聖女派遣教会はもしかしてブラック企業なのでしょうか?
『慈悲深き高潔な魂を持った乙女達よ。
貴方達は教えに従い様々な所で人を慈しみ、憐み、衆生の苦しみを取り除くよう努めなさい。
聖女派遣教会代表 喜楽仏教』
採用通知を貰って私は飛び上がって喜んだ。
ついに憧れの職業、聖女になれたのだ。
「派遣先が決まるまでここの部署よ。詳しい事は中で聞いて頂戴」
「頑張ります」
鼻をつく饐えたような匂いの中、死んだ目で作業をする先輩聖女達。
「早速だけどここの部署の聖服に着替えて。綺麗な服は派遣されたとき用ね」
灰色の汚れた少し匂う服を渡された。
「一着で一月分の金額が天引きされるわ。無くさないようにね」
聖服に着替えると、工場のような場所に連れていかれる。
「レーンから流れてきたお守りにお祈りした後、こっちの箱に入れてね」
「……はい」
一月経った。
ゴウンゴウン。
レーンから流れてくるお守りを掴み私は祈りを捧げた。
「神様の祝福をここに。光あれ」
一分間に十個。一時間に六百個。一日のノルマは六千個。
「神様の祝福をここに、光あれ、あれ、あれ」
スムーズに流れても十時間。
ラインが止まってもノルマは変わらない。
今日は二時間ほど朝にラインが止まったから残業確定である。
「やってられるか、ふざけるなよ!」
私はついに我慢できなくなり、泣いて仕事を変えて欲しいと懇願した。
「そうねぇ、貴方も慣れてきたし。仕事を変えてあげましょう」
ゴウンゴウン。
レーンから流れてくる聖水瓶を掴み私は祈りを捧げた。
「神様の祝福をここに。光あれ、あれ、あれ、あれよチクショウ」
一分間に二十本。一時間に千二百本。一日のノルマは一万二千本。
ノルマが倍になっただけだった。
さらに言えば瓶を割ったら天引きされるペナルティも付いた。
違う、私はこんな事をしたくて聖女になったんじゃない。
我慢する事一年間。
「おめでとう、隣国の王子様から聖女が欲しいとご指名よ」
「ほ、本当ですか?もうノルマは達成しなくても?」
長かった、ここから私の聖女人生は始まるのだ。
「じゃあ、向かってちょうだい」
「はい!今までありがとうございました」
ニコニコする先輩。ニコニコする私。
「そういえば隣国ですよね?移動費用はどこに申請ですか?」
「あらあら、交通費が欲しいの?」
私が頷くと先輩はにっこりと微笑んでこういった。
「交通費は慈悲(自費)でお願いします」