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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第2章 墓守リッカと初めての弟子
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第64話 手がかり

 女性の幽霊を世界の魔素へと還した事で今日の仕事は終わったはずだった。

 まだ、墓守の仕事は終わらない。

 空き家となった家に残っていた住人の幽霊を世界を巡る魔素へと還した頃、太陽はその姿を大地に沈めようとしており、街は暗い赤色に包まれていた。


「なんか、すっきりしませんわね」

「人間に色んな人がいるのと同じで、幽霊にも色々いるんですよ」


 リッカは黒いローブのポケットから布を取り出すと、媒体となっていた指輪や生前に書かれていた日記を包んでいく。

 墓地の見回りではこんな遺品を持ち出すような事はしないが、今回のような街中での仕事は媒体となった物品や生前の事が読み取れる資料を持っていく事で、アンデッドの対策が終わったという証明にすることもある。


「だんな、他には何か持ってく?」

「いや、これで十分でしょ、恨まれたら怖そうだし」

「恨む幽霊はもう居ないのに?」

「気分的に嫌なの」


 カルアは渋い顔のまま、リッカの作業を見守っている。

 幽霊の話だけを聞いていれば、悪い男に引っ掛かった可哀想な女だったが、男に隙間の時間も与えない程付きまとっていたという事を知れば、この幽霊の方が悪かったのではないかとも考えてしまう。


「なあだんな、幽霊になったのは男への未練だろ? 死んじまった理由が分かんないぜ」

「自殺って聞いてるけどね、ここで死んで無かったとしてもアンデッドとして戻ってくる事もあるからさ、詳しくは分かんないよ」

「ふーん、分かんないもんなんだな」

「そういうスペックはどうだったの?」

「さ、帰ろうぜ~」


 スペックはあからさまと言える程にはぐらかしながら、階段を降りて行く。

 普段から広場で子供達を見守り、夜が近づいても帰ろうとしない子供は少し驚かして夜の恐怖を思い出させている。夜はリッカと一緒に他のアンデッドと話をして、悪霊退治も手伝っているので、悪い奴ではないと言う事は確かだが、生前の事は頑なに言おうとしない。


「リッカさん、私たちが相対するアンデッドってこんなのばかりなんですか? 生前も人に迷惑をかけて、死んでからも迷惑をかけ続けるのですか?」

「想いが強い人がアンデッドになりやすいと言われています。中には守護霊と呼ばれて人を守るためだけに動き回るアンデッドもいるくらいです」

「いいアンデッドと悪いアンデッドの区別はどうされているのですか?」

「それは感覚としか言えませんね、スペックみたいのはほっといても大丈夫でしょ?」


 ポカンとした表情を見せるカルアに笑顔を向けてから、リッカも階段を降りて行く。カルアにしてみれば感覚で判断と言う曖昧な事を言われている訳なので、線引きというものができない。

 仮に今日魔素に還した女性の幽霊も周辺の物を投げつけて来た上に、この借り家を占拠し続けていた訳なので危害を加えたと判断もできるが、誰かに対して腹を立てて物を投げるくらいなら人間だれでもやりかねない。借り家でもなければ、そのままずっとここに居る事もできたはずだった。

 こんなことは以前のカルアは全く考える事がなかった、幽霊の心情、生前の想いを汲み取ろうとするその心の動きはモヤモヤとした言いようのない感覚をカルアに与えていた。


「なんかすっきりしませんわ、良いアンデッドだけれども悪い部分もあるということですか?」

「生命ってそういうもんです。悪人にも良い所ありますし、善人にも悪い所あるでしょ」

「そうですけど……」

「はい、帰りますよ、今日の仕事は終わりです」


 にこやかな笑顔で玄関のドアを開けるリッカの後ろで頭を抱えるカルアが居た。

 外は太陽も沈み、夜を迎えようとしている。夕焼けの赤から濃紺に色を変えながら、もう少しすれば自分の手のひらも見えないほどの闇に包まれるだろう。

 一足先に出ていたスペックはなぜか物陰に隠れるように庭の様子を覗き込んでいる。


「何してんの?」

「ちょ! だんな静かに!」


 リッカも庭を覗き込んでみると、雑草が生い茂っている庭に黒っぽい服を着ている男が二人いた。

 顔つきは良く見えないが、体つきを見ると1人は背もとても大きいがぽっちゃりと太っており、もう1人は対照的に小柄ながらも雑草の中を全くと言える程音を立てないで歩きながら家の様子を眺めている。玄関からではなく庭から様子を伺いに来るとは真っ当な人間とは考えにくい。

 リッカの声も届いておらず、気付かれていないようなので、音を立てないようにそっと後ずさる。


「気付かれてないみたいだね、カルアさん変な人がいます、家に戻りますよ」

「え?」

「俺の姿は見えないだろうから、ここで見張るよ」

「うん、法術使える可能性もゼロじゃないから気を付けて」


 小声で囁くように伝えて、玄関のドアを音を立てないようにそっと閉じる。

 カルアはまだ状況が整理できていないようなので、庭に変な男が居たので、家の中で様子を見る事にしたと小声で伝える。

 リッカはドアに音を立てないように慎重に鍵をかけると、覗き窓から外の様子を伺う。数分で玄関に回ってきた男たちは話しながらドアに近づいてくる。


「あ、あ、アニキ、この建物でい、い、いいんだな?」

「ああ、ここで間違いない」


 リッカはドアに近づいてくる男たちを見て、ドアから離れる。覗き窓から逆に覗かれると中に居る事がばれてしまうためだ。

 ドアから数歩離れた時に乱暴にガチャガチャとドアノブを動かす音が聞こえてくる。


「か、かか、鍵がかかってるんだな」

「当たり前だろうが、中は……良く見えねぇけど、誰か来てたみたいだな」

「ここ、こ、コレ、置いてくのか?」

「あ? 誰か来てるって事はバレるだろうが、置いてかねぇよ。帰るぞ」


 ドスドスという1人分の足音だけが遠ざかっていく、リッカはすぐに抜けるようにしていた魔法媒体とショートソードから手を離す。

 念のため、ドアに耳を当てて物音がしない事を確認してから覗き窓から外の様子を伺う。誰もいないと確信を持ってからそっと鍵を開けて、外に出る。


「大丈夫ですの?」

「ええ、大丈夫……」

「だんな!!」

「おわぁ! びっくりした!」


 庭にいた男たちは法術を使えなかったようで、スペックはすぐ近くで舐めるように様子を見る事ができたはずだ。


「あ、あいつら、金属板持ってたぞ! だんなが排水路から見つけた、宝石みたいなの付いてるやつ!」

「なんだって!?」

「俺、探ってくる!」

「分かった、お願い!」


 スペックが魔素の体を世界に溶け込ませたかのように薄くすると、風に乗ったように男たちが去っていった方へと飛ぶように走っていく。


「スペックさん追って行ったのですか!? 危険ですよ!」

「スペックがやると言ったんですから、任せます」

「でも!」

「心配は心配ですけどね、今日は帰って休みましょう。今日は何もできませんし、明日はスペックの報告があるでしょうから忙しくなりますよ」

「ん……そうですね、今日はやれることはありませんね」


 リッカはスペックが走っていった方向をジッと見て、反対の方へ足を向けて歩きだした。カルアも複雑な表情を見せながら一緒に歩く。

 不安を押し殺すように、見えない恐怖に飲まれないように、2人の墓守は街を飲み込む闇の中へと足を進めていった。

 投稿遅くなりました。スミマセン。

 プライベートも本業も忙しくなっておりました。

 楽しく、無理せず、エタらずに続けられるように頑張ります。


 今後ともヨロシクお願いします。

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