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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第2章 墓守リッカと初めての弟子
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番外のお話し その4 ある日の相棒

 頭の中に響、いや、体の中から響いてくる声と、子供を殺してしまおうとして動こうとする体。

 人に触れる事も真っ当には出来なかったはずなのに。


「死ね、やれ」

「やらせるか!」


 必死に自分と自分の中にいる奴を抑えながら広場まで歩いて戻る。

 ここなら、夜は誰もいない、昼になれば俺は消えちまうはずだから、ここならこいつを止められる。

 すくなくても今日だけは。


「ここには誰もいない、戻る」


 足が勝手に人通りの多い方へと歩いて行こうとする。


「うるさい!」


 勝手に動こうとする足を止めて無理やり止める。

 自分の体なのに勝手に動きはじめるし、変な声は聞こえ続けていて鬱陶しくてたまらない。

 まだ、太陽が沈んだばかり、俺が意識を手放すまでまだまだ長い。


「へ、へへ、長い夜になりそうだな」

「どうしたの? 具合悪い?」


 俺がさぁ子供達を守るためによぉ、一晩中こいつを抑える仕事をするぞって覚悟を決めたとこだっていうのに誰だ、軽口を叩く奴は?

 分かってるって、俺が見える奴なんて1人しかいないんだよ。

 いつの間にかうずくまってた俺が顔を上げると、真っ黒なローブを羽織っているだんなが立ってたんだ。


「君の中にだれか居るね、何があったの?」


 交差点に幽霊が居た事、子供を走ってくる馬車に向かって押し出そうとしたところを止めた事。

 そして、俺の中に幽霊がいるような、俺が幽霊の中に入ったような、ずっと奴の声が聞こえ続けている事を話す。


「あー、大変だったね」

「だんなさぁ、今、本当に大変なんだぜ」

「ちょっとみるよ」


 俺が大変だってのに、手軽な返事しやがって……


「おぶわぁ!!」


 俺の体の中にいきなり手を突っ込んできやがった。

 次の瞬間に俺の意識が遠くなったり、ハッキリしたりしながら頭を振り回されているみたいに視界もぐっちゃぐちゃにされていった。


「ふん!」

「いっでぇ!!」


 だんなが掛け声をかけて俺から腕を引き抜く。

 それと同時に俺の体に痛みが走る。幽霊になってから、はじめて痛いと感じた。


 痛かった、つらい記憶のはずなのに、生きている事を感じて妙に嬉しかった。

 けど、いきなり痛い目を見せられたもんだから腹も立つってもんだ。


「いきなり何しやがる!」

「ごめんごめん、こいつだろ、君の中にいて、事故の原因になってた奴って」

「そんなドロドロのかたまりじゃねえぜ」


 墓守のだんなの手もとには真っ黒でドロドロな固まりがまとわりついているが、溶けるように段々と空気に散っていっている。

 確かにに体から聞こえてくる声はだいぶ小さくなった。

 けど、だんなが持ってる泥の固まりみたいな奴が幽霊とは思えない。


「君の中にいた、君じゃないやつをかき集めたらこうなった」

「え~、でもまだ頭の中で『死ね』とか『殺せ』って声聞こえてるぜ」

「うん、これは幽霊の『力』だけみたい、子供を殺そうとしていた『想い』つまり魂は君の中に残ってる。だから声が聞こえるんだね」

「これずっと聞こえるの?」


 ちょっと考えてみれば怖い事だ、これからずっと俺の人生……

 あれ? 人生は終わってるから、幽霊生? ともかくこれからずっとこの声が聞こえ続けているってのはカンベンしてもらいたい。


「相手の大半を引っこ抜いたからね、多分明日には聞こえなくなってる。君の中に吸収されるからね」

「吸収?」

「幽霊って、他の幽霊と混ざったりするんだけど、相反する想いを持つ幽霊はどっちかに喰われちゃうんだよ」


 さらっと、とんでもない事いいやがった。

 俺がこの声に喰われちまうかもしれないってことじゃないか。


「ど、どうしたらいいんだ、俺喰われたくないぜ!」


 喰われたら、子供たちを殺したりするようになっちまうんだろうか。

 俺が俺じゃなくなっちまうんだろうか。

 怖くて怖くて仕方ない。


「多分大丈夫でしょ、相手は引っこ抜いたし。もし、喰われちゃっても子供達を手にかけることはないから安心して」


 そうか、大丈夫なのか。

 喰われちゃったらどうなるんかな.


「喰われたら、喰った側の幽霊だけが残る、君の力を全部奪っていくからね。子供達を危険にさらせないから、僕が責任を持って世界に還してあげるよ」

「そりゃ、どうも、俺が俺のままだったら?」

「ほっとくよ、君がいると子供達が門限をちゃんと守ってるみたいだからね」


 アイツらの顔を見てられるってんなら、もうちょっと頑張ってもいいか。


「多分、朝になる頃には声も聞こえなくなるでしょ」

「必ず?」

「多分だってば、それまで一緒にいるからさ、もし襲って来たら……こうなる」


 だんなの手にあった真っ黒なドロドロが一瞬で消える。

 魔素を散らして世界に還したんだろう。


「そりゃおっかねぇな」

「じゃ、頑張って『喰われないようにね』」

「頭や体から声が聞こえているのキモチワルイから、話し相手でもしててくれよ」

「はいはい、子供たちの見守りをしてくれる守護霊さん、こんな墓守でよければお相手しましょう」


 なんか、大丈夫そうだな。

 もしダメでも、だんなが世界に還してくれるって訳か……


 死んだ後でもこの世にいていいんだな。

 俺のやりたい事やっていいんだよな。


「それで、君の名前は?」

「え? 幽霊に名前聞くの?」

「普通聞かないよ、でもこれだけ意思がはっきりして、他の幽霊と喰い合い出来るくらい意思あるんだから、名前くらい思い出してるでしょ」

「あ、あー、すー……」

「す~?」


 ちきしょう、なんか調子狂うな、幽霊に頼み事するわ名前は聞くわって、そもそも幽霊に対してこんなに平然に話が出来るんだよ。

 墓守ってこんなやつばっかりなのか?


「す、スペックだよ」

「スペックね、覚えとくよ、僕は新人墓守のリッカ、よろしく」

「あ、ああ、よろしく」


 気が付けば、体の中からの声は消えて、だんなとどうでもいい話ばっかりしてたんだ。

読んで頂き、ありがとうございます。

第3章のプロットを作るため、しばらく更新が止まるかもしれません。


エターナルはしませんので、今後ともよろしくお願いします。

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