第93話 狂信と魂
金属同士が激しくぶつかった音のあとは、ギャリリと金属同士が擦れる音が辺りに響く。
カルコロの放った剣の先には子供たちではなく、ショットソードを引き抜いたリッカががいた。
紫の石が輝く剣は子供達に突き刺ささる未来は、すぐには訪れなかった。
「グ、ゲ……」
「く、重い」
カルコロは受け止められたまま、押しつぶさんとばかりに剣をジリジリと押し込んできている。
骨だけの肉体とは思えないほどの重量がショートソードに伝わってくる。
「リ、リッカさん!」
「な、君たち! 離れて!!」
リッカに助けられたはずの子供達がリッカの体を押さえつけて来た。
その力もカルコロ同様、子供とは思えないほどに強い。
もう一方の剣が大きく振りかぶり、リッカと子供達へ影を落とす。
骸骨の上に乗った魔素の顔は、笑顔だが、それは悪魔か魔物かと思わせるほど残忍に歪む。
「ハッ!」
「ガ!」
もう一方の剣が動きはじめた瞬間、カルアが横合いから殴りつけるようにナイフを振るう。
ナックルガードが付けられたナイフは2本一組、横合いの一撃だけではなく、間髪いれずに次の手が飛ぶ。
顔面を捕らえたはずのもう一方の手は、カルコロが僅かに状態をそらし空を殴る。
空に突き出された手を大きく振り下ろし、ナイフの切っ先を腹部分に向けながら、反対側の足を振り上げる。
「嬢ちゃんうまい!」
カルアの手によって構築している魔素を薄くさせ、振り上げた足はカルコロのあばらへと突き刺さる。
魔素を散らされた上に、骨も砕かれてはアンデッドとしてはその姿を留めていられない。
その場に崩れ落ちて、骨に戻る。
「ふぅ」
「まだです!」
子供達に押さえつけられているリッカが大声を飛ばす。
それと同時に、カルコロが落とした剣がカルアの喉をめがけて飛びかかる。
「ハッ!」
短く息を吐きながらカルアはナイフを振るう、ナックルガードで剣を弾きながら、自分の上体もひねり突きをかわす。
ただの人間であれば、剣だけが飛び上がってきたようにも見えるが、リッカやカルアにしてみれば、幽霊の手が剣にかかっている事がありありと見える。
「魔素が散らない!?」
カルアがまた剣を弾き、魔素を弾き飛ばすと、アンデッドの姿は消え剣が地面へと落ちる。
次の瞬間にはまた、剣が浮かび上がりカルアに向かってまた飛びかかっていく。
「どこかに媒体があります! 時間稼いでください! 何とかします」
「しっかし、だんな、その体勢で言ってもカッコつかないぜ」
「わかってるって、これでも色々やってみてるの!」
子供らに抑えられていたリッカは地面に押し付けられるほどまで押し込まれていた。
押さえている手はリッカの体にめり込むようになっており、金属で補強したローブの上からにも関わらず、骨がきしむ感覚がするほど。
激痛に耐えながら、周辺の魔素から媒体の場所を探る。
「スペック、この2人は異常なくらい強力な狂信の魔術にかかってる」
「なるほど、だからこんなことやってるんだな、解除できないの?」
「さっきから魔素を散らしているんだけど、効果ないんだ、それに……」
飛び回る剣をさばきつつ、再び立ち上がろうとするカルコロの骨を踏みつけては魔素を散らせているカルアの姿が目に入る。
「いくら媒体があってもカルアさんに殴られたら、あんなに早く再生できないよ」
「確かになぁ、俺でもあれだけ叩かれたら、消えちまう」
「だからね、スペックに頼みがあるんだ」
リッカはニヤリと笑って家のほうへと視線を向けた。
ようやくかえってこれました。