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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第3章 墓守リッカと恨みの源泉
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第88話 旅立ち前日

 夜があける。

 空は薄く曇っているが、太陽の優しい光は十分に届き、鳥達の歌声も響いている。


「あ、リッカさん、おはようございます」

「おはようございます」


 入口に立っている職員は簡易な物ではあるが鎧兜を身に着けて、腰には剣も下げている。

 街中で騒ぎが続いているので、教会も警戒を強めている事の現れだろう、街の人々に不安を与えないようにという甘い事は言えないと判断されているらしい。


「だいぶ重装備ですね」

「自衛団と一緒に見回りまでやってますから、これくらいしないと」


 街中でアンデッドを見たという報告も増えている。

 神父モーラが悪魔化したという話も噂として尾ひれ背びれがついて、街に広まっているところに学園に再び悪魔が出たという情報も飛び交っているようで、街中の警戒も跳ね上がるというのも頷ける。


「お疲れ様です。カルアさんはいます?」

「徹夜でお勉強して頂いてますよ、2階の会議室にいるはずです」

「ありがとうございます」


 多少疲れの見える教会の職員を後にして、リッカは階段を上り、会議室のドアに手をかける。

 もう一方の手には布で厳重に包まれた荷物を持っている。


「おはようございます、カルアさんいますか?」

「おはようございます。いいところに来てくれました」

「お、おはよう、ございます」


 開かれた会議室には2人の女性が向かい合って座っていた。

 爽やかに答えるポニーテールのクーラと、机に突っ伏している新人墓守カルアがそこにいた。


「聞いてくださいよ、カルアさんお祈りの言葉もろくに覚えてないんです!」

「ちょっと! リッカさんには言わないって言ったじゃないですか!」

「必要なとこだけ覚えたら言わないって言いました! 覚えてないでしょう!」

「だって、こんなにあるなんて!」


 カルアが立ち上がって、顔を赤くして両手をバタバタと振っている。

 遠征に行く際には地方の村の教会にも寄る、時には祈りの時間に立ち会う事や葬儀の参列にも加わる事になる。そんな時に祈りの言葉を知らないでは済まされない。

 実際にはリッカが言った後に続いたり、メモを見たりしてもよいのだが、ある程度は暗器していないとスムーズに進まなくなってしまう。


「遠征までに覚えろって言われても、覚えきれませんわ」

「覚えられなかったら、遠征中もこの本を読みながら歩いてもらいます!」

「ぜったい嫌! そんな重い物もっていきません!」


 どうやらカルアも睡眠時間を削っているらしい。クーラが押し付けている本は厚すぎて片手では持てないほどの大きさと重量をもっている。

 リッカも自分の修業時代に同じような事をしていたので、懐かしさもあり、ついついクスッと笑ってしまう。


「リッカさん? 仮にも師匠なんですから、笑ってる場合ではないですよ?」

「え、あ、すみません」

「昨日、何人も怪我人を置いて行ったことも忘れてませんからね?」


 標的をカルアからリッカに切り替えた、クーラに詰め寄られる。

 カルアがちょっとだけ笑ったような顔をこちらに向ける。クーラとの言い合いのせいか、徹夜のせいか目が血走っており、笑顔にもかかわらず、恐怖を与えてくる。


「いや、それは、あの、他に連れてくとこもなくてですね」

「ええ、そうでしょうとも、リッカさんだと治せませんでしょう!」

「あっ!」


 戸惑ったリッカが脇に抱えていた荷物を落として、ガチャリと金属音を立てる。


「ん? リッカさんそれは?」

「しまった! プレゼントなんです。落としちゃいましたけどね」

「私に? さすがに少しは申し訳ないと思ってくれたんですか?」

「いや、カルアさんに……」


 怒っているクーラの顔に冷たい笑みが足されたようにリッカは感じ、背後には青い炎が燃え盛っているような幻覚すら見えている。


「私の仕事を増やして、私以外へプレゼントねぇ?」


 怒りの炎に氷のような視線がリッカを燃やしながら凍てつかせる。

 しどろもどろになりながらも、クーラを落ち着かせる方法はないかとリッカの頭は高速で回転する。


「あ、ほら、明日から遠征ですから、遠征の後にね、美味しい物ごちそうさせて下さい」

「ふむ、もう一声」

「え!? えーっと、果実酒の上級品とか? 髪飾りとか?」

「惜しい!」


 リッカの提案にクーラは少しだけ怒りの熱量を下げ始める。

 いつの間にかリッカの近くに来ていたカルアが、床の荷物を拾いあげる。


「ナイフですね、あら2本ありますわ?」

「ほー、リッカさんとカルアさんでお揃いと?」

「違いますよ! 右と左です!」


 カルアが包みから取り出したナイフは2本、ナイフというよりはショートソードをさらに短くしたようなみために、柄の部分は手をすっぽりと覆うほどの大きなガードがついている。

 確かに握りや刃の付け方が若干違い、右手と左手それぞれに持ちやすいように作られており、カルアの手に丁度収まるような絶妙なサイズになっていた。


「ありがとうございます、リッカさん、すごい手に馴染む感じがします」

「あ、握りもよさそうですね、合っててよかった」


 プレゼントを喜んでいるカルアは視線をキュっとクーラに向けて、ニヤっと笑う。


「あ、クーラさん、私が羨ましいんですね? こんな特別品もらっちゃったから」

「違いますよ! 私はただ、仕事を増やして無神経でいるリッカさんに腹が立ってるんです!」

「へ~、リッカさんとお揃いの何かとか欲しいのではなくて?」

「な、な、なんてこと言うんですか! そんな事言ってる前に早くこの本覚えて下さい!」


 クーラとカルアの掛け合いが再び始まる。

 本当はナイフの使い方や持ち方の説明をしたかったリッカだったが、この話には入れそうもない。だが、言わないと帰れないので思い切って声をかける。


「あの~」

「リッカさんあとにして下さい!」

「リッカさん、私へのプレゼントも考えて下さい!」

「あ、はい」


 しばらくたち尽くすしかないリッカだった。

ようやく体調も戻りまして、帰って来れました。

これからもよろしくお願いします!

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