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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第2章 墓守リッカと初めての弟子
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第48話 カミュの分析

紫色に光る石を見つけたリッカは分析の依頼のため、カルアとスペックを連れて魔術研究所を訪れていた。

 空は灰色に染まり、雲を抜けた光が辺りを優しく照らす。湿り気を帯びた風がねっとりと頬を撫でる昼下がりにリッカとカルアは重厚な門の前に立っていた。

 門の左右には見上げるほど巨大で、一角獣のような兜を付けたフルプレートアーマーが腕を組んで堂々と立っている。


「こないだ来た時と違う……」

「うぉぉ! カッコいい!」

「なんですか? この悪趣味な鎧は? 大きければいいというものではありませんよ」

「二人とも今日は魔石の分析に来たんだからね」


 先日見つけた、魔素を集める石は魔石と呼ばれている。

 魔石とは魔素を含む石で、微かな魔素を含む魔石はそのへんの普通の石に混ざってゴロゴロしているが、リッカが橋に使われている石の間から見つけた魔石のような光輝くものは珍しい。

 教会へ報告のために持って行ったが詳しい分析をするようにと魔術研究所に持っていくようにカルド神父から指示をされたので、自称リッカの親友のカミュの所へカルアとスペックを連れて訪れていた。


「大体、大きすぎる鎧は見栄っ張りの代表、こんなのを置くのは小物ですわ」

「嬢ちゃん辛口だなぁ、これただの鎧じゃなくてゴーレムだぜ」

「さすがに騙されませんわよ、こんな大きいのはありませんわ」


 カルアが疑いの視線をスペックに向けていると、フルプレートアーマーそのものから声が響いてくる。


「やぁ、我が親友とその友人たちよ、歓迎するよ。そこのお嬢さんには忠告だが、自分が知っている物が全てだと思わない事をお勧めするよ、思い込みは認識を狭めるから、無いという思い込みに足もとを救われてしまうよ」

「誰ですの、このうっとおしいのは」

「失礼な事を言う。私ことカミュ…」

「カミュ! とりあえず入れて!!」

「おっと、これは失礼した我が親友と仲間達よ、入ってくれ」


 門の左右に置かれていた、フルプレートアーマーは鏡に映したように全く同じタイミングで組んでいた腕を開き、ひざまずくと門の下にそっと手を入れる。

 一瞬動きを止めた後にガリガリと重い音を立てて、周囲に地響きのような鈍い振動を届けながら、ゆっくりとフルプレートアーマーは門を持ち上げながら立ち上がる。片手は門を支えながら天に向け、もう一方の手は腰に当てて、最初の姿とはまた違う怪力を誇るようなポーズで静止する。

 ゴーレムは思えない人間のような滑らかな仕草と、人間ではありえないほどの怪力をまざまざと見せつけてくれた。


「さあ進んでくれ!」

「やっぱり、カッコいい!」

「すごい悪趣味ですわね」

「行くよ、二人とも」


 ゴーレムが持ち上げている無骨な門を通り過ぎると、貴族の別荘のような優雅な建物が目に入ってくる。

 その優雅な建物の前に黒と茶色が混ざってボサボサした髪の毛に薄汚れた白衣を纏う、カミュ・カイルゼ

が立っている。建物の美しさをたった1人立っているだけで台無しにしているのはある意味すごい事だと言える。

 カミュは手をスッと玄関の方に向けながら、一度開くと閉じる事を知らない、止まらない口を開く。


「やぁ、我が親友と仲間達。連絡は受けているよ何でも高純度の魔石を見つけたというじゃないか。さぁ、奥に入って早く見せてくれ!」

「はいはい、お邪魔するよ」

「ゴーレムの起動にも魔石は欠かせない素材だからね、もし、そうそう見つからない物であれば、ここ魔術研究所で引き取らせてもらい、分析をしてさらに高性能な魔石の製造をさせてもらおうではないか」

「な、なんですの、このうっとおしい人は」

「だんなの自称親友だってさ」

「それで、これなんだけど」


 リッカはローブのポケットから不気味な紫色に光る水晶を取り出した。魔石の中でも純度が高い物などは紫色に光る。この時点で高性能なのはわかるが、何がどのように高い性能を持っているのかは調べなければ分からないとされている。

 カミュはリッカから魔石を受け取ると、手のひらのなかで転がしたり、撫でまわしてみたり、においをかいだりと色々と動かしてみている。


「ふむ、これは面白いな、魔石というのは魔素を集める・貯める・放つという役割をもっているのだが、これは集めると放つの機能しかないな、まぁ割れているので微々たるものだがな」

「うん、やっぱりね、割れたのは最近かな?」

「おお我が親友よ! その通りだ! 割れたのは最近だな、それまでは周辺の魔素をちょっとばかり濃くしていただろう」

「この近くに7年も姿を留めていたアンデッドが居たんだ」

「間違いなくこの魔石の作用だな詳しい事は調べてみないと分からないが、媒体を持っていると言っても野外では幽霊タイプのアンデッドはこの石がなければ、姿を保っていられずに世界に還っていただろう」

「僕もそう思う、でも魔素を放出するのがやっぱり弱い。やっぱり溜まってたのかな?」

「親友でも分からないくらいだったんだろう? 割れる前なら少し違ったかもしれないな」

 

 豪雨のようにしゃべり続けるカミュ、その言葉の僅かな隙間に合いの手を入れるかのようにリッカが言葉を挟む。その言葉のやり取りの中に、まだ詳細を調べてはいないにも関わらず、細かく調べた後のように考察が進む。

 魔石を使い慣れているカミュと法術の使い手のリッカ、そしてこの2人がお互いの言葉に慣れているからこそ成立するコミュニケーション。


「なあ、嬢ちゃん何言ってるか分かるか?」

「早口な上に、内容にも付いていけませんわ」


 連れてきたカルアとスペックは置物のようになっている。


「そういえば親友、モーラとかいう神父の所にも魔石はあったのだろう?」

「え? 見つかったって聞いてないなぁ」

「狂信の魔術がかかった指輪があったのだろう、あれにも魔石が必要だぞ、ちょうどこれくらいの」


 カミュはリッカから受け取った魔石を見えやすいように持ち上げる


「もしかして……」

「うむ、持ち出されたと考えた方がよさそうだな」

「でも何のために?」

「まずは詳しく調べてからだな、親友よ数日もらうぞ」


 曇り空から柔らかい光が漏れていた天候はいつの間にか、濃い曇天に変わり、ポタポタと空の涙が大地を濡らし始めていた。

なんとか更新間に合いました。

楽しめるという作品ってなかなか難しい。

毎日、精進ですね。

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