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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第2章 墓守リッカと初めての弟子
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第73話 リッカの長い一日 ~日中~

 魔術学院で悪魔化したバラン教授、突然現れてバランを喰っていったピグマン、そのピグマンを連れて正体の分からない力でリッカを殴り飛ばした小柄な男。

 ピグマンと男が逃げた後、魔術学院には教会の大規模な調査が入っている。

 魔術学院で悪魔化したバランを倒した翌日、魔術学院には異端審問の役割を持った専門員を中心に教会の人材が入り、大規模な調査を行っている。

 事前にカルド神父が送っていた調査に関する書簡は、なぜか学院の責任者には届かず、バラン教授の所で見つかるなど不可解な事もあり、教会としても責任を求めるために徹底的に調査をする事となったようだ。


「と、いうわけで、もう一回聞かせてくれるかな?」

「あの、何十回と言いたくなるくらい話しているんですが……」

「なぁ、カルドのおっちゃん、幽霊でもさすがに疲れたぜ」


 頬を紫色に腫れさせたリッカが椅子に座り、その隣の席にスペックも礼儀正しく座っている。

 すでに昼近くになっているが、リッカは夜明け前から教会に呼び出されて、学院であった事の聞き取りを徹底的にされているのだ。


「リッカ君、今回の問題点、沢山あるんだけどね」

「ええ、分かってますよ、そもそも話が通っていない時点で疑うべきでした」

「そうだね、地下室に行ったのも良くないし、バランだっけ? 彼の指輪にももっと早く気が付くべきだったよね」

「はい、すみません……」

「スペック君が居れば気が付いたかもしれないけど、ちょっと油断しすぎ、冷静さも欠いてたかもしれないけどさ」


 カルド神父から、今回の問題点を多数指摘されている。カルアを危険にさらした事ももちろんだが、返り討ちされていてもおかしくなかった。

 警備室にカルアの体に入ったスペックが駆け込んで、急遽応援を多数呼んだおかげで、調査が一気に進んでいるのも確かだが、最悪の場合はリッカもカルアも狂信の指輪を付けられて傀儡くぐつにされていてもおかしくなかった。


「スペック君もだよ、後付けていって捕まるなんて、そんな初歩的な失敗するなんてよくないね」

「え? 俺も?」

「当たり前でしょ! スペック君が行方不明になったからこんなことになったんだよ! 危ない事するなら安全か逃走経路かどっちか確保しなさい!」

「あ~、その通りだわ、ごめんなさい」


 リッカもスペックもペコペコと頭を下げる事ばかりになっている。

 普段は穏やかな口調だが、珍しく言葉に棘がついているかのような口調のカルド神父の声が会議室に響きわたっている。

 会議室の外には声もあまり漏れていないはずだが、他の職員はいつもと違うビリビリとした空気は扉を越えて伝わっているだろう。安物の木の扉だが、今日は鉄の扉とも感じさせるほどの重厚感に変わっているはずだ。

 そんな重い扉を、ノックも無く勢いよく開け放って入ってくる巨体の男性がいた。


「邪魔するぞ、リッカードはここか」


 ピグマンのような巨体から、地面を震わせるほどの低く重い声が響く。


「ゼ、ゼロスト師、お、おはようございます」

「うむ、ここにいたな、カルド神父の話の後でいい、時間をもらうぞ」

「あ、私は大体話が終わったので、かまいませんよ」

「そうか、すまんな」


 カルド神父が退室するために立ち上がる。


「で、リッカ君、悪魔とやりあったんだから装備は調べるから全部預かるね」

「やっぱり!」

「ゼロストさんの話をよく聞いてきてね、それじゃまた」

「カルド神父、装備の代金は……」

「今回はリッカ君の失敗部分が多いから、補てん無し!」


 カツカツと足音を立てながら、カルド神父が退室していく。大赤字確定となったことでリッカの頭の中には冷たい風が吹き荒れ、背筋を冷やしていく。

 そんなリッカの様子を気にもせず、カルド神父がドアを閉めると同時に、ゼロストが頭突きでもするのかという程の距離にまで詰め寄ってくる。


「リッカード! なぜ逃がした!?」


 危険に飛び込んでしまったという事をとがめるカルド神父とは対照的に異端審問官のゼロストは全く逆の視点を見せた。

 悪魔化したバランの肉体を残さず喰らい尽したピグマンと、小柄な男のコンビを逃がしてしまったことで、人間が悪魔化する現象、悪魔を天使と崇めるようになる現象の解明を遅らせてしまった事を責めているのだ。


「あそこで2人を倒して押さえていれば、いや、せめて悪魔化したバランの体だけでも押さえられれば、今回の件は一気に解明できたのだぞ」

「そんな無茶苦茶な……」

「リッカよ鍛え方が足らん! 見逃されたという実感を持て! 戦士として最大の屈辱なのだからな!」

「戦士じゃないんですが……」

「言い訳無用! カルア共々殺されていてもおかしくなかったのだぞ!」


 一見無茶苦茶に見えるゼロストの指摘だが、その実際は間違っていない。特に見逃されたという点については今回の課題を適切に抜いている。

 小柄な男がリッカとの距離を一瞬で詰めて、今も頬を紫色に腫れあがらせるほどの強力な打撃をお見舞いしてくれたのだ。これが打撃ではなく、刃物や魔術を使っていればリッカは死んでいたはずだが、こうして生きている。

 戦いの場では力こそが己を守り、目的を遂げるために欠かせない唯一の要素。リッカの力不足ゆえにピグマンと小柄な男の2人を逃すばかりか、バランの体すら残されないという結果をもたらしてしまった。


「殺されなかったのは、アンデッド化を警戒されたな、法術使いがアンデッドになれば詳細を報告されるばかりか、追撃される危険もあるからな」

「へー、ぶん殴るだけにしたのも理由があったんだな」

「おそらく、そこの幽霊に後をつけられたのも理由の一つだな、これだけ意思がはっきりしたアンデットにつけまわされたら、色々警戒もするだろう」

「今回、私は反省ばかりですね……」


 普通の人間にはスペックは見えないが、相手は悪魔すらも操るような人物、命を奪ってもアンデッドとして襲い掛かってこられることまで警戒した可能性は否定できない。

 もしかしたら、命を奪うほどの凶器を持っていなかったのかもしれないが、それは希望的な考え方になる。危険と隣り合わせの世界で生きていれば、ナイフの1本でも隠し持っているのが当たり前なのだ。


「リッカードよ、お前はまだ弱い、もう少し強くなれ分かったな」

「はい、分かりました」

「だんなが、弱くてすみません」

「幽霊よ、お前はもう少し主人を助けろ、今回のように捕まるとは情けない」

「俺も弱くてすみません」


 ゼロストは席を立ち、入ってきたときと同じようにドアを勢いよく開けて会議室を出ていく。

 それと、同時にメガネの女性が優雅に歩いて部屋に入ってくる。その表情は口元は爽やかな笑顔を見せているが、目が全く笑っておらず、髪の間からは角でも生えているかのような穏やかで恐ろしい笑みになっている。


「リッカさんお話しは終わりました? カルアさんの診察の事で、いくつか聞きたい事がありまして」

「あー『入った』ことかな~」

「そうだね、多分そうだ、スペック今日はまだ終わらないよ」


 教会の治療院、薬の使い手のクーラが夕日を背にして入ってくる。

 リッカが受けるお説教はまだまだ終わりそうにない。 

 読んで頂きまして、ありがとうございました!


 皆様の評価、感想、ブックマーク、大変励みになっております。

 今後ともよろしくお願いします!

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