第87話 副業と贈り物
「ふぁぁ~」
気だるそうに欠伸をしながら、いつもは目が覚める夕暮れの時間に家に帰ってくる。
「これで着替えて、見回りかぁ、正直眠いよなぁ」
いつもの墓守の服装でも、街中を歩くための普段着でもなく、革で作られた簡易の鎧と腰に巻き付けるようなツールバックを身に着けている。
肩や首を回しながら、扉に手をかける。
「おかえりだんな、って冒険者みたいなかっこして、どうしたの?」
「ただいま、あー、疲れた」
「って、本当にどうしたの!?」
リッカがテーブルの上にポイと投げた革袋からジャラリとお金の音が聞こえてくる。
「今日の稼ぎ」
「一応、聖職者なんだからさぁ……」
「真っ当な報酬だからね!」
手慣れた手つきで革鎧を外しながら、スペックに言い返す。
「教会に関わりたくないって人達からの幽霊退治の仕事もあるの」
「だんな教会所属じゃん」
「だから、冒険者として行ってきたんだよ」
「え~」
墓守になる前は魔術師として仕事をしてきたリッカだったので、今でも時々はそちら側の仕事も入ってくる。
裏ギルドの連中もアンデッドには手を焼いているが教会には頼めない。教会としてもアンデッドを放置する訳にもいかず、リッカが冒険者という肩書で対処してきた。
「娼館のバイオレットさん近くの裏ギルドね、先代ボスの幽霊が出たんだって」
「え、あの短気の太っちょが死んだの?」
「亡くなったのはかなり前だけどね、スペック知ってるの?」
「あ、え~っと、いやいや、有名じゃん教会嫌いでさ」
犯罪をするために集まったとされるギルドも街には存在する、そんな団体は教会や国に頼ろうとすることはほぼ無く、何かを頼む時には冒険者を使うことが多い。
今回のようなアンデッド関係は冒険者の中でもこなせる人材は少ない。
「今のボスが教会との関係改善をしようとしたのが気に入らなかったみたい」
いつもの墓守の服装に着替えて、パンを齧る。
「何があったかしらないけどね、部屋中の武器振り回して大変だったよ」
「で、魔素に還してきたのね」
「そうそう、若手の人達がボッコボコにされててね、教会のクーラさんとこに運び込んできた」
「なんか、もう一回くらいひどい目に合ってそう」
水筒の中身を補充して、清めの酒などもローブに詰め込む。
パンの最後の一口を押し込むように食べ終えると、あくびをしながら濃紺の空に向かって歩きだす。
「ふあぁぁ、やっぱり眠い」
昼間に仕事をしてきたということが、リッカは寝ていない。
眠い目をこすりながら本来の仕事に向かう。
「徹夜で副業なんて大変でしょ」
「カルアさんの装備そろえるのが師匠としての勤めだからね」
「貧乏も楽じゃないねぇ」
「うるさい」
今日も墓守と死者達の時間が訪れる。
遅くなりました。
最終までの構想も作りましたので、頑張って書いてきます!