第82話 殺さぬ戦い
不吉な来客を叩き出したが、何度でも立ち上がってくる。
リッカは除霊へと今日の仕事を切り替え、覚悟を決めて相対する。悪霊に憑かれた男を助ける事も墓守の勤めの1つだから。
天の涙に濡れたおかげで、リッカの寝ぐせが跳ねていた髪も水の重さで全てが下を向く。
目の前にかかる濡れた髪をかきあげて多数の悪霊にとりつかれた男へと視線を向ける。
「ひぃ、痛てぇ! よくも刺してくれやがったな! 足が痛てぇんだよお!」
勢いよく外に叩き出されたというのに、男は平然と立ち上がってくる。
刺した、足が痛いなど言っているのは男にとりついた悪霊たちの怨嗟の声を男が言わされているのだ。刺し傷などはどこにもないし、足は平気に動き、両の足に力をこめて再び飛びかかろうとしているほどだ。
テーブルにぶつかったときなのか、指の数本があり得ない方向に曲がっており、痛がるとしたらそっちが先になるはずだが、そのようなそぶりは全くない。
「いてぇんだよぉぉお!!」
「元気すぎだよね!」
雄たけびをあげながらリッカに向かって走り込み、指の折れた腕を突き出してくる。
右手で鞘に納めたままのショートソードで突き出された腕を弾き、男の懐へと飛びこむ。男の体に左手を当て、法術で男の体に入っている悪霊を引きはがす。
はずだった。
左手から流し込む魔素を操作するつもりだったのだが、リッカの法術は男の体に入っていかない。
「嘘!? 法術が通らない!?」
「仕返しだぁ、お返しだぁ、私をひどい目に合わせたお礼にぃぃ! 助けてくれよぉ!」
何人分にも声色を変え、男も女も入り混じった声を発しながら、男はリッカの首に両手をかける。
衝撃を打ち込まれた体に、へし折れた指、たった今、ショートソードを殴りつけて流血までしている男の手がリッカの首にずぶずぶと沈み込んで行く。
「くっ! かっ……このっ」
徐々に息が苦しくなり、意識が遠くなっていく事に焦っていく。
ショートソードを取り落とし、喉から男の手を引きはがそうとしながら、体を悶え浮き上がった足で男を踏みつけるようにして男から解放されようと抵抗をする。
「かっ……」
「けひっ!!」
だが、リッカに如何に暴れようとも男の手は首から離れようとしない。
意識を手放しそうになった瞬間、女性の掛け声が聞こえ、男の体が吹き飛ばされる。
「ハァ!!」
「うべぇ!」
リッカは地面に落とされて全身を泥にまみれさせる。喉には赤々と人間の手の形の色が付き、ゲホゲホと咳き込みながら空気を肺へと吸い込ませていく。
女性の掛け声は続けて聞こえ、男の叫び声と共に声が遠ざかり、庭においてある道具を倒しながら倒れ込む音が聞こえてくる。
「ふぅ! リッカさん! 大丈夫ですか!?」
「かはっ! ひゅー、ひゅー、助かりました!」
男を吹き飛ばした女性、カルアは雨に濡れるのも構わずリッカの体を起こして声をかける。自慢のふわふわの金髪がリッカの顔にも触れようとしたその瞬間。
荒く息を整えていた、リッカは目を見開いてカルアの体へと腕を伸ばす。
「か、カルアさん! 危ない!」
「え?」
顔からも流血させている男は、すでにカルアの後ろまで迫り、その強力な力をカルアに向けようとしていた。
リッカはカルアを抱き寄せるようにして地面へ引き倒した直後、男の腕は空を切り、風をきる鈍い音をカルアの耳へ届ける。
もしそこにカルアの頭があったなら、キレイな鮮血の水たまりができたことだろう。
衝撃の魔術媒体を男の体に密着させ、男を再び吹き飛ばす。
さすがに何度も吹き飛ばされたためか、動きもようやく鈍くなってきているが、かわらず悪霊たちは男の体からでてくる気配はない。
「あれだけ殴ったのに効いてない!」
「カルアさん! あの男の人とめます、手伝ってください!」
全身を泥にまみれさせながらリッカは衝撃の魔術媒体を握り直す。
「リッカさん! なんで剣を取らないんですか!?」
「あの男の人、死んでませんからね」
「え? アンデッドじゃないんですか!」
「僕もあれだけ強力に憑く奴は初めてです! でも間違いありません、あの人助けますから手伝って下さい!」
リッカとカルアが立ち上がり、構え直した頃、悪霊にとりつかれた男も立ち上がっていた。
全身から血を流し、骨を折り、ブツブツと呪詛の言葉を吐く男は、どう見てもアンデッドそのもの。ましてリッカが強いと断言するなど初めての事だ。
カルアは命の危険すらも感じながら、足の震えを押し殺し、リッカの隣にならぶのであった。
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