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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第2章 墓守リッカと初めての弟子
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番外のお話し その3 ある日の意地

これと、次の番外編で2章が終わります。

次は月曜日までにアップします。

「ひっ! なんかぞくっとした!」

「あ、今日はもう帰ろうぜ!」

「そうだね、夕方だから帰らないと、また明日ね!」 


 1人の背中に触ったら、みんな帰ると言って帰っていった。

 今日はすぐに気が付いてくれたな、よかったよかった。

 さて、幽霊には珍しい仕事を片付けに行こうかね。

 

 俺は墓守のだんなに頼まれた大通りの見張りに向かう。


 幽霊に予定があるなんて変な話だけれども、馬車に引かれる事故の犠牲になっているのが子供とその親ばかり。

 墓守のだんなは、俺みたいなアンデッドが関わってるって言ってるからな、そんな悪い奴がホントにいるなら、何とかしなきゃいけないわな。


 広場から出て、だんなに言われた大通りまで歩いて行く。

 とはいっても俺は幽霊だからな、歩くみたいにふわふわ漂いながら流れて行ったって歩き方しかできないんだわな。

 そういえば広場から離れるなんて幽霊になってから初めてだけど、大丈夫なんかな? まぁ、消えても別に困らないから気にしなくていいか。


 ぼんやり歩いているといつの間にか、だんなに言われた大通りに付いた。『事故注意』って手書きの看板が立てられているから、多分事故現場はここだろう。


「さて、俺はここを見張っていればいいのかな?」


 ポソリと口にしてみるが、誰も振り向かないし、誰も答えない。

 俺の体も見えていないようで、道行く人は次々と俺の体を通り過ぎて行く、その都度背中を震わせているのには笑えるけれど、やっぱり誰にも見えておらず声も届いていないという事を嫌でも理解させられる。


「せつねぇなぁ」


 時間なんていくらでもある、俺は幽霊でやる事もないからな、道の端っこに突っ立ってぼけ~っと道を見ていると、やっぱり大通りというだけあって馬車や人がひっきりなしに通っている。

 笑いながら親子連れが手をつないで歩いている。

 孤児院のやつらも、親がいたんだよなぁ。


「いいな、家族って」


 誰にも聞こえない声でそう呟いた瞬間、親子連れの子供の後ろに真っ黒な影が現れる。

 俺にそっくりな人間の影が立ち上がったような姿をしている。


「なんだあいつ?」


 立ち上がった影は、両手を子供に向けてにじり寄るように近づいていく。


「死ね……」


 ぽつりと声が聞こえたような気がした。


「死ね……」


 あの子が危ない、影の手は段々と子供に近づく。

 幽霊の手は生きている人には触れない、そのはずなのだが、直感的に分かる。

 あの手は触れる、あの子を押すとなぜだか分かってしまう。


「死ね!」

「まちやがれ!」


 咄嗟に俺の手が出る。

 このままでは子供が押される、押された子供は勢いよく走っている馬車の前に飛び出してしまう。

 そんなことになれば、悲劇だ、惨劇だ、墓守のだんなが居れば何とかしてくれるかもしれないが、ここには居ない。


 俺の手がズブリと影に吸い込まれる。影の体も俺の中に吸いこまれるように引き込まれる。

 気持ち悪りぃ……

 俺の中に誰かが居ながら、俺が誰かの体の中にいるような気色悪い感覚。

 さらには頭の中で声がする。


「邪魔するな! 死ね、死ね! あいつは死ぬんだ!」


 うわぁ! 気持ち悪い!

 体の中、頭の中で声がする。俺の頭の中で何度も死ねと声をかけてきやがる。


「やめろ! そんなこと止めるんだ! 死ななくていいんだよ!」


 振り払うように俺も叫ぶ。

 周りには沢山の人がいるが、俺の叫び声も、この影のような幽霊の叫び声も届かない。

 何もないように、平然と通り過ぎて行く。


 俺は頭の中で響く「死ね」という声に「やめろ」と言い返し続ける。

 幽霊になってから、眠いとか、腹減ったとか嫌な気分になる感覚なんて全くなかったけど、今初めて生きていた時に味わった時とはくらべものにならない気持ち悪さを抱えている。


 フラフラと歩くが、誰にぶつかっても気付かれない。誰も助けてくれない、誰も気が付かない。


「死ね!」


 でも、こいつは連れてかなきゃいけない。

 ここにいたら、誰かを殺しちまう。


「死ね!」

「やめろ! そんなことはさせない!」


 俺は道を行きかう人達とぶつかりながら歩く。

 それでも誰も気が付かない。少しばかり背筋を震わすくらいで、俺が居ることに気が付かない。当然、俺と一緒にいるこの危険な幽霊にも気が付かない。


「死ね!」


 俺の手が勝手に動いて、近くにいる子供に伸びる。


「やめろ!」


 俺が叫ぶと、俺の手が明後日の方向に引っ張られて、壁を叩く。


 触れた、幽霊になってから何かを触ったという感覚は初めてだった。

 触ろうとすると俺の体が霧みたいになって触ったという実感が薄かった、今回はしっかりと『触った』という事が分かったが、同時に恐ろしくなった。


 俺の手が子供に当たっていたら、この子供は道に突き出されていた、行き交う馬車の車輪に巻き込まれて

大怪我を負ったに違いない。


 広場に行かないと、あそこなら、夜は誰も来ない。

 朝になればこいつも消えるはず。


「死ね!」

「やめろ!」


 不毛で不気味、それで誰も気が付かない。

 そんな争いをしながら、俺は広場に向かって歩く。


「だんな、厄介な奴、押し付けやがって」


 頭の中に響く声を押さえつけ、近くを通る子供を押しのけようとする手を押さえながら、俺は歩いて行った。

読んで頂きありがとうございます。

次の3章が終わった所で完結予定です。

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