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「花が降ってる……」


 11年ぶりに訪れた首都は、お祭り気分で浮かれていた。アレスの結婚を祝福しているのだとすぐに分かった。そして降る花、花、花。造花をシャワーのように降らせるのは、王国時代から変わらない結婚式などの祝いごとにおける風習だった。

 永遠に変わらない想いを、永遠に枯れない造花になぞらえて。


「そういえば、昔、母さまの誕生日のときにも花を降らせたっけ」


 あのとき、アレスも確か隣にいた。


「永遠なんてない、って今なら分かるのにね」


 だけど、だからこそ愛おしく思えるものがあるのかもしれない。

 造花にはほのかに香りがつけられていて、手に取ると、空気が甘く感じた。

 大通りの店は賑わっていて、でも浮かれすぎて何もかも投げ売り状態になりつつある。店主たちが気前よく食べ物やら飲み物やら何やらを渡してくる。


「はい、お嬢ちゃんにも祝福を!」


 知らないひとから造花を渡される。


「もうすぐここをアレスさまとルビイさまがお通りになられるよ。そのとき、皆で投げようって話してるんだ」

「はい、ありがとうございます」


 騒がしい空気、だけどあたたかい。

 皆次々と花を渡してくる。あっという間に、両手で抱えきれないほどの数になる。周りも同じで、この結婚が、どれだけ祝福されているものかが痛いくらいに解った。

 赤、黄、橙、桃、青、紫、……。大きかったり小さかったり。たくさんの花。明らかに子どもの手づくりだと分かる、不思議なかたちのものもある。

 顔をうずめると、優しい香りがした。サンクチュアリさまの香りみたいだった。


「アレスさまがいらっしゃったぞー!」


 誰かが叫ぶ。皆が一斉にその方向を見た。

 ……!


「アレスさまー!」

「ルビイさまー!」


 見たことのない不思議な白い乗り物に乗って。

 正装のアレスと、きれいな女のひとが、手を振っている。アレスの言っていた通り、髪の毛がサラサラで、ものすごくきれいな女のひと。ふたりは満面の笑みで、周囲に手を振り続けている。

 きっと彼女なら、アレスが死んでも泣いてくれるだろう。


「せーの、いくよーっ」


 合図と共に、たくさんの花が放り投げられる。わたしもつられて花を飛ばす。

 歓声も上がる。


「アレスさまー! おめでとうございますー!」

「お幸せにー!」


 絶叫に近い、祝福の言葉が飛び交う。

 だけど。

 わたしの腕のなかは空っぽになったけど、逆に胸がいっぱいになって、何も言えないでいた。

 じっと立ちつくして、見ていた。

 アレスの姿を。


 すると一瞬だけ、ほんの一瞬だけ。

 淡く青い光が天から降ってきて。

 周りの時間が止まったかのように。


 ――視線があった。


 そしてすぐに通り過ぎて行って時間が動き出した。アレスたちの姿は小さく消えて行く。パレードは首都を一周するのだという。追いかける人々にとっても大変そうな行事だ。


「……さよなら」


 わたしは小さく呟くと、熱気の詰まった喧騒から抜け出す。見上げると遠くには時計樹。わたしの戻る場所。それから、空がどこまでも広がっている。雲ひとつない、淡く青いきれいな色だ。サンクチュアリさまの羽根と同じ色。

 もしかして、さっき降ってきた光はサンクチュアリさまのものだろうか? まさかね。自分の勝手な想像に笑みが浮かぶ。

 ディテのとこに行ったら、天空に戻ろう。

 後ろを振り返らないようにして。

 歩き出す。






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