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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第3章 墓守リッカと恨みの源泉
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第95話 受肉


「さて、だんなが言ってた水晶ってのはどこだ?」


 家の中は狭く、置いてある物はどれも古びている。

 スペックは勝手を知っているかのように、一通り家の中を見渡すが水晶は見当たらない。


「ったく、気は進まねぇけど」


 手に持っている剣を引っかけて、引き出しを下の段からつぎつぎと引き出していく。

 上から引き出すと先に出した棚が邪魔になって下の段が見えないからだ、棚に置いてある物も剣で薙ぎ払って床に落とす。


「この剣、まるで生きてる時にみたいに平然と持てるな、なんなんだこれ」


 スペックは物を持つという事が苦手だ、魔素を精密に扱わなければならず、持てたとしてもそれを自在に動かす事は魔素が散ってしまい、持った物を落としてしまうのだ。

 紫色に光る不気味な石がはめられている禍々しい剣、いかに振り回しても、持つために使う魔素が散らない。


「ん? ってことは?」


 剣を持つ方ではなく、反対の手でも近くのツボを持ち上げてみる。


「普通に持てるな」


 剣を持っていない方の手の魔素も散らない。

 試しに、足元に転がっているツボを蹴ってみるが、それでも足の魔素は散らずにツボは転がっていった。


「なんでか知らないけど、便利に使わせてもらうぜ」


 部屋の中を一筆書きをするように回り、目についた物を次々と引っ張り出して奥へと視線を向けていく。

 通ったあとは転がされた置物が転がり、引き出しも出されたままになっている。

 さながら、強盗でも入ったあとのような荒れようだ。


 棚の奥にも、台所の奥にも、リッカが言っていた紫の水晶は見当たらない。


「おっかしいな、だいたい貴重品はこの辺にあるんだけど…… あ?」


 ふと違和感に気が付く、台所の水ガメには虫が湧き。

 保存食だったであろう干し肉も触れたら砕けそうなほどにカサカサになっている。

 新鮮な野菜が入っていたであろうカゴには、土に還りかけている野菜が盛られている。


 不気味な台所だった、生活感はなくただ時間だけが経過したかのような様子。

 ある日突然全く使われなくなったままになったようだった。


「ちきしょう、だんなの奴、嫌な予感してやがったな」


 イラついたような気分を抑えられず、棚に置いてある物品を剣で薙ぎ払う。

 床に落ちてどびちった調味料もどれも古くなっており、ほとんどが食べられなくなっている。


 歯も無い幽霊のスぺックだが、ギリッと奥歯をかみしめるように力が入る。

 

 台所と部屋を見て、倉庫にも目を通した。

 残っている所は子供のベッドを無理に2つ並べた狭い子供部屋だけだ。


「やっぱりか」


 ベッドは整えてあるが、布団にはカビが生えており、スペックが生きている人間だとしたら悪臭に顔をゆがめていただろう。

 こじんまりとした子供用の机の上に、不気味な光を放つ、紫の水晶がかかげられるように置かれていた。


 子供部屋には似つかわしくない、真っ黒な板の上に赤黒い塗料で妙な模様が描かれており、それが紫色の光に淡く照らされて、不気味さを一層引き立てている。


 手に持っている、この部屋の光景にも引けをとらない不気味な剣を振りかざし、吸えないはずの息を吸う。


「よっこいせっ!」


 掛け声とともに勢いよく振り折ろす。


 固い野菜でも切り分けた時のような、切れたと割れたの中間のような感触が剣から伝わってくる。


 二つと星屑のように砕けた紫の水晶は輝きを失いつつ、紫色の霧のような魔素を噴き出す。

 噴き出された魔素はスペックに向かって無数の手を伸ばすようにして近づいてくる。


「なんだ、おい! 俺も引き寄せられる!!」


 実体をもたない幽霊同士は引き寄せられ混ざり合う。

 純粋な魔素であれば、自分の体の魔素として吸収することもできるが、ここで噴き出している魔素はどう考えてもまともな物じゃない。


 別の幽霊が居る時のようにスペックの体と意識も、噴き出して近づく魔素に引き寄せられいく。

 腕を伸ばすように近づく紫の魔素はスペックの剣を持つ手を握り、頭を掴み、足を引く。


「おい! カルコロは外だろ!? まだ他にもいるのかよ!!」


 触れた魔素は体内に液体を注ぐように浸透し、スペックの持つ魔素も紫の霧の中へと溶けていく。


「くそ! 混ざったら、俺が俺じゃなくなっちまうよ!! だんな! 助けてく……」


 そとから、子供の絶叫が2人分聞こえてくる中。

 誰にも聞こえない声が消えていった。

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