第84話 手を引く者
カクテル・グラッジを撃退し憑りつかれていた男を助けたリッカとカルアだった。
その翌日にはカルド神父の教会に所属する人間が多数集まる会議が開催されていた。
「ほう、それで、男に憑りついていた悪霊どもを引っこ抜いたという訳だな」
恨みの集合体を撃退した翌日、リッカとカルアは教会に報告来ていた。
倒れた男をリッカの家に連れて行き最低限の応急処置を済ませた所に、スペックが呼びに行っていた教会から到着した。
特殊で危険なアンデッドが街中に出現したということで、最初に駆け付けた教会の職員を連れたカルド神父の後、コラーやパニシュ、ゼロストまで、カルド神父の教会が抱える法術師が全員集合するほどの事態となった。
このときに集まった面々が今日も集まって緊急会議を開いている。
「リッカ君は知ってると思うけど……」
「ええ、恨みの集合体は自然には発生しません、間違いなく死霊術師が関わってます」
「そうなんだけど、よく倒せたよね。この間のバランだっけ? 対悪魔の失敗を帳消しするどころか大手柄だよ」
恨みの集合体は自然には生まれない。
死んだ者達を操り、生きている者へ害を与えるように仕向ける死霊術と呼ばれる、法術を悪用するよう技術を使わないと発生する事は無い。
普通、似たような恨みを持つ幽霊達は互いに食らい合うか融合するかで、1つの意思の存在となるが、いくつもの意思が同時に存在するためには死霊術の介入が必要だ。
多数の幽霊が混在することで、法術の波長合わせの難易度が跳ね上がるため、結果的に除霊することが難しいアンデッドに肉体を乗っ取られることになる。
「そうだな、憑りつかれた人間が助かるとは、奇跡とも言える。街にも被害がなかったからな。リッカード、カルア、よくやった」
「ありがとうございます、あの男性も助かってよかったです」
「え、そんなに恐ろしい幽霊だったんですか?」
多数の幽霊に乗っ取られた肉体は、その力を限界まで無理やり引き出され、崩壊する事を厭わない。憑りつかれていた男の両手両足の骨は砕け、肉は千切れ、関節も外れていた。
リッカも追い出す事はできたものの、世界に還すほどにまで細切れに魔素を散らす余裕はなかった。拳で魔素を払う事に特化したカルアがいたからこそ、憑りつかれた男を助けることが出来たのだ。
「怪我は酷いですが、これくらいなら治せますからね」
「そーですねー、命に別状はないですよー」
クーラとリキュは治せると断言している。
強大な悪霊に憑りつかれると肉体を限界をはるかに超える力を発揮する。
実際、恨みの集合体に憑りつかれた男はショートソードや強化されたローブなどの装備をしているリッカを圧倒するほどの強さを見せていた。
幽霊を引きはがす前に法術師が殺されるか、憑りつかれていた人間が限界を超えて死を迎えアンデットに成り果てるかの2択にならざるを得ない。それほどの力をもった悪霊なのだ。
「僕も墓守になってからこれほどの悪霊は初めてです」
「カッカッカ、10人以上の大物なぞ、ワシも会った事ないわ!」
「クァー!」
「うむ、多数の悪魔を殺してきたこのゼロストも無い」
2人の発言で、どれほどの悪霊だったのか会議の全員にハッキリと伝わったようで、沈黙が訪れる。
それを打ち破るようになんとか声をだしたのはカルド神父だった。
「そ、それで、助かった男の人は何か言ってた?」
「は、はーい、なんか、小柄な男とピグマンを馬車に乗せたらしいですー、それにバランとか呼ばれてた人間ものせたらしいですー」
「バラン!?」
「バランだって!?」
「他の2人の特徴も一致しますよ!?」
会議の空気が混乱と戦慄に支配される。学院の調査に行ったとき、バランは間違いなく倒れた。それをピグマンにバリバリと喰い尽されている。
小柄な男の特徴も、リッカに得体の知れない拳を打ち込んだ人物に違いない。
バランが生きていて、小柄な男とピグマンと共に居る。言い知れぬ不安感、恐るべき力がこの地へと向かっている事を感じざるを得ないリッカだった。