第36話 戦後処理
モーラ神父を倒したゼロストとリッカ、戦いは終わったがやる事はまだ沢山ある。
この場所もまだ安全とは言えない、街の人々のためにも危険は排除しなければならない。
10指にはめられた指輪を砕かれたモーラは悪魔の姿のまま倒れている。悪魔付きとなっていた墓守達のように人間に戻るような様子がない。
その時に教会の奥に行っていた、カルド神父が、墓守のコラーとパニシュと一緒に戻ってくる。
「戻りました」
「うむ」
コラーとパニシュはあちこちに茶色や紫色の油のようなものがこびりついている。カルド神父の手には紫色の水晶が乗っているが、中には粘り気の強い液体が入っているように見える。
「カッカ、早く風呂に入りたいもんだ」
「そうですよ」
「大体予想は付くが、何がいた?」
「アンデッド・スライムです」
カルド神父が紫色の水晶を見せながら、何があったかを語る。
ゼロストとリッカがモーラ神父と戦っている間に、カルド神父は教会地下室入口でゾンビとスケルトンを見つけた、裏で待機していたコラーとパニシュと合流して退治した。アンデッドの魔素は散っていくはずだが、魔素は地下室に吸い込まれるように入っていった。
それを追っていったところ、アンデッド達を吸い込み食らっていくスライムを見つけた。スライムを倒して体からこの水晶を抜き出してきた。
「つまり人造のスライムとアンデッドだったか」
「そうです、このアンデッドを食わせて、その魔素を水晶から……」
「モーラの体に流していたわけか」
アンデッドを放置していたのも、魔素を抜き出すためだったのかもしれない。それはこれから墓守達を尋問すればわかる事だが、悪魔化したモーラの体が恐ろしい計画があったことも物語っている。
「指輪の製造をしていた設備もありました」
「魔素を移すための指輪や、狂信の指輪。モーラ自身も良い事をしていると思い込まされていたかもな」
コラーとパニシュが説明を補足する。二人とも油のような物にまみれているのは、アンデッド・スライムを倒して、体から水晶を抜き取ったからに違いない。
濃密な黒い魔素に包まれているが、平然と立っていられるのは二人とも法術で魔素を散らし続けているからだ、耐性が無い人であれば、濃密すぎる魔素で体に異常をきたしてしまう。近くにアンデッドでもいれば、その体を奪われる事すらも有り得る。
「カルド神父よ、お前の所の墓守は皆優秀だな」
「ええ、教会の自慢です」
「さて、疲れている所だろうが、もう一働きしてもらうぞ」
ゼロストも疲れているだろうに、翌日に向けた用意を指示していく。
応援を呼びに行かせた護衛と駆けつけた応援の法術使い達が明日の教会の閉鎖を行う。礼拝に来た人達に教会は閉鎖、悪魔付きを倒すためにモーラ神父が重症を負い、墓守達も負傷をしたと説明をして今日の礼拝は無い事を伝えてもらう。
それと同時に、礼拝に来た人達の指輪を確認して、魔術がかけられていないかも調べる。
モーラの悪魔化した死体はこの場で、明日から調査をしていく。悪魔付きになった墓守達はゼロストの所属する教会に移送。そこで取り調べをすることになる。
「そして、この教会内アンデッドや魔術機構、悪魔の存在をすべて今日の内に暴く」
「あの、せめてお湯だけでも浴びてきて……」
「すまんが、庭の井戸でやってくれ」
「老体にはこたえるな」
カルド神父とコラー、そしてパニシュは肩を落としているが、仕方ないとあきらめて庭の井戸で水を汲み始めている。
ゼロストとリッカは護衛達から医療用品を受け取り、傷口の簡単な消毒と処置を済ませる。
その間に悪魔付き達やその装備品は表に着いた馬車に乗せられて、取り調べの場所まで移送されていく。意識を取り戻したのか自分で歩いているが、その表情はひどく虚ろで、魂が抜けてしまっているように見える。
「さて、行くか。護衛達は後処理を任せる。カルド神父とそっちの2人は2階を調べてくれ、私はリッカードと外を回る。最後に全員で地下を確認して終わりだ」
ゼロストは何も見つからないと踏んでいる。おそらくだが、モーラ神父が天使と何度も口にしていたことから、モーラ神父自身も何者かに操られていたと考える事が自然、この場に残って不意打ちをしてこようなどと考えるよりも、黒幕は姿を隠すために重大な証拠を持って逃げるはず。
アンデッドの魔素を集めるための水晶という重要なアイテムは既にこちらの手にある。
だが、下級の悪魔が勝手に暴走してくることや、アンデッド・スライムに喰われずにうろつくアンデッドもいる可能性が捨てきれない。翌朝に何も知らない街の人々がこの教会のすぐ前を行き来するのだ、そのためにも危険につながる物は出来るだけ排除しなければならない。
「行くぞ」
「わかりました」
「カッカ、後は気楽なもんだな」
「はーい! バカルラムは休ませてきますね」
カルド神父が笑顔をみせる。疲れているのにも関わらず、文句1つ言わずに街の平和のために力を貸してくれる墓守達の心意気、それが嬉しいのだ。
「カルド神父、イマイチ統一感が無いが、良い仲間たちだな」
「ええ、私の自慢ですよ、みんな行くよ!」
にこやかにほほ笑んだ後、キリッと真面目な表情に切り替えると、教会の最後の調査に向かって行った。
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