第27話 再開
魔術研究所に幽霊が憑いている開かない本を持ってきたリッカ、ボサボサ頭の冴えないしゃべり続ける友人カミュは師匠の幽霊に間違いないと言っている。
リッカはテーブルの上に本を置くと周囲の魔素を集めていく。媒体を持つ幽霊は自分の波長に合う魔素があると体を作りやすい。出現する時間や場所など、生前思い入れがある場所であるほど、周囲の魔素を自身の魔素として取り込む事ができる。
ここは開かない本が見つかった場所、思い入れのある場所に間違いない。
「そういえば、カミュはよく徹夜するの?」
「確かにするぞ、師匠とはよくゴーレムの開発や製造工程の簡略化のために、ここでよく夜通し作業をしたものだ、深夜になると作業をしながらゴーレムの魅力について語り合ったんだ」
「あぁ、聞きたい事が全部わかった」
「だんな、あのおっちゃん幽霊、それが心残りだったってこと?」
「なるほど! そこの幽霊よ、それはあり得る話だ。確かに師匠はゴーレムの製造に命をかけていたからな、未練になっても不思議ではない」
カミュの長い喋りの中にはリッカが知りたかった話が全部入っていた。喋りはじめてからは部屋の魔素が一気に本に吸い込まれていく手ごたえがある。
リッカの部屋ではいかに魔素を集めて波長を近づけても、一向に変化が起きなかった。ここに思い入れが
「なぁカミュさんよ、俺はスペックって名前が……」
「おお、すまない、私が名乗ったが君の名前を聞いてなかった。そうかスペック君か、私も法術を学んだのだが、アンデッドとは接する機会が少なくてね、貴重な体験だ、よろしくたのむよ」
「ねぇスペック、カミュに話をさせると長いよ」
「うん、俺が悪かった」
本がペラペラとめくられていく、黒とも白ともつかない靄が現れて、本に下半身を溶け込ませるようにして頭はツルツル、髭がもじゃもじゃの幽霊が姿を現す。
「し、し、師匠!! カミュです! ああ、こうしてまた会えるとはなんと素晴らしい!」
「ん? どこじゃここは? お前は……」
昨日までは何を聞いても分からない、思い出せないを繰り返していた幽霊。
記憶に残る場所、思い入れがある場所、この世に残した未練に触れる時にその意識は明確になりやすい。当然姿もハッキリとしやすいので、
「おお、カミュか! ここは研究所か!」
「ああ師匠! 死に別れて、むぐぉ!!」
「はい、カミュちょっと黙ってね、えっと師匠さん思い出せました?」
リッカはカミュの口を両手でがっしりと押さえて、本から出てきた幽霊に語り掛ける。生きている者に害を与えるアンデッドならば退治する必要がある。
師匠と呼ばれているこの人物が、幽霊になったという理由を探らねばならない。恨みつらみを晴らすために人を殺すために幽霊になったのならば、この場で魔素を散らせて2度と現れないようにしなければならない。
「うむ! 墓守よ、思い出したぞワシはここで、ゴーレムの研究をしておった」
「だんな、俺が抑えてようか?」
「頼むよスペック」
「ししょ! むぐぐ!」
「こら! 話を聞かんか!!」
幽霊の語りから、ここのゴーレムのほとんどは師匠とカミュの共同の制作なのだという。カミュが無茶苦茶な性能を持たせようとするのを、師匠が何とかゴーレムとして使用できるギリギリのバランスで調整して、なんとか形にしていたのがこれまでの事。
カミュに任せると攻撃力が高すぎて、ゴーレムが防衛する場所ごと壊しかねない。その心配と、まだまだゴーレムの開発をしたかったという心残りが、師匠を幽霊にさせたという事らしい。
「わかりました。それで、その本が媒体になっている理由は?」
「おお! これか、この本はワシが初めて書いた本でな。本を出すという名誉をもらってな、それが嬉しくて、嬉しくて」
師匠の幽霊は本の事を語り続けている。話が長いのはカミュもそうだが、師匠もそうらしい。
リッカとしても、恨みつらみで現世に残っている訳ではない事が分かり、放っておいてもいいという判断をすることができた。
この研究所に居る限りは、外部の人にばれてしまうという事もないだろうし、カミュが師匠と話している所を見られても別に構わない。幽霊の姿を見られる人物でない限り、カミュは変人なので独り言を言っているだけと流してもらえるだとう。
「カミュ、魔素を集める事はできたよね」
スペックに押さえつけられて口をふさがれているので、モゴモゴとしか喋れないので、カミュは首を縦に振って答えている。
「ここなら、魔素を軽く本に集めるだけで、幽霊は姿を作ることが出来る。いつでも会えるよ」
カミュの首を振る速度が早くなり、喜んでいるように見える。リッカは真剣な表情で言葉を続ける。
「師匠は死んだ人間なんだ、この世に残した想いには不吉な物もあるかもしれない。そして、死んだ人間に頼ってはいけない、師匠が残した想いを解消できたらすぐに旅立たせてあげてね」
「だんな、手を離すぜ」
「親友よさっきも言ったが共に法術を学んだ仲だ、分かっている」
「ワシはあと1体だけゴーレムを作れればそれでよい、死んでこの世と別れた身、長くは留まらんよ」
話を聞いたリッカはまた来る事を伝えると玄関へ向かう。未練も探れた、危険が無い事も確認できた。なら後は、カミュと師匠でゴーレムの作成に入るだろうから邪魔になってしまう。時々見回りに来て危険が無い事の確認を続けるだけでいいので、この仕事はこれで片付いた。
外に出ると、もう夕方になっていた。石壁の門をフルプレートアーマーのゴーレムに開けてもらい、家路に着く人達の中を縫うようにして墓場へと足を向ける。
「スペック、今日は簡単に見回りだけしよう」
「はいよ、なぁだんな」
「どうしたの?」
「いや、あの、ゴーレムかっこよかったな」
悪魔につけられた傷は癒えてきた、今なら多少動き回っても問題は無いだろう。夜に起きて、昼に寝る生活に体を戻していくには良いころ合いだ。
スペックの言葉に頷きながらリッカは歩いて行った。
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