表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第3章 墓守リッカと恨みの源泉
92/105

第86話 酒の席

 ホカホカと湯気があがる串と、冷たく冷やされた割り酒が3つテーブルに並ぶ。

 油を通しているためか具材になっている野菜は、生のときよりも艶やかに宝石のように輝いている。熱いだろう事は頭では分かっているが、耐えられないとばかりにガブリとかじりつく。


「ほぅ!!」


 口の中を焼く温度と、確かに伝わる野菜の旨み。思わず奇妙な声をあげながらハフハフと息を吐く。

 熱さに耐えきれず火傷する直前に割り酒を流し込む。


「ぷっはぁ~!! 美味しい!」

「カッカッ、美味そうに食ってくれるなら、紹介した価値はあったな」

「くぁ~」


 油に焼かれそうになっていたリッカは、大きく息を吐いて笑顔を見せる。

 そこへ、油のシミが目立つエプロンを付けた店主が具材の追加を持ってくる。


「はいよ! 揚げたて追加しとくぜ! コラーさん、こっちは新入りさんかい?」

「こないだ連れてきたじゃろが、ワシと同じ墓守だ」

「あ~! こないだの! 服違うから分からなかったぜ、ゆっくりしてってくれな」


 今日はリッカもコラーも墓守のローブは纏っていない、街中を行き交う人々と同じような普段着に身をつつんでいる。

 コラーはぴっしりとしたスーツのような黒の上下に背の高い黒い帽子を被っている。

 不思議と陰鬱な雰囲気は無く清潔感が漂い、肩にとまっている相棒の白いカラスも衣服の一部のように見えてくる。


「まったく、墓守しとると顔を覚えてもらうまでに時間がかかる」

「みなさん服装見ただけで離れちゃいますからね」

「だんなは印象に残る顔でも性格でもないからな」

「スペックよりは見られてるって」


 3つ置かれた割り酒はリッカとコラー、そしてこの場では2人以外には見る事のできないアンデッドのスペックと、白いカラスが今日の食事会のメンバーである。

 コラーは冷めて食べやすくなった具材を肩のカラスへと運びながら、語り掛ける。


「リッカよ、話は聞いているよ、もう遠征の話が来とるとな」

「ええ、いくら何でも早すぎと思ってます」

「お前の時も早かったが、それでも季節は回っていたからな」


 リッカは冒険者としての経験があり、野外の活動に慣れていたし危険な場数も踏んでいた。法術や魔術も元々齧っていたから他の墓守に比べて独立は早かったがそれでも1年はかかっていた。

 カルアはつい最近に墓守になったばかり、独立の機会となる遠征の話がくるのが早過ぎると考えるのは自然な事と言える。

 割り酒を一口含み、真剣な表情と口調へと様子を変えながら話を続ける。


「嬢ちゃんは上級貴族出身だ、教会に入った事で立場が消えたとしてもその肩書は変わらん」

「うんうん、コルフィ家の娘だもんな」

「じゃから、墓守の立場にしても最速で出世させるんだろうよ、おそらく上の連中は嬢ちゃんを王家直系の墓守にすることも考えとるはずだ」

「王家の墓守!? 確かにカルアさんなら」


 王家や国に尽くした英雄たちが眠る墓所は、この国全体を見下ろす山にある。そこは市民は周辺まで行けるが墓所に入る事ができるのは選ばれた立場の人間だけになる。

 そこを守るため、特別に専属の墓守として任命されるのは貴族出身者であり、墓守としての立場が高く、法術や魔術の扱いに長けており、武芸にも秀でた者の中から選出される。


「任命できるように墓守の立場はあげておこうというのだ、実力は後から付いてくると見越してな」

「なんか、お貴族様のやりとりだな」

「カッカ! その通りじゃ!」

「くぁ!」


 出された物を食べ終えたカラスが、もっとよこせとコラーの頬をつつく。


「なんじゃ、まだ食うのか。おーい! こいつに肉出してやってくれ!」

「あ! 割り酒もう一杯分!」

「だんな、まだ飲むのかよ」


 他の客の声の合間を縫って店主の返事が聞こえる、どうやら注文は通ったらしい。

 コラーもリッカも串に手を伸ばす。


「ところで、嬢ちゃんに墓守の作法やら口上やらは伝えたか?」

「え、えっと、何にもしてません」

「カッカ、だろうな出発日までに形にしておかんと、嬢ちゃんが恥かくなぁ」


 コラーがニヤニヤとした笑みを見せると、肩のカラスもリッカへと視線を向けて目じりを下げたように見える。


「このままだと嬢ちゃんが可哀想だなぁ、急いで色々教えてやらんといかんなぁ」

「へー、なんか色々あるんだな」

「そうじゃ、先輩墓守からは新入りの巣立ちには武器や道具を用意してやる風習がある」

「金もかかるんだろうなぁ」

「意外と墓守の用品は高いからなぁ、新品揃えて行かんと恰好がつかんなぁ」

「嬢ちゃんの親にも頼めないだろうなぁ、師匠だもんなぁ」


 顔もゆらゆらとしてよく見えない影のようなスペックだが、コラーと同じようなニヤニヤ顔をしているのは良く分かる。2人して示し合わせたかのように、遠回しに語る。


「分かってますって、遠征日までに作法を教えて、道具一式プレゼントすればいいんですよね」

「そうじゃ」

「だんなの自腹ってことね」

「カッカ! そうじゃ!」

「くぁ!」


 リッカも独立の時にはコラーから色々と贈り物をもらっている。それと同じことをするだけなのだが、これほど早く用意が必要になるとは思ってもいなかった。

 それ故にリッカには1つ悩みが生まれていた。


「それが……」

「ん、なんじゃ?」

「お金にちょっと不安が……」


 最近リッカは出費続きだった、悪魔とやりあったせいで呪いを用心してから装備品は一式新しくさせられた。怪我も多かったので治療費もかかっている。

 つまり先立つ物がないのだ、給金日もまだ先でそれまで待っていたら遅すぎる。


「よし! わかった!」

「コラーさん貸してくれるんですか!?」

「カッカ、今日の勘定は持ってやるから弟子の分は自分で用意せい」

「う、分かりました。ごちそうさまです……」


 リッカの仕事と心配事がまた増えた。

しばらくは不定期更新の予定ですが、できるだけガンバリマス!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ