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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第1章 墓守リッカと悪魔の指輪
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第29話 カミュの新装備

 ゴーレムの研究をしてるカミュ・カイルゼからの手紙で、リッカとスペックは再び魔術研究所を訪れていた。

「カミュ? これは本気でやってるの?」

「おお、我が親友よ! 当り前じゃないか、私は冗談は嫌いだからね」

「だんな、俺は見なかった事にしておくよ」


 魔術研究所のカミュから手紙で防具をくれるというので、リッカとスペックは再びカミュの元を訪れていた。ゴーレムに使う素材を研究していく中で、金属を糸のように加工してそれを編み上げるという防具を作れるようになったという。

 それほど重くなく、肌着のように身につけられて、金属の軽鎧並みの防御力があるという画期的なアイテムだとカミュは話している。


「デザイン、何とかならないの? ならないんだろうなぁ……」


 墓守の灰色の上下と黒のローブという制服の下に着られるのは良いのだが、上半身の見た目は銀色に輝くコルセットであり、背中は紐で締め上げるようになっているので、体のラインが強調されている。

 下半身はふくらはぎまで銀色の素材で覆われ、腰骨の周りの所は2重に作られていて特に防御力をあげてあるが、どう見ても女性の下着のガードルになっている。

 しかも金属の糸が独特の模様を作り出しており、遠目には白銀のレースがあしらわれているようにしか見えない。


「こんなん、着てたら『女の下着を着てる』って思われちゃうよ」

「何を言う親友? 致命傷となる胴体と腰回り、大きな血管が通る太もも、これを全てカバーした上に普段着の下にも着込めるようにした結果なのだよ? 布としての効果もあるから、衝撃にも強い!」

「あと、なんで、サイズがピッタリなのかも教えてもらいたいんだけど」

「それは、伸縮性に富んだこの金属の編み方に秘密があって、多少の体格の違いくらいなら、背中の紐の締め方で……」


 リッカがデザインに対して文句を言うと、その10倍くらいの量でカミュがそうなった必要性や、素材の素晴らしさ、聞いてもいない開発の苦労を次々と話してくる。

 うんざりし始めた頃にドアが勢いよく開き、ドアよりも大きな体を滑り込ませるように巨人が2体入ってきた。どちらも大きな体にピンク色の肌、上を向いた鼻、かわいらしくも尖った耳を持っている。


「お客さんかな? 表の門は閉じておいたはずだが?」

「おう、勝手に開けさせてもらったぜ」

「おう、ゴーレムの修理と新型の視察に来るって手紙送っといたじゃねぇか」

「あっちゃぁ、だんな、骨は拾ってやるからな」


 戦士や冒険者をやっている人で知らない人はおらず、一般の市民にも顔が効く、戦士ギルドの重役の鉄板のボルと鉄柱のバルのコンビが魔術研究所に入ってきた。


「おお! 戦士ギルドのお2人、ようこそ研究所へ歓迎します! しかし、あの門を自分らで開けるとはさすがは戦士ギルド、ちょうど良い所ですな、あの墓守の防具のテストにご協力頂きたい!」

「ん? 墓守? ブハハハハ!!」

「ん? ブハッ!! なんて恰好してやがる! ブハハハ!!」

「最悪なんですけど」

  

 ボルとバルのコンビは腹を抱えて、目に涙をためる程まで笑っている。リッカの頭には、酒場でこの話をされて、それがあちこちに伝わっていく事がありありと想像できてしまっている。

 カミュもさすがに気を使ってくれているのか、これが防具である事を切々と語っているが、笑い転げている2人の耳には届いていない。多分カミュの事だから防具としての性能を語りたいだけなのだろうが、今のリッカはカミュが正しくこの2人に説明してくれるのを願うばかりだ。


「ブハハハ!! あ? なんだ防具だって? 本気で言ってんのか?」

「ブハハ! 女物の下着にしか見えねぇぜ?」

「ぜひ我が親友のリッカを思いっきり殴ってもらいたい! 親友もその防具の素晴らしさを体感できるいい機会だ!」

「嫌だよ、死ぬって!」

「だんなもついにこっち側か」

「スペック、それはシャレになってないよ」


 とんでもない提案もあったものだ、城門ほどもある魔術研究所の門を開け、巨大な鉄の塊を武器にするこの2人に殴られたら死んでもおかしくない。

 ボルは腕を振り回し、バルは鉄柱と言われる愛用のメイスを構えている。リッカにとっては運の悪い事に2人はやる気になってしまっている。


「おう、そんなふざけた防具で、その自信はすごいと認めてやる」

「おう、墓守よ試してやるぜ」

「何も言ってない! カミュちょっと止めてよ!」

「うむ、実践テストとしては申し分ない! くれぐれも防具をねらってもらいたい、データがとれませんからな」

「嫌だー!!」

 

 声だけで周囲に振動が伝わるほどの気合と共にボルの鉄拳がリッカの脇腹に打ち込まれる。拳だけでリッカの両手を合わせたよりも大きいボルの拳は、リッカの体をやすやすと吹き飛ばす。飛ばされる先にはバルが愛用の鉄柱を正面に構えている。

 バルが鉄柱とあだ名されているメイスを踏み込みと同時に突き出す。本来メイスは振り回して使うが、どうやら刺すように打ち込むつもりらしい。飛ばされてくるリッカの防具、しかもボルが殴りつけた場所と同じ場所を狙い、槍よりも鋭いメイスの突きがリッカを襲う。


「フン!」


 飛ばされてくるリッカを受け止めるように、メイスがリッカの腹にめり込む。

 この2人は単なるパワーファイターに見えるが、実はかなりの技巧派である。目配せ1つなく、この連携が取れている。バルがメイスを突き出さなかったらリッカは辺りの物品を薙ぎ払って、壁に打ち付けられていただろう。人を吹き飛ばすほどのパワーを発揮しておきながら、周囲の物を壊さないコントロールがバルとボルのレベルの高さをうかがわせる。


「ごはぁ!!」


 ドサリと音を立てて床に落ちる。バルとボルのコンビネーションだが、これでも手加減はされている。ボルは自分の得物である大きな鉄の盾は使っていないし、バルもメイスをスイングさせていないので、威力は実践に比べれば格段に落ちる使い方をしている。

 かといってどちらも一般人に使えば死んでもおかしくない威力がある事は明確。


「っかぁ!! 効いたぁ!」

「あ、生きてた」

「おう、意識あるならちゃんと防具だな」

「おう、女物に見える事以外はいいな」


 リッカとしても痛みが無いという訳ではないが、すぐに立ち上がれる程度のダメージで済んでいる。バルとボルも確かに手ごたえはあったようで、リッカの身に着けている銀色の下着が防具だと認めてくれたようだ。


「死ぬかと思いましたよ!」

「わりいな、墓守」

「手加減はしたぜ」


 手加減したといってもこの巨体から繰り出される攻撃を受け止めて、痛いで済んでいるのは間違いない。普通なら骨が折れるか、内臓にまでダメージが出ているほどの威力だったはずだ。変な奴だが、カミュの技術は間違いなく高い。

 カミュが立ち上がったリッカに近づいて、手のひらに乗る程度の短い棒を手渡してくる。


「親友よ、実験に協力してくれた礼だ、まだ実験段階だが悪魔が撃ってきたという魔法を再現してみた」

「ありがとう、カミュ」


 リッカはカミュに向かって受け取った短い棒を構えて魔素を注ぎ込む、棒の中で魔素が変換されていく感覚が伝わってくる。魔術媒体に間違いない、フルに注ぎ込まない範囲に調整して打ち出してみる。

 黒い球体のような物が吸い込まれるようにカミュの腹に飛び込んでいく。


「おごっぱぁ!!」


 吹き飛ばされたカミュは机や紙の束などをなぎ倒しながら、壁に縫い付けられるようにぶつかる。

 べしゃりと床に落ちるが、その表情は笑顔を見せている。


「い、いい威力だ」

「おう、その媒体も悪くねえな」

「おう、使えそうだな」


 ぴくぴくと痙攣しているカミュだが、気持ちいいまでの笑顔を見せている。威力の確認が出来た事が心底うれしくてたまらないらしい。


「だんな、容赦ないな」

「お互い、こんな事しても、話ができるから親友なんだよ」


 見た目はともかくとしても高性能な防具、悪魔の魔法を模した魔術媒体。リッカにとって心強いアイテムが手に入った瞬間でもあった。


「おう、この防具採用できるかもな」

「おう、下に着るなら問題ないな」


 後日、戦士ギルドのメンバーの全力の否定で、下着のような防具の採用は見送りにされたが、それは別の話だ。

 現在、引っ越し準備もありバタバタとした日常を送っております。

 皆さま、健康でありますように

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