後日談……そこで語られる犯人
あの鬼刀家の事件から一週間がたった。
山奥の火災……
生存者は一人。
公明キサラギは、酷い火傷を負い救出された。
何日ぶりだろうか……
学校からのバスに乗り遅れた帰り道。
不適に立っている男。
ギザギザに髪を逆立て、目はゴーグルで覆われている。
自称、世界の調律者。
「よぉ、逸見トウタ……数十日ぶりってところか?」
そうじぇいけいと名乗る男はボクを待っていたように。
「今度は何のよう、シラベくん?」
ボクのその返しに不快そうにする。
「俺の事はJ・Kと呼べ、そう教えただろ?」
そう訂正しながら……
「また……答え合わせにでも来たの?」
ボクはそう尋ねる。
「そう、卑屈になるなよ……今回は俺は現場にも居合わせていないしな、逸見トウタ、お前の推理を信じる他ないんだ」
そうじぇいけいはボクに言う。
「今回の事件の報告書ってのを拝見したんだけどよ……どうにも時系列や登場人物の位置づけの解説が下手糞過ぎてよ、逸見トウタ、てめぇの口から聞こうと思ってな」
そうじぇいけいはボクに問う。
「……解説が下手糞も何も、その報告書通りだと思うけど」
そのボクの言葉に……
「今回の事件……誰が何処まで把握していて……誰が実の母を殺そうとしていたんだ?」
そうじぇいけいがボクに尋ねる。
なぞの病……死に至る病が流行した。
その病に抗う薬を製造が急かされた。
保障もなく開発されたその薬を誰もが奪い合うように摂取した。
以外にもその薬は病には効果を出した。
だが、その副作用でその摂取したほとんどの人間が、
心を失い、人を傷つけることに抵抗の無い鬼になった。
その鬼を町の外に話が漏れる事を恐れた、鬼刀家はその鬼を山奥の洞穴に隠し、
さらに、その鬼を殺害した。
「ここまでは、恐らく……鬼刀家の全員が知っていた」
ボクはそう答える。
「それで……実際、その鬼を手にかけていたのは?」
そうじぇいけいがボクに尋ねる。
不意に後ろからバイクの走行音が響き……
ボクのすぐ背中で停車する。
「そいつは、トウタくんより、彼女に聞いた方がいいんじゃない」
ぴっちりとライダースーツを着込んだ女性、青い髪が綺麗になびかせながら停車する。
後ろからヘルメットを外し降りる女性。
「ヤシャちゃん?」
降りてきた女性にボクが声をかける。
「父は……命令をしていただけ、実際手をくだしていたのは、ジンにぃとエンにぃの二人……私は怖くて何もできなかった……」
そうヤシャちゃんは告げる。
「……たぶん、嘘じゃない」
ウミちゃんはそうヤシャちゃんをフォローする。
「……鬼狩りとしての素質は一番高そうだけどね、血の匂いは感じない」
そうウミちゃんが言う、どこかその言葉に信憑性を感じてしまう。
そんなある日、末っ子のコウくんがその流行病にかかる。
そして、鬼になる可能性のある薬の摂取を父親であるガイは止めたが、
母のアゲハはその薬を手に入れると、息子のコウに与えた。
その同じ時期に、乾家のコタロウタもその病にかかる。
が、乾家にその薬を手に入れるだけの財力は無く、
アゲハの取引のもと、その薬を譲り受ける。
が……結果、コウもコタロウタも副作用により鬼の症状が現れる。
それを知った、乾コトハは、同時期に両親を失った親族の子を養子としその子供をコタロウタとして引き取った。
そして、あろう事か、鬼刀家は実の母と末っ子のコウを亡き者にしようと、毒の入った食事を与え続けた。
そして、コウはその命を奪われ、生き残ったアゲハとコタロウタ。
アゲハはコトハに、死んだのはコタロウタとした。
そして、約束通り、アゲハは乾コトハとして成り代わり、
乾コトハは、鬼刀家の後妻として鬼刀レイとして、
末っ子のコウと偽った、乾コタロウタと
養子として引き取ったコタロウタの4人が鬼刀家に帰ってきた。
そして……その同時期に、屋敷の主である鬼刀 ガイは殺害され……
そして、続けるように、次男のエン、そしてジンが殺害される。
「それは……生きて帰った、鬼刀アゲハの復讐劇だったと?」
そうじぇいけいが口にする。
ヤシャちゃんは黙っている。
「逸見トウタ……本当に辿り着いた答えはそこまでか?」
そうじぇいけいがすべてを知っているかのように聞いてくる。
「まぁ……実の長男と次男を殺したのは、鬼刀アゲハで間違いないだろうな……」
そうじぇいけいが口にする。
「最初の事件、鬼刀ガイを殺したのは誰なんだ、逸見トウタ?」
そうじぇいけいがボクに尋ねる。
「鬼刀アゲハが本当に救おうとしたのは、他人だったのか?」
そうじぇいけいが尋ねる。
最初の鬼刀ガイの殺人事件。
知らされているのはその事実だけ……
見ない……見えないふりをしていたんだ。
「さぁ……逸見トウタ、彼女の語る偽りを、彼女の知る真実を語れよ」
そうじぇいけいは、その残酷の言葉をボクに語らせる。
「……彼女は鬼狩りとしての家族の罪を知っていた……母親の失踪の理由を知っていた……その偽りを見ていた……でも、そんな家族が実の母親を殺そうとしていたことを知らなかった」
ボクがそう言葉にする。
「そんな中、アゲハさんは帰ってきた……実の家族に会えただけで彼女は幸せだったのかもしれない、その後……例え家族に殺される事になっても最後にその場所に帰ってこれたことで良かったのかもしれない……」
そうボクが続ける。
「……それでも、知ってしまったんだ、彼女は母親の存在とその偽りじゃない真実を……実の母を救いたいと思うのは自然なことじゃないか」
ボクはそう続け……
「……偽るな逸見トウタ……真実を吐け」
そうじぇいけいが言う。
鬼刀アゲハが本当に助けたかったのは誰だ?
他人を本当に助けようと思ったのか?
彼女がその身を犠牲にして本当に守ったのは誰だ?
消去法は誰だ?
「……鬼刀ガイを殺害したのは、ヤシャちゃん、君なんだよね?」
ボクは俯く彼女にそう尋ねる。
鬼刀アゲハは帰ったその場所で……自分を最後まで愛してくれた娘を……
抱かなかった殺意……復讐を……
そんな愛する娘のために……その立場を……
手なずけた鬼と共に……
その偽りを真実に変えようとした。
「そうだ……と言ったら、トウタは私をどうするの?」
そうヤシャちゃんがボクに尋ねる。
「……さぁね、ボクは警察でも探偵でも無いからさ……例えヤシャちゃんがそんな罪を背負っていたとしても、ボクはそれに干渉するつもりもない」
そうボクは答える。
「……なんなら、ほとぼりが冷めるまで彼女は私が預かるぜ」
そうウミちゃんがボクに言う。
「似たもの同士、助け合って生きていくさ、下手すりゃ私以上の鬼狩だぜ、彼女は」
そうウミちゃんが笑いながら言う。
「おぃ、おぃ、俺抜きで余り話を勝手に進めるなよ、俺は調律者なんだぜ?」
そんな勝手を許すと思うのか?と彼が言う。
「いいぜ……抵抗するけどな?」
そうウミちゃんがじぇいけいを睨み付ける。
「まてまて、こんな成りをしているが、戦闘が得意なんて一言も言ってないぜ?」
そうじぇいけいは両手を挙げる。
案外、身の程を弁えているのかもしれない。
「まぁ……今回の目的は逸見トウタ、てめぇからその真実を聞き出すことだったからな」
そうじぇいけいは言い立ち去ろうとする。
「待ちなよ、あんたみたいな胡散臭い奴、黙って見逃すとでも?」
そうウミちゃんがさらに鋭くじぇいけいを睨む。
「おぃおぃ、止めとけよ……」
そうバンザイのポーズのまま……ゴーグルで見えない目……
「まてまて、戦闘が苦手なんてことも、一言も言ってないぜ?」
思わずウミちゃんがその身を引く。
「それは、そうと……逸見トウタ、最後の答え合わせだ」
そうじぇいけいは後ろを向いたまま……
「最後の山奥での火災……最後のバトルがあったのだろうな」
そうじぇいけいがボクに言う。
「生存者は一人だけ……」
そうじぇいけいはボクに告げる。
「それは、実際に生存が確認されている公明キサラギ……」
そうじぇいけいが言う。
「そして、確認された焼き焦げた死骸は2体……」
そうじぇいけいが言う。
「残りの一体は何処にいったんだろうな?」
そうじぇいけいは不適に笑いながら……
「気をつけろ、てめぇらの天敵は亡霊となり今もお前らを探しているかもしれねーぜ?」
そう捨て台詞を吐き、世界の調律者は姿を消した。
「そんじゃ、トウタくん、私らも退散するぜ……もっとも恐ろしい天敵があんたを迎えに来たみたいだからな」
そう言って、ヤシャちゃんを後部座席に座らせるとバイクを走らせる。
あははーーっという笑い声と共に彼女は現れる。
偽りと真実と……不自由と自由と……
相違する……ふたり。
ボクは……何を偽て、何を真実ていないのだろう。
ボクはその答えに辿り着けるのだろうか……
ボクは今はただ、その迎えに来た彼女に笑いかけることにした。