第24話 休日
クーラが帰ったあとにはカルド神父からの手紙が残されていた。
テーブルの上に置かれた手紙の封を切り、中身に目を通していく。急いで書いて封をしたのだろうが、紙にはシワがよっており、文字も早く書いたためか乱れている。
「カルドのおっちゃんの字、下手くそだなぁ」
「多分、墓守や関係者全員に出しているからじゃないかな」
今回、草刈りという事で集合がかけられていたが、隣の教会の区画からは大量の人面草が見つかり、大量のアンデッドに加えて悪魔まで出現していた。さらに、これらに真っ先に対応するはずの墓守も責任者となっている神父すらも現場にこなかった。
これを中央教会に報告するという旨と、個別の聞き取りがあった場合には即座に応じるようにという指示が手紙の主な内容になっていた。
「これ全部手書きで、うちの教会全員に出してるね」
「うわぁ、カルドのおっちゃん大変だなぁ」
「もう一枚は、僕あてかな」
手紙の文字は変わらず乱暴だが、もう一枚は書式の整った物ではなく、リッカへの仕事の指示を書いたメモのような物になっていた。
『リッカ君へ、災難続きで申し訳ないね、異端審問で相手の教会に行く事になるけど、その時には最前に立ってもらうつもりでいるからよろしく。それまでに怪我を直して、装備を整えておいてね。3日間は特別の休みにしとくから、それで何とかして、10日くらいあとの予定を開けられるように。任せたよ~』
リッカは溜息を吐くと、手紙を折りたたんで封筒に戻して、対応中と書かれた棚のカゴに入れる。
「つまり、3日間で怪我を治して、装備整えて、仕事を前倒しでやっておけってことね」
「うわぁ、だんな大変」
「費用上乗せで請求していいって話を道具屋と鍛冶屋にしなきゃね、上級品でそろえてやる」
「うわぁ、おっちゃん大変」
今回も悪魔と遭遇したからと言って、装備一式が捜査のために教会に回収されてしまっているので、リッカは仕事道具のローブも無ければ、ショートソードも無い。
買い直す費用はカルド神父持ちであるが、気を使って安く済ませる交渉はするつもりでいたが、仕事の無茶ぶりもされたので、リッカは遠慮なく請求するように気分が変わっていた。
「これだけ、無茶ぶりするから遠慮なしだよ」
「だんな傷だらけだからなぁ」
「今日はあちこち痛いから休むけど、明日は買い物だ」
「真面目だなぁ、さぼっちゃえばいいのに」
台所へ歩きながら、声のトーンを真面目な物に変えてスペックに答える。
「スペックみたいに救われてない、アンデッドがいるからね」
「あー、そうだなぁ、でも俺は未練ないぜ」
「嘘つかないの、未練でもないと幽霊やってないでしょ」
リッカは話しながら棚から固くなってきたパンを取り出すと、ナイフを使って薄く切っていく。いつもは2~3枚食べるくらいだが、今日は4枚を切って並べる。そのうち2枚はバターをパンの片面の隅々まで塗っていく。大事にとっておいた、はちみつも出してきて、残った2枚にたっぷりとかけていく。
鍋に水を少し入れるとスペックに教わる前に作った、臭みが強い干し肉を放り込む。玉ねぎも薄くスライスして同じ鍋に入れると、灰色の灰汁がぶくぶくと湧いて固まってくるので、丁寧にすくって捨てて行く。
「スペック、庭からミント取ってきて」
「はいよ~」
鍋の灰汁が無くなった所で、愛用の香草入りの塩を入れて、鍋ごと火からおろして、フライパンで先ほどのパンを焼いていく。
リッカは、表面が僅かに色付いた程度の浅い焼き方を好む。焼いた後からバターやはちみつを付けて食べる事を好む人も多いが、リッカはほのかに温まったくらいの香りを好んでいる。
干し肉の塩分だけでなく塩も追加して、臭み消しの玉ねぎ、ワイルドなスープだかこれが不思議とバターやはちみつといった甘い香りとよく合うのだ。しょっぱい肉スープで甘いトーストが欲しくなり、甘いトーストでしょっぱい肉スープが飲みたくなる魔性のとりあわせだ。
「はい、ミント」
「スペックありがとう」
コップに半分ほど水を入れて、ミントをパンパンと叩いて香りを出してコップに入れる。棚から穀物の割り酒を出して注ごうとするが、スペックに瓶を奪いとられてしまう。
「だんな、だめだぜ」
「一杯くらい、いいでしょ?」
「今なら、クーラの姉ちゃんに飲もうとした事ナイショにしとくぜ」
「今日はやめとく」
しょっぱい肉と甘い物、魔性の組み合わせだが、口の中がベタベタしてくるのは避けられない。ここにミントの入ったお酒があると口の中を洗い流して、再び魔性の組み合わせに溺れる事を楽しめるのだ。
今日はスペックに止められてしまったので、コップに水を追加してミント水で我慢する。スープは鍋ごと、トーストはフライパンごとテーブルに持っていく。
「だんな、沢山作ったよな」
「怪我してる時、疲れてる時は無理してでも沢山食べて寝るのがいいの」
「わかるわぁ、俺も冒険者やっている時そうしてた」
「体が資本な仕事は墓守も冒険者も同じだね、頂きます!」
疲れて傷ついた体を癒すため、リッカはトーストに齧りついてスープを口に流し込んでいく。その様子をスペックは優しくも、寂しそうな様子で眺めていた。
現実で引っ越しと片付けに追われながら、感染症関係で仕事のスケジュールがぐちゃぐちゃになって弱っております。
週1投稿は欠かさずガンバリマス。
活動報告でも書いているように「楽しく、エタらず」が目標です。
いつも読んでくれてありがとうございます。