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墓守は今日もアンデッドと共にある  作者: ピーター
第3章 墓守リッカと恨みの源泉
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第94話 スペックの姿

 骨がきしむほどの力で子供達に地面に押し付けられ、激痛が走るなかでもリッカは思考を止めず、この状況を打破する方法を思いついていた。


「スペック!」

「はいよ!、なんでも言ってくれ!」

「あの飛び回ってる剣、奪って」

「へぁ!? いやいや! そんなことしたら、カルコロの魂と俺が混ざっちゃうぜ!?」


 子供達の手に込める力がさらに強くなり、与える痛みもさらにつよくなっている。

 このままでは子供達の体もただでは済まない。


「カルアさんが拳を当てた瞬間なら混ざらない」

「えー、ぎりっぎりだなぁ」

「大丈夫、混ざってもカルアさんに吹き飛ばしてもらうから」

「それだと、俺も消えちゃうんだけど……」


 スペックへリッカが声をかけている僅かな時間も、カルアにとってはとても長い物に感じられる。

 余裕をもって対処できているとはいえ、何度も何度も剣の切っ先が自分に飛んできていることに加え、敵の撃破方法も不明なままでは精神の摩耗は止まらない。


「カルアさん! 剣を持っている手を狙って下さい!!」

「え? あ、はい! やってみます!」


 リッカの声が届いた瞬間、カルコロの剣が振り降ろされた。

 半歩だけスライドするようにカルアがステップを踏むと、前髪をかすめるようにして黒い魔素を帯びた刃が通り過ぎる。


 その直後、ナックルガード付きのナイフが剣を握るカルコロの腕に突き刺さる。


「はッ!」


 カルアが小さく息を吐いた瞬間、突き刺したナイフをねじるように抜く。

 反動を残さず体を反転させ、もう一方のナイフで剣を殴り飛ばすようにして跳ね上げる。

 カルアの斬撃と打撃を連続して受けたカルコロの腕は、霧のように姿を薄くし、剣は空へと飛び上がっていった。


「うわぁ、嬢ちゃんうまいなぁ」

「感心してないで、早く取って!!」

「はいはいよっと」


 落ちてくる剣を軽口をたたきながらひょいと受け止める。


「だんな、次はどうするの?」

「多分家の中のどっかに紫の水晶があるから、探して剣を刺してきて」

「はいよっと!」


 スペックは剣を持ったまま家の中へと飛び込んでいく。


「カルアさん! スペックの方に行く魔素をこっちに引っ張って下さい!」

「はい!」


 剣に向かって流れ行く魔素を、リッカとカルアが操作して引き戻す。

 普段であれば零れた水をふき取るようにして魔素を集められるのだが、大量に水を含んだ布から水が下たるように、集められるはずの魔素がこぼれていく。


「リッカさん、上手く魔素が集まりません」

「大丈夫、もうちょっと意識を広く。掃き掃除をするみたいに集めるんです」

「あの、私、掃除なんてしたことありません」

「……僕のやり方見ててください」


 スペックなら、お嬢様だからと軽口の1つも言っていただろう。


 魔素とは水のようなもの、ホコリのようなもの。

 こぼれた水をふき取っても、残った水が間に入ってくる。一か所のホコリを掃いたとしても、僅かな風にのり回りのホコリが戻ってくる。

 ならば、どうするか、広い範囲から少しずつ同じ方向に向くように力をかけていくのだ。


「全部を一度にもってこないで」


 スペックの持つ剣に向かって魔素が流れている。まずは剣に向かう魔素を引き寄せる。

 引き寄せられた魔素は散り、それぞれがまた剣に向かう。散っていった魔素を次々と引き寄せる。

 さらに散った魔素をまとめて引き寄せると、力の弱い所へ魔素が集まる。


「散った所から順番に、また集まった所を引っ張って」


 魔素は散っては集まってと繰り返しながら、剣の方に向かおうとするが、僅かではあるがリッカの方へと寄せられている。


「こんな感じです。今はスペックの方へカルコロさんの魔素が流れていますから」

「私が吹き飛ばしたように、あちこちからではなく、1つの方向だから引っ張れるんですね」

「そうです、アンデッドとの魔素の綱引きですよ」

「やってみます」


 カルアもリッカと同じように、魔素を引きはじめる。


「そうそう、そんな感じです、いッ!」


 リッカを押さえつけている子供達の指がリッカの肉に食い込むほどになっているが、リッカは冷静なままだ。冷静さを失っては魔素がスペックの方へ全て流れていってしまう。

 今、カルコロが体を戻してしまえば、それこそスペックと混ざり合い、別のアンデッドと化してしまうからだ。


「リッカさん!」

「大丈夫、集中して魔素を引っ張ってください」

「でも、これじゃ、散らすまではできませんよ」

「スペックが何とかしてくれますから」


 できれば、予想が外れてほしい。

 魔素を集める媒体となる紫色の水晶など見つかってほしくない。現状を打破できない事の方が、幸せであるかもしれない。

 リッカは言葉にはせず、魔素の扱いへと意識を向けた。

 

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