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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第1章 墓守リッカと悪魔の指輪
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第25話 魔書

 傷はまだ痛むが、休んでばかりもいられない。リッカの今日の仕事は開かない本を調べる事だ。

 家の中で灰色の上下に黒のローブという墓守の仕事服を纏っているリッカの目の前に、1冊の本が置いてある。丈夫な紙はとても高価な物であり、本のような後世に残すための物は特に丈夫で色も良い物を大量に使うため、リッカが持っているにしては高価すぎる存在。

 比較的安い紙と印刷用具があちこちに広まったが庶民にはまだまだ高級品。手紙なら紙になってきているが、それ以外は木の札に書かれている物が一般的だ。

 リッカと向かい合っている本は相当古い物でありながら、色の変化はあるものの、本としての状態を十分に保っている。


「だんな、にらめっこしてんの? 飽きない?」

「いや仕事だよ。除霊ってやつかな」


 リッカが本の表紙の1ページ目だけ持つが、他のページまで全部くっついてきていて、めくれない。


「手品? 呪い付きなら燃やす?」

「違うよ何か掴まれているみたいに開かないの、それに貴重品なんだから燃やしちゃだめでしょ」



 この本は、教会に持ち込まれた物で、毎夜毎夜勝手にページがめくられると言われていた。教会からの指示は、本に憑くアンデッドを外して、本を読めるようにしろという内容だが、リッカにはなぜかめくる事ができない。

 夜中に勝手にページがめくられるという現象を、こうして本に向かい合ってひたすら待つ、すでに3時間は経っているが一向にその気配がない。


「少しくらいは動きがあってもいいのに」


 幽霊が現れる状態にはいくつかあるが、ある程度はっきりした存在として存在すれば、周辺の魔素を動かしたような痕跡がある。特に思い入れがある場所や物に対して、魔素が鍋の焦げ付きのようにへばりついているものだ。

 この本には魔素がこびりついているのに、幽霊が来るような気配が無い、出現する前には周辺の魔素も動くはずなのだが、スペックが動く時に感じる魔素の動きしか感じとれない。


「ほんとに面倒な仕事まわしてくれて、今度お礼しなくちゃね」

「いやぁ、だんなも悪いと思う」


 今回も悪魔と戦ったために装備品を没収されたリッカが、鍛冶屋・道具屋・食料品店でも上級から最上級の品物をまとめて注文した。そして、請求先を全部カルド神父にしたお返しに、この本の仕事を回されたわけだ。


「さすがに、食料品と、清めの酒の入れ物の代金まで請求はやり過ぎたか」

「しょうがないね」

「じゃ、スペック見ててね」

「え?」

「勝手にページがめくられたら教えてね」


 ローブの中には清めの酒なども仕込まれているはずだが、ショートソードをベッド脇に置くと、そのままベッドに飛び乗って寝息を立てている。


「寝るの早い! はいはい見張ってますよ~」


 リッカが眠ってから1時間半ほど過ぎただろうか、本の表紙がゆっくりと開いてページがパラパラとめくられていく。顔がハッキリと見て取れるほど、濃い魔素で作られた幽霊の体が本から伸びるように現れ、響くような声が発せられる。


「ん? ここはどこじゃ? ワシは何しておった、ふごぉ!!」


 スペックが手を伸ばして、本から現れたふさふさの髭を持つ幽霊の顔を掴む。


「だんな、出てきたよ」

「なんじゃ! は、離せ!」

「はいはい、幽霊が深夜にいると、迷惑だからお静かにね」

「お前が幽霊だろうが! なんだこの腕、外れない!」


 口元が見えないほど髭が豊かで頭がつるつる、おじさんかおじいさんとも言える程の年齢に見える幽霊が、スペックの腕に頭を掴まれている。腰から下は本に溶け込むように消えており、上半身だけで必死に外そうともがいているが、スペックは微動だにせず、幽霊を押さえつけている。


「う~ん、眠い」

「起きなってば!」


 スペックは棚から空に近くなっている酒の瓶をふわふわと浮かせてから、リッカの寝ているベッドに投げつける。頭にでも当たったのか鈍い痛そうな音が返ってくる。


「いだ! スペック! またやったな!」

「だんな、仕事ですよ~」

「離せ~!!」

「あ~、うん、スペック悪い幽霊じゃなさそうだから手を離してね。そちらの方、荒っぽくてすみませんね」

「いいの? おっちゃん悪かったな、まあ座んな」


 墓守の家の居間には丸いテーブルがあり、真ん中には1冊の本が風もないのにページがペラペラ動いている。

 テーブルは墓守のリッカ、相棒のスペックがついている。そして、本から出てきた幽霊がテーブルの真ん中にいるが、ここに一般人がいれば、墓守が召喚の黒魔術でも使っているような光景になっているだろう。


「本の幽霊があなたですね? お名前は?」

「やっぱり、ワシは死んでおったか。 名前は忘れた」

「おっちゃん、すねてんの?」

「違うわ! 本当に思い出せんのだ、あと少しで思い出せそうなんだが……」


 幽霊の記憶とは曖昧なものだ、強い感情や想いが幽霊を形作る元となるが、理性や記憶などは抜け落ちてしまうことも多い。


「いくつか質問していいですか?」

「かまわん」

「お仕事は何を?」

「よく覚えておらん」

「死んだ理由は?」

「覚えておらん」

「家族は?」

「いたと思うが、思い出せん」


 いくつか質問をしていくが、何を聞いても覚えていないという返答ばかり。スペックがあきれたように椅子にふんぞり返るように座っている。


「おっちゃん、ふざけてちゃだめだぜ」

「スペック、多分この人『なったばっかり』だ」


 アンデッドになったばかりの時には、意思も記憶もハッキリしない。気が付いたらそこにいる、気が付いたらいなくなっている、そんな程度の存在だ。

 誰かを恨んだり、何かに怒ったりしていれば、気が付いたらその感情を爆発させているのが悪霊だ、だがこの幽霊からはそんな感情が感じられない。時間が経てば、このまま消えていくかもしれないが、もしかしたらスペックのように意思を残してこの世に留まるかもしれない。


「すみません、本を読んでみてもいいですか?」

「ああ、かまわんよ」


 本を手に取って傾けると、幽霊の体も傾いてくる。正面に構えないと見えないので、リッカは幽霊の腹に頭を突っ込んで本に目を向ける事になる。


「あの、気分的に嫌なんですが、避けれませんか?」

「ワシも嫌だが、勝手にこうなってしまうようじゃな」

「ちょっと失礼しますね」


 幽霊の手を取って引っ張ってみると、本も一緒に浮いてきた。嫌なのを我慢して幽霊の腹に頭を突っ込んで本を触ると簡単にページをめくる事ができる。中には魔法の理論や魔法媒体の設計図などが書かれていた。内容としては中級から上級の物のようで、リッカにも何となく理解できる。


「魔法理論と媒体の設計図が本の内容です。これにくっついているので媒体になっているのは間違いないですね」

「ということは、ワシは死んで、この本に憑いたということじゃな」

「そうです」

「ならば……」


 話をしている途中で幽霊は本に吸い込まれるように消えていく。それと同時に声もぱったりと途絶えてしまう。


「あれ? 幽霊のおっちゃん?」

「あー、制限時間かな。アンデッドになったばっかりだと、意思を長時間保てないんだよ」


 リッカが本を手に取るが、最初の時と同じようにめくる事ができなくなっている。


「そういえば、俺も最初は気が付いたら夕方の広場にいたんだよなぁ」

「先輩幽霊として面倒みてやってね、僕はこの幽霊が誰なのか調べるから」

「俺、幽霊になったばっかりの時、どうしていいか分かんなかったからなぁ」

「声にならない、アンデッドの想いを汲むのも仕事だよ」


 外は薄っすらと明るくなってきている。リッカは黒のローブと灰色の上下を脱いで部屋着に着替えると、ベッドに飛び乗って毛布にくるまる。


「おやすみ、スペック」

「だんな、寝てばっかだな」

「まだ、あっちこっち痛いんだよ」


 多分、本の幽霊は今日は出てこない。調べるのも、話を聞くのもまた明日の深夜にするしかない。

 傷はまだ癒えていない。街中に出た悪魔、大量のアンデッド、自爆したマンドラゴラ、不吉な出来事はまだ解決していない。いつ何があっても良いように、休んでおくのも墓守の仕事なのだ。 

 活動報告でも話しておりますが、引っ越しなどの予定があり、先祖代々続く由緒正しき一般人の物品の大掃除をしております。

 そのため、更新頻度が週に1度になっております。

 拙い作品ですが、お付き合い頂けるとありがたく思います。


 読んでいただき、感謝!

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