第78話 暗躍
リッカ達が街中で過ごしている頃、街の外れでは不気味な事が起こっていた。
シトシトと雨が降る。
昼過ぎだと言うのに、空が分厚い雲に覆われて夜になったかのような重苦しい色に世界が覆われている。
「天気、最悪だな」
「あ、雨が強くなりそうなんだな、あ、あ、雨で夜は危ないんだな」
「仕方ねぇよ、バランの所から調査されたら俺たちまで捕まっちまう」
小柄な男と、大柄なのにオドオドしているピグマンは北の外壁に設けられた門の所へ来ていた。
北の国の方面へと向かう馬車もここから出発している。普段は入国する人や出国する人でごった返している所なのだが、昼過ぎという時間に加えて、今にも土砂降りになりそうなこの天気の中を旅立つようなもの好きも少ないため、馬車乗り場は閑散としている。
煙草をふかして暇そうにしている定期便の馬車の御者の所へ、小柄な男は音もなく近づく。
「おい」
「おわ! びっくりした!」
御者が飛び上がるように驚いた。その拍子に手から零れ落ちた煙草が水たまりに落ちてジュっと音を立てる。
「あんた、驚かせないでくれよ」
「悪かったな、北の国との境目の山あたりまで行きたいんだ、今日は出せるか?」
「この悪天だぜ、明日にしなよ」
「急ぎなんだ、倍額出す。あと、これは取っときな」
金貨を御者に渡したあと、懐から薄汚れた袋を取り出して、それも御者に押し付けるように渡す。
いぶかしんだ様子でありながら、袋をそっと開けると中には紫色の宝石が付けられた指輪が入っていた。
「なんだいこりゃ」
「大人2人で倍額でも、4人分の儲けじゃ安いよな。本当に急ぎなんだ特別代金だ。あと煙草も弁償してやるよ」
「へー、気前いいじゃねぇか、だけどこの馬車は8人乗りなんだ、ちょっと足りないな。ん? 後ろのあんたも明日にしてくれよ」
御者は、小柄な男に金と指輪を押し返して、小柄な男の後ろにも声をかける。
「あ、あに! 兄貴!?」
「どうした? なっ!!」
小柄な男と大柄なピグマンの後ろに1人の男が立っていた。
背が高く、白髪交じりだがよく整った髪、ピッチリとしたスーツを着て、背すじを伸ばした姿勢で立っているその男は口元だけが嫌らしい笑みを浮かべている。
首だけを御者の方へ動かして見下すような視線を向けながらも、優しいながら脅しを含むような声で言葉を紡ぐ。
「私も、丁度その辺りへ行きたいのですよ、大人12人分の金貨と、その指輪をつけましょう。それならどうです?」
男とピグマンは声も出ない。
そんな、2人の事を気にせずに驚いた男の手から指輪の袋をひったくるように取ると、その中に金貨をパンパンに詰め込んでから御者へと投げ渡す。
「へ? そんだけ出してもらえるなら、悪天候でも出しますぜ! ちょっと用意するから待っててくだせぇ」
「頼みますよ」
御者は小屋へと荷物を取りに走っていく。
空の色はますます黒くなり、不吉な様相を見せている。
「2人とも、あそこへ戻るつもりなんですね? 私も行きますよ?」
かかとをピッタリとつけて直立の姿勢を崩さずに声をかける。
「ば、ば、化けて出たんだな! 起き上がりなんだな!? アンデッドなんだな!?」
「失礼な、私の体を喰ったのは貴方でしょう、ゾンビではありませんよ」
硬直から解かれたピグマンは顔を真っ青にして、腰を抜かしながら這うようにして男から離れて行く。
「なんて酷い態度、そんなに怖がらなくてもいいじゃありませんか」
目が笑っておらず、口元だけがニヤリと笑っている。悪だくみが上手く行った、騙された哀れな被害者を嘲笑うかのような意地の悪い笑みだ。
「けっ、どんな手品だか知らねぇけど、気色悪いな」
「あなたも酷いですね『喰っていい』だなんて、痛かったですよかみ砕かれるのは」
「仕方ねぇだろ、悪魔化した死体なんて渡せないからな」
御者が急いで戻ってきて、馬をつないでいた紐を外して馬車を引かせるようにつなぎ直していく。金を奮発して払ったためか、まだ新しい毛布なども馬車の幌の中へと入れてくれている。
小柄な男は怯えているピグマンの体を押さえつけて、馬車へ引きづるように連れて行く。
「ひいい! あ、アンデッドと一緒は嫌なんだな!」
「悪魔だからアンデッドじゃねぇよ、黙って乗ってな」
小柄な男が巨体のピグマンを引きずって馬車に押し込む。
「バラン、こいつに食われたはずだよな、なんでここに立ってるのかも教えてもらうからな」
「ええ、もちろん」
食い殺されたはずのバランを含む3人を乗せた馬車が北へ向かって行った。
遅くなり申し訳ありませんでした。
今後もスケジュールにより遅れることがあるかもしれませんが、エターナルはしないよう、安定更新を目指して頑張ります。
読んで頂きありがとうございます!