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――そのとき、羽根が舞い落ちたのだ。
灰色の光景。
それ以外に色はあったのかもしれない、けれど、どれだけ思い出そうとしてもそこに色はなかった。まだ言葉も拙かったわたしは、がたがた震えながら大きな玉座の下に隠れていた。玉座の下には絶対に誰も見つかることのない、王族しか知らない秘密の穴があったから。
剣の交わる甲高い音。
物が壊れる音。
人間の倒れる音。人間の壊れる音。罵声。断末魔。昨日まで共に働いていたひとたちが、今日は憎しみをぶつけ合っている。どうして。ドウシテ?
音が響く。
わたしは掌で両耳を思いきり塞いで、何も聞こえないように努める。
父さまは、母さまは。無事に逃げられたのだろうか。
目を瞑って歯を食いしばって、その疑問だけをぐるぐるぐるぐると考えつづけた。
やがて、何も聞こえなくなった。
わたしはすべてが終わったことにたっぷりの時間をかけて気づいた。お腹が空いていた。よろよろと穴から這い出すと王の間にはたくさんの人間が倒れて、血が流れていた。
灰色だった。
みんな、知っているひとたちだった。
『姫さまは姫さまなのにおてんばだなぁ』
『でもそれが姫さまらしくていいんじゃないか』
『だよなぁ!』
そう言っていつも笑っているひとたちだった。
体中から汗が噴き出す。なのに指の1本も動かせなくて、わたしは玉座の前に立ちつくしたまま、一歩も動くことができなかった。
そのとき、わたしの目の前に羽根が舞い落ちたのだ。
周りは灰色なのに、羽根だけは薄く淡く青く輝いていた。
わたしは頑張って視線だけを上に向ける。
「……わぁ……」
こんな状況だというのに、溜息が出た。
浮いていたのは、天からの使い。地上のありとあらゆる美をかき集めても決して叶わない美しさを湛えて。
寝物語では知っていたけれど、目にしたのははじめてだった。「時計樹」を、時間を司る、6枚の翼をもつ女王。
有翼の女王は、膝をつき、わたしをそっと抱きしめた。ほのかに温かかった。そして女王はわたしの耳元で静かに囁いた。
「……時間は平等には流れないのです」
やっと、わたしの頬を涙が伝った。
すべてが終わってしまったことを、自分が孤独になってしまったことを、受け止めて。
「わぁあああああああああん!」
女王にしがみついて、わたしは大声を上げて泣いた。
「父さま! 母さま! ――」
今でも夢に見る、幼い頃の記憶。