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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第1章 墓守リッカと悪魔の指輪
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第35回 悪魔退治

 天使と言いながら、悪魔にその身を変えたモーラ神父。

 その狂気はここで止めなければならない、ここは教会、ここから一歩外に出れば罪もない人々が平穏な日常を過ごしている。

 悪魔が街中で暴れれば、どれほどの犠牲がでるか分からない。

 モーラ神父はゼロストに飛びかかってからもその姿を変えていく。肌の色は青黒く変色が進み、目も真っ黒に染まり窪んだように落ち込み、どんどん悪魔へと変わっていく。

 鈍い音がしたかと思うと、モーラ神父の口が大きく裂けて、人間すら飲み込めるほどにひらいていく。


「テんし様! てンシ様!」


 骨格まで人間でない物に変わっていくモーラの声は、どんどんと聴き取りにくいものになる。

 捉えられ、動きを封じられた悪魔付き達が人間ではない呼びかけに答えるかのように体を震わせはじめる。


「伝令を出せ! 応援を呼ぶのだ! ここで抑え込むぞ!」

「はっ!」

「カルド神父よ! 裏を調べてくれ、悪魔の力の源があるはずだ!」

「わかりました!」


 護衛達がバタバタ走り回り、その中でも屈強そうな者たちが部屋に残る。カルド神父が裏に続くドアに走り込むと、モーラ神父が体の向きを変え、カルド神父に向かって飛びかかろうと体を低くして足に力を込める。

 引き絞られた弓が矢を放つように飛んだモーラ神父の腕がカルド神父に届こうかという時に、リッカの放った衝撃の魔法で叩き落される。そこにゼロストが走り込み、頭を踏み砕かんばかりに踏みつける。


「ほう、やるな、悪魔に落ちた貴様とは大違いだな! フン!」

「デンシぃなまぁ!! こにんげがぁ!!」


 鉄すらもひしゃげさせるほどのゼロストの怪力で難度も踏みつけられているが、叫び声をあげている程度のダメージしかない。床板がギシギシと悲鳴を上げているので人間であれば、頭が砕けているはずだ、声が出せているというだけで人間ではないということは明確。

 カルド神父はゼロストに視線を向けて僅かに頷くと、教会の奥に走っていった。

 護衛達は周辺を固め、悪魔と化したモーラを外に出さないように取り囲む陣形をとっている。

 モーラは振り下ろされる足を掴むと、ゼロストを壁に向かって投げつける。人がまるで風に飛ばされる木の葉のように飛ばされていくが、ゼロストは体を捻り、ぶつかるはずだった壁を蹴って衝撃を殺して床に降り立つ。

 頭からボタボタと青黒い色に変わった血を流しながら、モーラは立ち上がる。背中にはコウモリの羽のように魔素が集まっており、さらに人間から遠ざかった姿になっている。


「オノォォ!! ニゲンガァ!!」


 すでに人の声ではない雄たけびをあげながら、ゼロストに向かって飛びかかる。

 立ち上がったばかりのゼロストは避けられずに、受け止めて両腕を掴み合う体制になる。


「ウオォオ!」

「むう!」


 リッカからはモーラが無防備な背中を向けている所だが、徐々にゼロストが押し込まれている事は分かる。

 ナイフと清めの酒を懐から出して、ナイフは右手、酒の瓶を左手に構える。清めの酒は手に持っている分を含めてあと3本。火の魔術媒体と衝撃の魔術媒体はまだ十分使える。ローブに仕込んだ金属とカミュの作った下着のような防具のおかげで怪我もしていない。


「よし! 行ける!」


 背を向けている悪魔に向かって全力で走り、辺りに転がっている椅子の残骸を足場にして飛び上がって、酒の瓶を振り下ろす。

 地面に着地したあと、モーラの太ももにナイフを突き立てて、酒が辺りに飛び散る中、法術を使いモーラの周りにある魔素を散らす。


「おお!!」

「グガァァ!」


 突然殴られ、刺され、背中に集めた魔素も散らした。さすがに戸惑ったようで、体制を崩した所をゼロストが押し返して、顔面に前蹴りを叩きこむ。

 鈍い音、アゴの骨が砕ける音が辺りに響く。

 口から血を流しながら、蹴りの勢いに耐えられず、モーラは床に倒れ込む。


「油断するな、まだだ!」

「え?」


 ゼロストが懐から火の魔術媒体を取り出してモーラに向けると、巨大な炎が勢いよく噴き出す。辺りは太陽に照らされているかのように赤い光に照らされて、同時に顔を覆いたくなるほどの熱気が広がっていく。

 モーラは真っ黒な魔素を体の前に集めて、ギリギリで炎を押し返し火だるまになるのを防いでいる。


「悪魔を解き放つよりは被害が少ない! 火事になってもかまわん、奴の魔素を払え!」

「分かりました! こんな奴、街中に出せませんからね!」


 リッカも火の魔術媒体を構えて全力で火を放つ、それと同時にモーラ神父の周りの魔素を操作して散らしていく。

 火が持つ魔素を散らす効果も相まって、モーラの纏う鎧のような魔素が見る見る散らされて空気に溶けて行く。


「これで押し切るぞ!」

「はい!」


 黒い魔素がはがされたモーラは炎に包まれて転げまわる。

 炎で体が包まれている以上、魔素はすぐに炎に巻き込まれてしまうので、魔術を使おうとしても魔素を集められない。


「クギャァ」


 息を吸おうとして高熱の空気が喉を焼き、息を吸う事も出来ない。

 周辺を焦げ付かせながら、声にならない雄たけびを上げて転がり、苦しみ続けている。


「アァァ!! デんシさまァ!」


 ひと際大きな雄たけびを上げると炎が消し飛ばされて、周囲に衝撃が走る。片腕がちぎれかかっており、自分の青黒い色の血を全身から滴らせ、所々からは黒い煙まで立ち上っている。

 それでもゆったりとした動きで立ち上がって、ゼロストとリッカに顔を向けてくる。


「腕の血肉で火を消した!」

「ええい! まだ立つか! 全員突撃!」


 周囲を構えていた護衛達が剣を抜いて、次々とモーラ神父の体に突き立てて行く。

 背中に胸に足に、そして首にまで貫かれながらも残った腕を振るい、護衛達を殴りつけている。


「あ! もしかして!」


 リッカが懐から衝撃の魔術媒体を取り出して、残った腕の指に向かって全力で撃ち出す。

 殴りつけようとしていた腕が弾かれ、バリンと指輪が砕ける音が響く。


「指輪を砕いて下さい!」

「なんだと?」

「それ! 狂信の魔術以外にもいくつか細工されてます!」


 護衛達がモーラの腕に残った指輪を破壊すると、明らかに動きが鈍くなっていく。


「そっちもか!」


 ゼロストが、ちぎれたもう一方の手にはめられている指輪を5本の指ごと踏み砕く。

 骨と肉が潰れる嫌な音が響くが、指輪が砕けた瞬間、モーラは糸の切れた人形のように床に崩れ落ち、青黒い血が塗りつぶすかのようにじわじわと広がっていく。

毎週金曜日更新、頑張れる時は追加更新します!

これからもよろしくお願いします。

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