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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第2章 墓守リッカと初めての弟子
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第76話 リッカの長い一日 ~翌日~

 事情聴取とお説教、墓場の見回りの長い1日は終わった。

 その翌日にはクーラに言われたカルアのお見舞いが待っていた。気まずさこそあるものの、平和に終わると思っていたリッカだったが……

 リッカとスペックの2人は大きな建物が並ぶ貴族の家が沢山ある区画を歩く。

 2人と言ってもスペックは幽霊なので、目には見えない。実際にはリッカが1人で歩いているようにしか見えないが、法術のセンスがある人ならば、近くを通る時にリッカの横に半透明な人影が見えているだろう。

 墓守の姿をみると、多くの人は不吉に触れたくないので離れて歩くので、スペックに気が付く人はほとんどいない。


「気が重い」

「カルアの嬢ちゃんに会うのが?」

「いや、だってさ、教会に来たから身分関係ないとはいえ、貴族のお嬢さんがケガした現場にいたんだし、それに……」

「それに?」

「スペックに『入って』もらったから」


 周囲の人に独り言を言っているように見られないために、リッカは魔素を使ってスペックと言葉を交わす。


「スペックが入ったなんて、カルアさん怒って僕までボコボコにされるんじゃない?」

「あー、嬢ちゃん相手なら、俺消えちまうよ」


 以前にも来た事があるカルアの屋敷の前に立つ、庭の掃除や手入れをしていた使用人が気が付いて声をかけてくる。


「墓守のリッカさんですか?」

「はいそうです。カルアさんのお見舞いに……」

「ああ! お嬢様も喜びます。どうぞこちらへ」


 屋敷に上がると応接間ではなく、生活のスペースの方へと案内される。どうやら、寝室へと通されるようだ。

 屋敷内を案内されるままに歩いているとスペックがそっと囁いてくる。


「なぁ、だんな、他にもお見舞い客いるか聞いてくれないか? 理由は後で言うからさ」

「え? 分かった」


 案内をしてくれる使用人の女性にリッカはスペックの言うままに声をかける。


「あの……」

「はい、なんでしょう?」

「私の他にもお見舞いの方は来られているのですか? もし重なるようでしたら、早めに帰ります」

「お気遣いありがとうございます。午前に教会の方が何人か来られた程度で、他に特に予定はありませんね」

「そうでしたか、では無理をかけない程度にさせて頂きます」


 そんな事を聞いていると案内の女性は1つの部屋の前の立ち止まり、リッカに待つように伝えて先に部屋へと入る。


「なぁ、嬢ちゃんは貴族の娘なんだろ? 怪我でも病気でも誰かしら見舞いに来るってもんじゃないか?」

「そうだろうけど、よっぽど悪魔付きとかの噂が響いてるのかな?」

「コルフィ家って言えば上級貴族の中でも特に国王に重宝されてるから、そのくらいで娘の見舞いに誰も来ないってのは……」


 スペックと話をしていると、寝室のドアを開けて閉まらないようにと女性が押さえてくれる。


「お嬢様から、お会いになるとのことです。どうぞお入りください」

「はい、お邪魔させて頂きます」

「おじゃましま~す」

「え? 空耳かしら、声が2人?」


 案内してくれた女性には空耳程度だった声も、ベッドで上半身を起こしているカルアにはハッキリ聞き取れたらしい。パジャマ姿で、髪の毛もまとめたり、縛ったりせずにふんわりと肩へ降ろしている。顔色こそあまり良くないが、表情は明るい。

 

「わざわざ、ありがとうございます」

「いえいえ、お会いして頂きありがとうございます」

「邪魔するぜ、嬢ちゃん」

「そんな、かしこまらなくても」


 ケープを肩にかけて、髪の毛を簡単にまとめるといつものカルアのような姿に近くなる。

 入口に控えている女性に向かって優しく声をかける。


「案内ありがとう、飲み物を入れて来て下さる?」

「え? あの、お嬢様、男性と2人になってしまいますが……」

「墓守のお師匠様ですから大丈夫、それにもう1人ここにいますから2人きりではありませんよ」


 少しビクッとした様子でキョロキョロとあたりを見回してから女性は青ざめて部屋を出ていく。

 何もいない所を指さすカルアと、同じところを見ているリッカ、2人の墓守が見ている物は幽霊に違いない。慣れている墓守にはなんてことない会話でも、法術を知らない一般人には不気味に感じたことだろう。


「カルアさん、今回はすみませんでした」

「いえ! 謝るのは私の方です。正直、油断していました」


 幽霊を生きている人間にとりつかせるのは死霊術として禁忌にされている。

 法術も死霊術も言ってみれば魔素その物の性質を扱う点とアンデッドに影響を与える点では同じ物だが、その目的が大きく違う。

 スペック程の意思がはっきりした幽霊であれば、肉体の持ち主の精神を殺し完全に体を乗っ取ることも不可能ではない。もし、そんな事をすれば、様々な犯罪はやり放題になるし国の重要人物を乗っ取れば国その物をひっくり返す事もできる。


「嬢ちゃん、鍛えてるな動きやすかったぜ」

「やっぱり『入った』んですね、クーラさんに言われた通りでした。私の変なとこ触ったり、見たりしてませんよね?」

「子供の体見たってなぁ、入ったのはあやまるけふげぇ!!」

「フン!! 私、とっくに成人ですからね!」


 音こそならないが、カルアが拳を突き出すとスペックの顔辺りの魔素が煙に風を当てたかのように吹き飛ぶ、あわあわと慌てる仕草のスペックを見て、リッカとカルアも少しだけ頬が緩む。

 今回、『入った』にも関わらずきっついお説教で済んだのは、これまでのリッカとスペックの仕事の態度やカルアの体に外傷がなかった事、状況的にリッカ1人ではカルアを助ける事もできなかった事など様々な理由があったからこそ、例外として不問にされている。


「びっくりした、死んでるからよかったけど、死ぬぜこれ、まぁ今回みたいな事がなければ2度と入らねえから安心してくれ」

「確かに次同じことしたら、僕も含めて討伐対象になってもおかしくないですからね」


 頭の部分を作り直して、いつもの人影のようになったスペックは口調を変えて、真面目さと真剣さを全面に出した声色で話し出す。


「今回、だんなと嬢ちゃんに負担かけたのは俺だ、すまなかった」


 背筋を伸ばし、腰の辺りから上半身を真っ二つに折るような深いお辞儀をしながらスペックは続ける。


「確かにヘタしたのは俺だ、昨日話は聞いたが、だんなもヘタだった、俺の事は見捨てるかもうちょっと慎重に探ってくれたらよかった」


 お調子者の口調、人をからかうような言葉選び、そんなスペックが真剣に語り続ける。

 主人でもあるリッカに対して真正面からヘタをしていたなんて、普段のスペックは言わない。冗談のように軽くいうのだが、今のスペックは別人のようだ。


「それでな、嬢ちゃんに頼みがある」


 カルアの方へ向き、例え人影だけの姿とは言えども真正面から目を見ていると感じさせる姿勢を取る。


「墓守、辞めてくれねぇか?」

「え?」

「スペック! 何を言ってるの!?」


 部屋の中に緊張感を帯びた、冷たい空気が流れ始めた。


 仕事がバタついてまして、引っ越し後の片づけ作業も進んでおりませんで、研修などもありまして……

 そこそこ、忙しくしております。


 毎週金曜日更新なので、なんとか進めております。

 今後もよろしくお願いします。

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