかかった私の責任なのだよ」


 そう言うと、ギルバートは地面にビタと頭をつけ、土下座した。


「不用意な負担を君たちに強いてしまった。一人の大人として、不甲斐なさを恥じるばかりだ。誠に、申し訳ないっ!!」

「せ、先生。頭を上げてください……」


 困るカイ達をよそに、ギルバートはそのまま突っ伏して謝り続けた。

 本当にこの人は――色々、真っ直ぐな人だ。



 ――――



 ギルバートの頭を上げさせるのにかなりの時間を要したカイ達だったが、その後は場も一段落し、彼はさっきの事故が嘘のように元気を取り戻していた。


 あっけらかんと笑いながら喋りまくるギルバートにルナも絆され、今や楽しそうにニコニコしている。

 心の奥ではどう思っているか心配だが――今の所は、大丈夫だろう。


「……いやはや。しかし聞いた限りだと、雷にも匹敵する電気量ではないか。全く興味を唆られる……もう一度見せてはくれないかね?」

「ギルバート。懲りない奴だな君は」


 ルナに詰め寄るギルバートにマシアスが苦言を呈する。


「冗談ですよ、マシアス殿……さて。では、本題に移ろうか!」


 ギルバートは何やら勢いよく立ち上がると、ルナを指差した。


「えっ?」

「ルナ君。君が私のもとに来た理由は、正確に言えば雷魔法を学びたいからではなく、その病気をコントロールしたいから。そういうことでいいね?」

「は、はい」

「その病気に関してだがね。電気が溜まる病気だと君は言うが……恐らく、それは間違っている」

「……え?」


 ぽかんとした表情で首をかしげるルナ。


「ど、どういうことですか? 電気が溜まる病気じゃない?」


 カイも同様に意味が分からず、ギルバートに問う。


「理由は二つある。まずひとつは、君が言うような膨大な電気量を、一人の身体に貯めることは不可能だという事だ。そんな事をすれば、ルナ君の身体は既に爆散している」


 カイは、それを聞いて少し納得した。

 おかしな病気だからと気にも留めなかったが、物理的に考えておかしい現象だ。彼の指摘は一理ある。


「確かに……でも、それが可能な特異体質というだけなのでは? 膨大な電気量を貯めることが出来る病気、というか」

「まあ聞きたまえ、話は終わっていない。理由はもう一つある。さっきの事故についてだが……私が静電気を使ってルナ君の放電を誘発させるまで、若干のタイムラグがあったように思えるのだよ」

「……? まあ、そう言えば」


 あの時。

 ギルバートが静電気を起こした後、まず始まったのはルナの体からの発光だ。

 放電があったのはその後だった。


「もし、ルナ君の身体に電気それ自体が溜まっていたのなら、私が電気を流したその瞬間にノータイムで放電が始まったはずなのだ。電気とはそういうもの。そうではないのなら、別の可能性を考える必要がある」

「……というと?」

「体に溜まっているのは、電気ではない。恐らくは、単なる雷属性の魔力だ」


 カイはそれを聞き数秒考え、そして頭の霧が晴れるような感覚を受けた。


「なるほど。そう考えると……」

「雷、ぞくせい……?」


 ルナがきょとんとしたように呟く。


「あ、属性っていうのはね。えっと……」


 カイは言葉に詰まった。子供には難しい、魔術理論の話になってしまうからだ。


「ふむ。肝心のルナ君が分からないと話にならないな……確か、魔術の経験は無かったね?」

「は、はい」

「では簡単に魔術の講義でもするとしよう。君の病気に関わる大事なことだ」


 ギルバートはそのままルナに向け、ペラペラと魔術の難しい話を始めた。


 彼の話を大きくまとめると、こうだ。

 まず、魔法を使うためには、基本的に3つの段階を踏む。


 1 体に宿る魔力を制御し、練り上げる。

 2 魔力に属性を与える。

 3 その魔力を体外に放出し、魔法として発動。


 この一連の流れにより、人は魔法を使う事ができる。

 例えば、先程カイは風魔法を使い突風を巻き起こしたが――あれは、カイが自身の魔力に風属性を与え、それを大気中に流し込んだ結果起こった事象、即ち魔法である。


 属性とは自然現象に由来する魔力の性質のことで、これは大きく分けて火、水、地、風の4つがある。

 雷属性、回復属性など例外も多々あるが、基本はこの4つがよく使われている。ちなみに物を浮かせたり物を探知したり、単純なエネルギーとして体を強化したりと属性を付与せずに魔力を使うこともあり、この場合は無属性となる。


 簡単に言ってしまえば、魔力に属性を与え、魔法発動。ただこれだけの話だ。


 しかし、言うは易く行うは難し。この一連の流れをマスターするためには、長い年月をかけて魔術理論を深く学び、鍛錬を積む必要がある。

 魔力それ自体は人が皆等しく有しているが、このため実際に魔法を扱える者は一握りだ。

 特に属性付与から魔法発動までのプロセスはかなり難しく、魔術師の力量とセンスが問われる部分でもある。


「……と、ここまでが魔術の基本的な概要だ。ついてこれているかね?」

「は、はい。なんとか……」


 ルナは苦笑いした。どうやら小難しい話に頭を痛めているようだ。

 しかしそれでいて、ギルバートの講義には真剣に耳を傾けている。


「……よし、では先程の話に戻ろう。ルナ君の体内にあるのが電気では無く、雷属性の魔力である根拠だ」


 ギルバートは続けて話した。

 彼が言うに、雷属性の魔力は外から電気を流してやると、直ぐに電気に変化するそうだ。


 属性を付与した魔力を放ち、自力で魔法を起こす事は難しい。

 例えば火属性の魔力を練ったからといって、それを大気中に放てば直ぐに火が起こるわけではない。緻密な魔力操作等が必要になってくる。


 しかし、元からあるモノを利用すれば話は別だ。

 火属性魔法なら、手元に火打ち石でも持って火花を散らし、そこに火属性の魔力を流し込む。そうすると容易に火炎を作り出せるといった具合だ。


 既に外界に存在するものを利用することで、魔力はいとも容易く現象に昇華する。


「先程のルナ君の放電が、まさにこのケースだ。私の作った静電気にルナ君の雷属性魔力が反応し、実際に電撃という現象に変化した。体からの発光とそれに伴うタイムラグは、魔力が電撃へ変化する際の反応によるもの……そう考えると辻褄が合う」

「な、なるほど」

「魔力は誰にでもあるが、人の魔力は基本的に無属性。ルナ君の場合はそれが元から雷属性となっている訳だ。そこについては聞いたこともない現象だがね。どういう理屈かは分からない」


 一通り話し終えたギルバートは、ふうと息をついた。


「というのが、私の推測だ。仮説の域を出ないものではあるが、大きく外してはいないと思うぞ?」


(…………凄い)


 話を聞く限り、随分説得力がある。

 ルナの病気の正体は電気が溜まるものではなく、雷属性の魔力が溜まるものだったという事だ。


 カイはギルバートにとても感心していた。この人は一度電気を食らっただけで、ここまでの考察を重ねてしまったのだ。

 マシアスが言った通り、性格に難があるが有能だったというわけだ。天才には曲者が多いと言うが、実際それを目の前にすると納得せざるを得ない。


 ――しかし、話の結論としては少しばかり消化不良にも思える。


「でも、それが分かったところで、ですよね。実際の電気か雷属性の魔力かの違いってだけで、あまり意味はないんじゃないでしょうか……」


 どちらにせよ発作が起こってルナが苦しむのであれば、電気であろうが魔力であろうが関係ない。病気の正体が分かっても、なにも解決策には繋がっていないのだ。


 しかしカイのその諦めにも似た意見に、ギルバートはあっさりと返答した。


「いいや? 意味は大アリではないか。ルナ君は病気をコントロールしたいのだろう?」

「そうですけど……」

「ならば、彼女がやるべきは困難を極める雷魔法の習得ではない。体内魔力の制御、ただそれだけだ」


 カイは目を見開いた。


「……あ」


 ルナの病気の正体が電気ではなく、ただの魔力であるのなら。

 その制御さえ出来れば、放電を、発作をコントロール出来る。


「……ルナちゃん!!」


 カイは思わずルナを振り返る。


「カイ……どういうこと?」

「病気だよ! これなら、治せるかもしれない!」


 魔力の制御は、魔術の初歩も初歩。

 魔術大学校では一年次のカリキュラムで、人によっては数週間で習得できる基礎的な事だ。雷魔法を習得するより何十倍も容易い。


「治る……?」

「ああ! 治るんだよ!」


 正確に言えば、病気が治る訳ではない。コントロールは出来ても電気の呪縛から解放される訳では無いからだ。


 しかしカイはあえて治るという言葉を使った。

 ただ、純粋にルナを喜ばせたくて。


「ほ、ほんとに?」

「ほんとだよ! すぐにでも治るさ!」


 話をうまく飲み込めていないルナだったが――細かい事は、彼女にとってはどうでもよかった。


 すぐにでも病気は治る。

 ルナはただその言葉に、ぱあっと顔を輝かせた。


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