第67話 カミュの分析
カルアが聖物を使ったおかげでスペックを見つける糸口をつかんだ。
実際に捜査に入るためには学院の許可が必要、その許可が下りるまでの1日はカミュの研究所で、リッカが見つけた魔石入りの金属板の分析結果を聞く事になった。
スペックの居場所が魔術学院だと聖物を使った探査で確信しているが、調査の許可を取るために1日かかるというのがカルド神父の話だった。
リッカとカルアは急ぎたい所だが、不法侵入するわけにもいかない。かといって、時間を持て余しているのも勿体ないので、魔術研究所のゴーレム開発オタクのカミュの所で成果報告を受けてくるように指示されていた。
「でも、そんな簡単に許可取れるんですか?」
「魔術学院はアンデッドに対しては過激派に近い立場ですからね、魔素をかき乱されると研究によくないんだそうです。無料で調べて退治してくれるなら喜ばれるくらいです」
「なんか、世知辛いですわね」
明日には許可が下りるので、段取りや魔術学院の背景について話ながら、カミュの研究所に向かう。
いつもの石壁の奥に巨大な門と大きな石像が見えて来た。
「……悪趣味ですわ」
「また、新しいのになっている」
今回のは人型ですらなく背中に翼が生え、額からは捻じれた角が天を衝くかのように伸びている。巨大な馬の石像が1体、門を塞ぐように立ちふさがっている。
その両目がキラリと光ると、口がまるで生きている人間のように滑らかに動き、重く響く声で語り掛けてくる。
「よくぞ参られた、我が主の友人達よ、そなたらが来る事……」
「カミュでしょ喋っているの、早く開けて」
「おお! 我が親友よよくぞ気が付いてくれた! この声を変えるという新しい機構をすぐに見破るとは、さすがだ。おや? いつもの幽霊の反応がないな、今回の石像型にはセンサーも組み込んでいたのだが、留守番でもさせているのかい?」
「早く開けて!!」
巨大な馬はひざまずくかのように角を下げると、門の下に角を差し込みゆっくりと首を上げて行く。門は鈍い音を立てながら開き、角を高く掲げるようにして門を支える姿勢をとる。
リッカとカルアが、門を通り過ぎると、ゆっくりと門を閉じて、再び塞ぐように立ちはだかる。古の都や神殿を守る幻獣のような荘厳さも感じさせる。
「どうだい親友? 新作のゴーレムの出来は素晴らしいだろう!」
「はいはい、私もリッカさんも報告を聞きに来たんですの、ゴーレムのことなんか、どーでもいいんですのよ」
「なんと! それは良くない! 今回の報告にはゴーレムが欠かせないというのに、以前に親友が持ってきた金属版と魔石だがな、組み合わせと使い方によってはゴーレムに組み込めるのだよ!」
「それが、どーしたと言うんですか?」
カルアの突っ込みを全て無視するかのように語り続けるカミュだが、話をまとめると魔石に封じたアンデッドをゴーレムに組み込んで、疑似的な体を与える事ができるという事らしい。
体や媒体を持たない幽霊タイプのアンデッドは純粋な力が非常に弱い、意識もハッキリ保つほどの魔素の密度をもっているスペックでさえも、木の実や衣類などを持ち上げて運ぶくらいがせいぜいなのだ。
「ねえカミュ、つまり……」
「そうだよ親友、死霊術というやつだ」
墓守もアンデッドの意思をはっきりさせるためにアンデッドに魔素を与える事がある。この技術を悪用すれば、恨みをもったアンデッドを悪用して意図的に生きている人間にけしかけることなどもできる。
こうしたアンデッドを利用して意のままに操り、人に害を与える手段にする事を死霊術と呼ぶ。
「ネクロマンス、体を持ったら暴れたいと思っている悪霊たくさんいるからね」
「つまり、スペックさんは……」
「そう! 最悪は魔石にとらわれてゴーレムに使われるか、材料にされちゃうかって所だね! アンデッドの体は言ってみれば魔素という燃料の固まりだから、材料にも燃料にも出来る。特にスペック君だったらよい材料になる」
「縁起でもない事ばっかり言わないでよ!」
カミュは研究所の奥から、金属の板や様々なパーツ、赤や青の金属の糸の束など色々な物を持ってきて机の上に積み上げていく。
「さぁ、今日は時間がたっぷりある! 親友が持ってきた金属板の実演を見せようではないか!」
「あ、悪趣味ですわ……」
「めんどくさい……」
報告書を受け取り、その説明を全て聞いた頃には、世界は夜を迎えていた。
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