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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第2章 墓守リッカと初めての弟子
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第42話 法術と魔術

新人墓守となったカルアの体術や魔術。法術などの技量を見るための研修が始まった。

 空は高く、太陽の光が降り注いで寒くも暑くもない、そよ風が頬を撫でて行く感覚も心地よい。

 脇に走る鈍い痛みを除けば、こうして外に寝転がるのも気持ちよく感じたことだろう。幸い、追撃が来る心配はないのでゆっくりと呼吸を整えていく。


「だんな、大丈夫?」

「え? 入った? リッカさん、すみません!」


 すみませんと謝る言葉が出てくるという事は、以前よりも穏やかな性格になったと言う事を示している。

 より正確に言うと、狂信の魔術が乗っていた指輪によってイライラしやすい心理状態に置かれていたと考えられるだろう。


「狂信が外れても体術は変わらないか、痛ったぁ」


 リッカはゆっくりと立ち上がってパンパンとローブについた土埃を払う。


「やっぱり上手いですね、体術は余裕で合格です」

「すみません、思いっきり蹴ってしまって……」

「まぁ、まっすぐ過ぎるやり方だけど、だんなより強いからな」


 貴族ともなれば、自衛のために護身術を習ったり、剣なども作法として練習したりすることも多い。だとしてもカルアの体術や体の使い方は上手すぎる。正々堂々と戦う事を前提としているような動き方で、相手が武器を隠しているといった事を想定していないような動き方だが、護身の域は超えている。


「父は護身術の練習に良い顔をしませんでしたし、色々と言われる事も多かったですからね、反発して手が空いたら練習してましたから」


 反発の理由には狂信の魔術も関係しているかもしれないが、リッカがカルアの指輪を壊して魔術を解いたので、今からでは分かりようもない事だ。さすがに家に置いておけないとなってから、自分の行動を悔いて今はおしとやかにしているのかもしれない。

 リッカは自分の脇腹を触ってみたが、痛みが残っているだけのようなので、動く事には問題はなさそうだ。


「なるほど、マメに練習していれば上手いのも納得です」

「後は、法術と魔術も見ると言われていますが、何をするんですか?」

「じゃあ、これを」


 リッカが懐から火の魔術媒体を取り出して差し出すと、カルアはおずおずと言った形で手を出してくる。

 墓守は火の魔術を使う事が多い、火に触れた魔素は火の魔素に変化したり、そのまま空気に溶けるかのように散ってしまうため実体が無い幽霊達にも効果が高い。濃厚な魔素が溜まっていてもその場で火を焚くだけで魔素を散らす事もできる。法術で魔素そのものを動かして散らす事もできるが、あまりに濃いと負担が大きくなってしまう。

 魔術の火でなくても普通のたき火でも十分なので、魔術は必須ではないが、使えるに越したことはない。現に、リッカ以外のコラーとパニシュも火の魔術媒体の扱いに慣れている。

 カルアは手に取った魔術媒体をジッと眺めている。リッカは庭に置いてある薪を1つ立てて的を作る。


「カルアさん、魔術媒体を使った事はありますか?」

「何回かやったことはありますが、あまり得意ではありません」

「とりあえず、あの薪に向かって火球を打ってみてください」

「わかりました」


 右手をスッと挙げて、魔術媒体の先端を薪に向けて、魔素を流し込んでいく。

 媒体の先端に火が灯ったかと思うと、大きく丸くなり火の球が現れる。火の魔術としては十分できている。簡単にやっているように見えるが、慣れない媒体で出来ただけでも成功と言える。


「えい!」


 ちいさな掛け声と共に放たれた火球は、魔術媒体の先端が薪に向いているにも関わらず、大きく右にそれてリッカの家のドアに向かって飛び、ボフッと音とともに黒い焦げ付きを残して火球は散って魔素に戻る。


「気にしないで、もう一回やってみてください」

「ええ」


 火球を作る所まではスムーズにできるが、放つ瞬間にはなぜか的を大きく外れた方向へ飛んでいく。1度と言わずに数回火球を打ち出してもらうが、ほぼ真下に落ちたり、左右にそれてしまい。足元を焦がしたり、スペックの頭のすぐ横を通り過ぎたりと、実戦に使うには危険しかない。


「使えるけど、飛ばすのが苦手なんですね」

「うぅ、そうなんです」

「んじゃ、飛ばさないで叩けばいいんじゃないか?」

「それだね、魔術を飛ばさないでこれを叩いてみてください」



 リッカはスペックに的にしていた薪を投げて渡すと、カルアに魔術媒体で火球を作って飛ばさず叩くように伝える。

 急に渡されたスペックが戸惑ってると、魔術媒体から火球を出したまま薪に向かってカルアが腕を突き出してくる。しっかりと足を踏み込ませ、腰をまわしながら伸びてくる腕は、まさにカルアの得意とする体術に他ならない。


「のぉわぁ!!」


 スペックが叫びながら薪から出来るだけ体を遠ざける。カルアの突き出した腕の先端にある火球が薪に触れた瞬間、全体が一気に燃え上がる。

 あっと言う間に炭と灰になった薪を持っていたスペックの片腕は消えてなくなり、片腕が無い人型の幽霊となってしまった。攻撃につかう魔術としては申し分ない威力と効果範囲があることの証明ができた。


「魔術も合格ですね、今日はここまでです」

「こうやって使う事も出来たんですね」

「俺の腕がぁぁ!!」

「明日は墓地に行くので、日没の少し前くらいにここに来てくださいね」

「わかりました」

「だんな! 腕ぇぇ!!」


 叫んでいるスペックを横目に、明日の予定をカルアとリッカが整理していく。明日はここから墓地に行き、墓守としての仕事をリッカと一緒にこなして行く。

 リッカもかつてはコラーに付き添い、墓地の見回りから葬儀の立ち合いまで様々な仕事をこなして行った。今はリッカが教える立場となり、カルアに墓守としての仕事を伝えていく立場になったのだ。

ピーターの住んでいる地域に感染症が広がってしまい活動に制限がかかっております。

皆さま、どうかお元気で、移らぬようにお気を付けください。


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