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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第1章 墓守リッカと悪魔の指輪
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第6話 ポルターガイスト

 墓守の仕事は墓場のアンデッドを相対することばかりではない、死者の想いを汲むために今日も墓守は夜にでかける。

 夕方というには早い時間から、町中を歩いている墓守がいる。墓守の仕事は夜の墓場だけではない。


 不可思議な現象、不気味な場所など、アンデッドが生きる者に害をなしていないか調査する事も仕事のうち。今日は住民からの相談で町中の調査にきている。


 町中でアンデットが好む魔素の集まる場所は、水路やゴミ捨て場、町中の裏通り、橋の下といった行きたくない不衛生な所ばかり、出来れば行きたくない場所に積極的に行かなければならない、そんな墓守の仕事は怪しさばかりが目立ってしまう。


「で、街にいるのは、幽霊とかがほとんどなんだな」

「そうそう、街中で遭遇するのは幽霊系統のアンデッドが一番かな、廃墟とかになると鎧が動いたり、何人分か混ざり合った幽霊とか出るけど」

「スケルトンは?」

「骨を媒体にしている意思の強い幽霊。だけれども、骨が砕けると簡単に散ってしまう。呪術で無理やり作られた奴以外はそんなに怖くない」


 スペックにアンデットの特徴についての講義をしながらリッカは歩く、住宅街のある一軒家の前で足を止める。良く手入れの行き届いた石造りの壁の小さな家、その木製の玄関ドアを仕事用の言葉使いで声をかけながら叩く。


「ごめんください、教会から参りました」


 少しの間を置いて、家の奥からばたばたと足音が聞こえてくる。ドアをあけて出てきたのは少しふくよかな女性と、背筋がまっすぐで背の高い男性。


 2人ともこれから仕事なのか、エプロンを身に着けて布を頭に巻いている。


「お仕事前の忙しい時間に申し訳ない、墓守のリッカです」


背筋がまっすぐな男性が丁寧にお辞儀をしながら答える。


「わざわざありがとうございます、今日はお店の開店を遅くするので、どうぞ奥へ」

「お邪魔します」


 家の奥へ通されて、家族4人程度ならなんとか座れるようなテーブルにつく、使い古されているが、こまめに掃除がされているのか、渋い色合いをかもしだしている。ふくよかな女性がお茶を入れ始めた所で、背の高い男性が話はじめる。


「私はギムと申します。こちらは妻のフィズ、娘はもう嫁いでおり、うちにはいません。息子が居たのですが先月に病気が元で亡くなりました。この息子の部屋で奇妙な事が起こっているんです。」


 フィズと紹介された女性がお茶と一緒に、息子が無くなる前に描いたという家族の肖像画をもってくる。家族4人が描かれており、息子はベッドの上に、姉だろうスレンダーな女性がベッド横の椅子に座り、ギムとフィズの夫婦がその後ろに立っている。フィズがベッドの上の息子を指さしながら話す。


「墓守さん、この子の部屋で夜中に物音がするの。でも行ってみると何もないの、物の位置も動いているようだけど、無くなっている物は無いから泥棒でもないし」

「私たち夫婦は、週のうち6日はそこの大通りで屋台の飯屋をやっています。息子には寂しい想いをさせてしまっていました。その未練か恨みかと思うと」


 ギムは下を向いてしまい、フィズは目元に涙をためている。


「息子の治療費がかかるので、家もこの今の小さい所に引っ越してきたんです。借金もあるので2人とも余裕はなく、夜は仕事に行ってしまうので、寂しかったのかもしれません」


 このあたりの家はリビングと台所などの水回り、狭いながらも個室が1つあるような作りになっている。子供が1部屋とっていて、両親はリビングで寝ていたのであろう。


「お話しありがとうございます。息子さんの想いが残っているのかもしれません。よければお部屋を見せていただけますか?」

「ええ、もちろんです」


 ギムが立ち上がり、奥の個室に案内をしてくれる。個室の中は部屋の半分ほどがベッドで埋まっており、脇に腰の高さの棚が置かれ薬が積まれている。棚の後ろには箒や布を巻いた棒などの掃除用具も置かれている。


 手作りに見えるテーブルはベッドに置いて食事ができるように、足が短く作られている。食べこぼしの跡のようなものがついており、ベッドから体を起こすことも困難だったのかもしれない。


「ギムさん、フィズさん、息子さんはとても愛されていたのですね。お2人を恨んでいるということはおそらく無いでしょう」


 フィズはその言葉を聞いたとたんに膝をついて泣き出してしまう。目に涙をためているギムが背中をさすっている。


「あぁ、墓守さん、、、ありがとうございます。あの子に、カイに、、、私!」

「墓守さん、フィズは息子のカイを病弱に産んでしまい恨まれていると思っているんです。この部屋に息子がまだいるのなら、息子の想いを聞いてやってください」

「わかりました。調べてみます」


 リッカは一晩、カイの使っていた部屋で様子を見てみると二人に約束をした。


 2人は今日も屋台の店をあけるために大通りへ向かう。外はすっかり日も暮れて暗くなっている。リッカは2人を見送ると家の中の明かりを消して、窓を閉める。


「スペック、いる?」


だれもいないような空間に向かって、声をかけると、白と黄色と黒が混ざったような靄が表れて、人の形をとっていく。


「はいよ、旦那、気づいてるだろ?」

「うん、スペックのいたずらと同じように、背中にゾクッとした感覚があったよ。カイ君だと思うんだよね、もう1回くるまで待ちだね」


 実体がない幽霊などのアンデッドは、魔素によって体を構成していない限り、段々と魔素の流れに乗ることで存在がなくなるか、他の幽霊などと融合して存在が薄くなってしまう。スペック見たいに自身の魔素の濃さをコントロールできるのは少数派だ。


 部屋に入った時のゾクッとした感覚があったことで、ここに何かいることは確信している。幽霊が魔素からその姿を現すまでにはきっかけが必要、それは時間だったり、誰かの行動だったり、色々とある。


「さあ、カイ君出てきておくれ」

「なぁ、だんな俺はどうしたらいい?」

「スペックが動くと、魔素を乱しちゃうから、一切動かないでね」

「えー」


 スペックに注意をしてから、床に胡坐をかいて座る。できるだけ早く出てきてほしいと思いながら、周囲の魔素の動きに注意を払う。


 2時間か3時間程たったか、魔素の動きも感じとれず、あくびも出そうになった頃に微かに魔素の動きを感じる。棚にかけられていた箒のあたりに集中しているように感じられ、そこに視線を向けたその瞬間、箒が倒れてきた。


「来たね!」


 察知して部屋の隅にまでさがる。掃除用具のちり取りなどの小物がリッカにむかって飛んでくる。たいした勢いでもないので、手で払いのけるように叩き落としていく。


 飛んできた物を転がるように避けて、床にあったはたきを剣のように構える。最初に倒れていた箒が浮かびあがり、相対するように空中に静止する。箒がリッカに向かって襲い掛かってくるが、それにはたきを当てて弾きかえす。お返しとばかりに、はたきを横なぎに振ると箒はスッとかわして、突きを放ってくる。


「うん、やるね」


 箒を横から叩いて、突きの起動を変えて避ける。まだ空中にある箒に向かってはたきを振り回してぶつけようとするが、それに合わせて右、左と動きまわり箒はよけている。


「だんな、へたくそ」

「ほっといてよ!」


 スペックに向かって言い返しながらも叩き落そうとはたきを振り回しながら、箒の周辺の魔素の動きをとくに観察する。この現象が起こっているのはカイの幽霊であると確信しており、この手の幽霊タイプは時間が経つにつれて実体化することが多い。


「、、、アハハ」


 微かではあるが、部屋に笑い声が響いたと同時に、白い靄が箒の周りに集まってきて子供のような姿を取る。


「カイ君だね」


 額の汗をぬぐいながら声をかけるが返事はない、部屋には微かに聞こえる笑い声が響くばかり。他に幽霊もでないだろうから、カイの幽霊で間違いない。


「スペック、交代して、たぶんカイ君は遊びたかったんだと思う」


 スペックのいる方にはたきを投げて渡す、カイの幽霊は箒をスペックの方へ剣を持つようにして構え直す。スペックも同じようなポーズを取っている。


「だんな、幽霊とチャンバラするのかよ、怖いだろ」

「幽霊が何言っているの、つきあってあげて」


 カンカンとはたきと箒がぶつかる音と微かな笑い声が部屋に響き渡る。リッカとちがいスペックの扱うはたきは箒にぶつかり、時々つばぜり合いも織り交ぜている。これが、生きている者同士であれば、やんちゃな子供と年の離れた兄が遊んでいるようにも見えるのかもしれない。


 あと1~2時間で外も明るくなってくるころ、白い靄が薄くなり、箒の動きもゆっくりになってきている。遊び疲れた子供が、まだやめたくないと言っているかのようだ。玄関のドアが開いて、ギムとフィズが帰ってくる。


「もう十分あそんだだろ、父ちゃんと母ちゃんが帰ってきたぞ」


 箒が床に落ちて、カランと音を立てて床に転がると同時に、カイの幽霊は部屋のドアを開けて両親の元に走りだす。ギム、それからフィズの順番で飛びつくように抱き着く。


「カイなのかい?」


 フィズが抱きしめようとした時にはその体は空気に溶けるように消えてしまう。


「カイったら、ありがとうって」

「そう言っていたな、確かに聞こえたよ」


 スペックとカイが遊んで散らかった掃除用具を片付け終わると、最初に話を聞いたテーブルに案内される。フィズが昨日と同じようにお茶を入れてくれる。


「この部屋にいた息子さんは、元気に遊びたかったんでしょう、掃除用具でチャンバラしてしまいました、お行儀が悪くすみません」

「だんなは遊ばれてたけどな」


 本来、幽霊の声は生きている者には届かない。カイの姿も見えて、声も聴けたのは愛情を持った両親だったからだろう。


 溶けるように消えたその魔素の流れから、カイは還ったのだと思われる。もうこの部屋にはいないだろう。


「この部屋にいたカイ君はお二人に感謝の想いと遊びたい想いの名残だったのでしょう」


 フィズは目元に涙をためているが、その表情は少し晴れやかに感じる。


「息子の想いに触れることができて、うれしく思います。丈夫な体ではなかったので、思い切り遊べて満足して還ったなら何よりです」

「墓守さん、ありがとうございました」


 リッカは手を合わせて祈りのポーズを取ってからゆっくりとテーブルを立つ。ドアをあけると、まぶしい朝日が家の中に差し込んできた。


「ありがとう」

「カイ君かな、どういたしまして」

「遊んだのはスペック兄さんだぜ」

「ふふっ、、」


 朝の張りつめたような空気が動く涼しい風に乗って、声が聞こえたような気がした。

 連日投稿をやってみました。喜んでいただけるなら幸いです。

 評価、ブックマーク、誤字脱字報告など頂きまして、とても嬉しく思います。

 読んで頂きありがとうございました。

 来てくれたあなたに感謝!


 編集したけれど、いつの間にか「はたき」と「箒」が入れ替わる飛んでも現象が!気づいて直したけれど、これは失敗でした。気を付けます。時々見直しやらないといけませんね。

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