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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第1章 墓守リッカと悪魔の指輪
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第19話 指輪の謎

 コラーから、報告を頼まれたリッカ。カルアと一緒に調査した屋敷の事、カルアが持っていた指輪の事、報告にあげる事は多い。

 あちこちで見つかる指輪は何のために使われているのか、嫌な予感しかない。

 墓場から早めに家に帰り、空が明るくなりはじめるまで束の間の休息を味わう。ローブは椅子にひっかけてあるが、ポケットに入っている装備や道具のおかげで床へ引っ張られるようになっている。

 コラーから預かった指輪、カルアの指輪にも不審な点があり預かった事、そして事故で亡くなった貴族の一家の墓の中から指輪が出てきた事、伝える事は沢山ある。


「だんな、メモして行った方がいいんじゃない?」

「そうだね、あとで詳細報告書を出せって言われるから、書き留めたほうがいいね」


 リッカが倒した悪魔の事もある。カルド神父の方でも何か分かった事があるかもしれない。

 報告のために箇条書で簡単なメモを作る。


「こんなもんかな」

「あっ、だんな、カルアの嬢ちゃんに蹴られた事抜けてるぜ」


 スペックが顔にまだ残っている青紫色の痣を指さすような仕草をとって、お腹の辺りに手を当てている。人の形の靄にしか見えないので表情は良く分からないが、笑っているに違いない。


「蹴られた事は言わない」

「女の子に蹴られたなんて言えないよなぁ」

「男を何度も蹴り飛ばしたなんて、言われたくないでしょ」


 ローブを羽織ると、朝焼けに染まる空の下を教会に向かって歩き始めた。


「いってらっしゃーい」


 スペックの送り出す声が法術を使えるリッカだけに聞こえてくる。

 空気の冷たさに時々ゾクリと体を震わせながら歩き、教会に着く。相変わらず墓守に対して不愛想なブランのいる受付に行くと、すぐに小会議室に行くように言われる。

 すでにカルド神父が朝の祈りの儀式の服装のまま来ており、珍しく待たされる事がなく報告の場が設けられていた。


「おはよう、リッカ君。コラーさんの相棒から報告が行くと伝言をもらったから待ってたよ」

「おはようございます。お時間、ありがとうございます」

 

 リッカはコラーの相棒にはあった事がないが、白いカラスを連れていると聞いた事がある。コラーと同じく、太陽を苦手としているようなので、夜中の内にカルド神父の部屋にでも来たのかもしれない。

 コラーから預かった墓場で指輪の見つかった場所を示した図面と、袋に入った指輪を取り出す。


「これを」


 受け取ったカルド神父は頭を悩ませる。一般の共同墓地の区画だけでなく、貴族の墓所や墓の中からまで見つかった事は一大事とも言える。誰かが、貴族の中にまで浸透して指輪を渡しているとしか考えられない。


「今回のコルフィ家からの依頼、その報告もいいでしょうか?」

「あぁ、また蹴られたんだっけ?」

「し、知ってたんですか?」

「ブラグ・コルフィさんが来て、ペッコペコ頭を下げて行ったよ」


 笑いをこらえられないと言った様子で、口元に手を当てながらカルド神父が話している。

 ケタケタと笑うかと思ったが急に表情が変わり、真面目な口調で問いかけてくる。


「リッカ君、カルアさんは『どこから指輪を手に入れたか、わからない』と言ってなかったかな?」

「そうですけど、なんで知っているんですか? これがその指輪です」

「やっぱりね、ありがとう、指輪は預かるよ」


 カルド神父は貴族の墓地で見つかった指輪や、カルアの指輪をじっくりと眺める。リッカは屋敷での報告を続けるがその言葉は聞き流されているようにも感じられる。


「以上が報告です」

「わかった、ありがとう」


 コラーの書いた図面をゆっくりと広げ、見つかった指輪を置きながら、カルド神父はさらに声を重くして言葉を続ける。


「狂信の術式は知ってる?」

「ちょこっと人の思考を操る術ですよね、名前負けの」


 狂信と聞くと、考え方そのものが変わるようにも聞こえるが、それほどの力はない。その人が思っている事や信念のような物を少しだけ強くしたり、弱くしたりする法術や魔術の一部の事を指す。

 例えば『子供は日没までに帰らないといけない』という母に狂信をかけると『日没までに帰らない子供はただじゃおかない』となる。結局、日没過ぎた子供は怒られる事に変わりがなく、時間を守れば何もない。狂信をつかっても結果は変わらないので、大した法術魔術ではないとされている。


「そうそう、この指輪もらった人達は狂信の応用が使われているかもしれない」

「カルド神父はもらった時の印象を薄くさせて、忘れやすくしたと考えているんですか?」

「当たり! リッカ君、話がはやいね」


 カルド神父が言うには、指輪に魔素を集める機構を付けて置いて、集めた魔素で何かを企んでいる。墓場から見つかった事が多いので、アンデッドに絡んだ事がねらいではないか。そして、カルアの指輪もその機構があるので、指輪をばらまいた人物は教会の関係者の可能性もある。

 リッカは教会の関係者までも疑うという発想は持っていなかったので、カルド神父の言葉には何も言えず、ただ聞いているだけしかできなかった。


「カルアさん、なぜ貴族の彼女だけが生きた状態であやしい指輪をしていたのか、気になるよね」

「確かに、指輪を壊してからは別人のようになりましたし」


 カルアについていた指輪を手に取り、睨むように眺めている。リッカも思わず蹴られた場所に手をやってしまう。

 あの指輪が光っている時のカルアは確かに別人だった、暗くてよく見えないはずの倉庫をためらいもなく歩き、執拗なまでにアンデッドの媒体を破壊しようとした。リッカに向けられた拳も蹴りも本当に容赦が無い物だったが、指輪を壊してからはリッカの肩に乗っていたアンデッドの人形も殴ろうとはしなかった。


「この指輪にね、狂信が二つかかっていたんじゃないかなと思うんだ。受け取った事の印象を弱くする事、そして、アンデッドを悪いと思う事」

「だから、指輪を壊した後はアンデッドの事を拒絶しなくなったということですか?」

「その通り、それで、リッカ君が悪魔のを見つけた所があやしいと思ってる」


 カルアの行動の豹変の理由も何となくは分かった。だが、悪魔との関係となるとリッカにはまだ思考が結びついていない。


「僕はね、この指輪をばらまいている人と、悪魔の原因は同じ人間だとにらんでいる。そして、悪魔が見つかった墓地の管理の教会は、この教会じゃない」

「もしかして、カルド神父は、あの悪魔のいた区画の教会が犯人だと!?」

「そう、教会が悪魔と関係するなんて、叩き潰さなきゃいけないでしょ? それに、間違ってたらゴメンでいいじゃん」


 軽く言っているようにも聞こえるが、もしそうならとんでもない話だ。カルド神父は教会という身内の最悪なパターンを想定している。リッカもそこに思考が及び、ありえない話ではないと感じる。目的も何も不明で、悪魔も出た、不安感が強くなり焦っているかのような手足が勝手に動きたくなるような、落ち着かない気持ちが湧き出てくる。


「カルド神父の意見は分かりました。どうやって調査するんですか?」

「うん、草刈り」

「は? 今なんと?」

「草刈りだよ、あの区画、ぜんぜん手入れしてないでしょ。苦情でこっちにも何とかしてって書状が届いたんだ。」

「え? それで?」

「うちも手伝うから共同で草刈りしてついでに調査、後で管理不十分で追及して、その勢いで調査するの」


 草刈りとはなんとも平和な話だが、確かに隣の教会にまで苦情が上がっていればそれは教会の管理の不十分である事を指摘できる。相手側の教会の人員や、体制についても共同作業の間であれば平和的に探る事ができる。

 絡め手ではあるが、違和感なく、相手からも疑われずに調べるには悪くないのかもしれない。


「もっとも、苦情だしたのは僕の友達の名前なんだけどね」

「あー……コルフィ家?」

「当たり!」


 ブラグ・コルフィもこの件には関わっていそうだ、確かに娘が良く分からないあやしい指輪で性格まで変えられたかも、と思えば積極的に提案もしてくる。特に土地というトラブルになりやすい事の管理を仕事にしているコルフィ家らしいやり方なのかもしれない。

 カルア神父にしてはとても平和的なやり方に感じるが、リッカは何か嫌な予感を覚え始めていた。

 

「でも、草刈りの対象は人面草だからね、墓守達に頑張ってもらうよ」


 神父の笑顔と反対にリッカは目が笑っていない引きつった笑顔を見せていた。確かにそれなら教会の管理の不十分さは真向から指摘できるはずだ。

 やっぱり平和的な事にならない、リッカはそう思うしかなかった。

 次の話も進めています。

 仕事や引っ越しなどの話があるので、ペースは上げられないかもしれません。

 気長にお付き合い頂けると助かります。


 今後ともよろしく!


 金曜日は確実更新、他の曜日は進み方次第で更新します!

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