第68話 学院への来訪
リッカとカルアはスペックの捜索のために魔術学院にやってきた。広い敷地と大きな建物を複数持っている学院から、スペックを見つける事ができるのだろうか。
まだ朝と呼べる時間、リッカとカルアは灰色の上下に黒のローブという墓守の服装で歩いていた。
仕事に向かうのだろうか、街を歩く多くの人達が顔をしかめながら、道を開けるかのように左右に分かれて通り過ぎて行く。
「やっぱり、この嫌がられている感覚は嫌ですわ」
「そうですね、夜が恋しく思います」
墓守は死者と関わる不吉な存在というのが、街の人々が持つイメージ。
不吉な物からは距離を取りたいという人間の心理が、人混みの中にも関わらず、墓守を孤立させている。
商店街を抜け、専門店や工房などが並ぶ通りを抜けると、今回の目的の魔術学院が見えてくる。
「あそこですわ」
「初めて来ましたけど、お城みたいですね」
石造りで見上げる程の高い建物が、いくつも並んでいる。大きいだけではなく、窓の1つ1つには石細工が取り付けられており、尖った屋根の先端にもそれぞれに違った天使や悪魔の石像が取り付けられている。
建物をグルリと囲む石壁にも、20~30歩ごとにレリーフが埋め込まれている程、細部に至るまでに手が入れられ、学院の権威を見せつけられる。
「受付まではまだ歩きそうだなぁ、こんなに広いとは思わなかった」
しばらく石壁に沿って歩いて行くと、城門かとも思うようなほど大きな門があり、学生達も墓守をチラチラと見ながらも次々と門に吸い込まれるかのように通り過ぎていた。
「これだけ人もいて、敷地も広いから調査が大変そう」
「リッカさん、スペックさん探すんでしょう、弱音吐いてる場合じゃありません」
「スペックは、死んでも出てきますから大丈夫です」
「あの、アンデッドですから、もう死んでるのでは?」
リッカは頭をポリポリとかきながら、学生達に混ざって門をくぐる。
全身の魔素がブルブルと震えるような不思議な感覚が伝わってくると、門のすぐ近くにある小屋から警備の男性が出て、リッカ達の所へと声をかけてきた。
「お客さん、どういったご用件で? ん? 墓守さん?」
「カルド神父の教会から来ました、墓守のリッカです。調査のお願いをしてあります」
ローブのポケットから、学院からの調査許可の書類を取り出して見せる。
警備の男性は許可証とリッカの顔を交互に見ながら、渋い顔に変わっていく。
「確認するのでちょっと、そこの小屋の前まで来てください」
「はい」
「伝わってないのですか?」
「学院の規模が大きすぎて、書類1枚の確認も大変なんですよ、お待たせして申し訳ない」
渋い顔のまま書類や伝達の札などを出してはしまっている警備の男性の顔は渋い顔のまま変わる事はなく、小屋の中にいる別の職員に声をかけたりしている。
「あの、リッカさん。なんで私たちが来た事が伝わったんでしょうか?」
「多分ですけど、あの門に探知機能が付いているんでしょう。学生さん達は鍵みたいなものを持っていて、持ってない人が通ると、この小屋に伝わる仕組みです」
「コルフィ家の玄関にもほしいですわね、ずっと見てなくていいなんて」
「ここで使っているってことは、まだ開発中なんでしょうね」
そんな事を話していると、警備の男性が戻ってくる。
「すみません、この許可証では学院への来訪を許可できません」
「え?」
「どういうことですの!? ちゃんと許可の印が押されていますわ!」
警備の男性が言うには、来訪の部屋は複数の教授の許可が必要な区画であり、許可証に複数名の印が必要とのこと。カルド神父に急遽送られて来た許可証には教授1名の印が押されているだけなので、この許可証では入れないらしい。
送付は学院からなので、持ってきたリッカ達に落ち度はないが警備の立場としては入れる訳には行かないとのこと。
「確かに学院から送ったという印が入っているのですが……」
「あの、何とかその教授に繋いでもらう事はできませんか?」
「規則なので、入れられません」
警備の男性と入るための交渉をしようとするが、入れませんの一点張り、どうしようかとリッカが頭を抱えそうになり、カルアは見るからにプンプンと怒りの感情を隠そうともしていない。
リッカが熱心に交渉をしていると、いつの間にか、細身で白髪交じりの男性が警備の小屋の横に立っていた。ピッチリと肌に吸い付くようなタイトなスーツを身に纏い、背筋をピンと伸ばして見下ろすように僅かに首から上だけが下を向いていた。
「はい、こんにちは」
「あ、バラン教授」
「彼らは、私のお客さんのようです。通して下さい」
「え? あの、それでもこの許可証では……」
警備の男性が止めようとするが、バランと呼ばれた教授は警備の男性を無視するかのようにあしらい、リッカとカルアについてくるように促してくる。
「え? いいんですか?」
「ええ、多分、書類が遅れているだけですから。話は伺ってますから、どうぞどうぞ」
「ちょっと!? バラン教授! 問題ですよ!?」
「いいですから、私の責任でかまいません。墓守さん達、ついてきてくださいね」
バラン教授と呼ばれた男性は背筋を伸ばした姿勢のままカツカツと音を立てながら歩いて行く。
戸惑う警備の男性を置いて、リッカとカルアはその後を付いていくのだった。
今回は追加更新できるようにガンバリマス!
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このようなマイナーな世界観の作品を読んでいただき嬉しく思います。