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忘れられた竜歌  作者: 浅瀬
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7話 反省


家に着く頃には、デュークに背を割れていたリアンは疲れてしまったのか、寝息を立てていた。


デュークはリアンをゆっくりと寝床に下ろし、ダトラを鳥小屋に戻す。


「…よく、知らせてくれたな。」


山で狩りをしていたデュークに突然、ダトラが小突いてきたのだ。おかげで、狙っていた獲物は逃げてしまったが、すぐにリアンに何かがあったと気づき、駆けつけることができた。

仕事をやり遂げたダトラが、子供の世話は疲れたと言ってる気がした。


「…俺も疲れたよ。」


デュークは最初に木にもたれている娘を見たとき、死んでいるとさえ思った。呼吸を確認してからは多少安心したものの何度、呼んでもリアンは目を覚まさず、不安は募るばかりだった。

リアンの意識が戻ったときは、本当に安心した。


(…しかし、リアンを怒ったのは久々だったな。)


リアンは男手ひとつで育ててきたためか、あまりデュークを困らせるような我がままなどはなかった。

村の子供達のなかでも非常に模範的な良い子に育ったと思う。そのため、デュークもリアンを叱る機会があまり無かったのだ。


デュークは娘の涙を堪える姿を思い出す。


(…怖い思いをしただろうに。…強い子に育ったな。)


リアンが強く育ったことに嬉しく思うも、デュークとしては、もう少し甘えてもらいたかった。だが、きっとリアンが甘えられないのは、環境に原因があるのだろう。


(…あいつがいたら、違うだろうな。)


デュークはリアンと同じ緑眼が美しかった妻を思い出した。




リアンが次に目を覚ましたとき、日はすっかり落ち、夜になっていた。

ゆっくりと体を起こす、まだ痛い気もするが、動けない程ではなかった。


「…起きたか?体はどうだ?」


夕飯の料理鍋をかき混ぜる父と目が合った。リアンの体は包帯で巻かれており、どいやら父が治療してくれたようだ。


「…うん。…大丈夫みたい。」


「そうか。」


父の顔は料理へと注がれており、表情は読み取れなかったが、声は決して明るいものではなかった。

リアンは先程、怒られたことを思い出し、どのように父に接すれば良いかわからずにいた。言いたいことがあるはずなのに、口がその通りに動かない。


「お腹すいた。…あと、ごめん。」


結局、言いたかった言葉はついでのようになってしまった。


「…できてるぞ。」


そういって、父が渡したお粥をリアンは受け取る。リアンが両手で粥を受け取ると、頭に父の手が乗るのを感じた。

そのまま、髪の毛がぼさぼさになるまで、荒っぽく撫でられる。


「…っちょ!溢れる!」


振動で粥が溢れそうになるのをリアンは抗議するために父を見上げた。顔を上げると、いつものにやりとした父が目の前にあった。


「…元気でただろ?」


「…今から元気になるの。」


リアンは、父に心を見抜かれていることは不満だが、いつも通りに接してくれる事がとてもありがたかった。


その日の2人はいつものように、夜を過ごした。



次の日から、数日、リアンは父に言われて、家で大人しく過ごしていた。

竜と狩りのことは、父とダトラに任せて、冬籠りのときの内職をしながら、家で療養していた。


正直、退屈ではあったが、リアンは父の言葉に従うことにしていた。



1週間ほど経った夜、リアンの怪我を見てくれた父が突然、リアンの背中を叩く。


「いった!何するの‼︎病人だよ!」


「お前はもう病人じゃねぇよ。明日から、働けよ。また、新しく予備の薬買わなくちゃいけねぇからな。」


リアンは父の言葉に目を瞬かせる。どうやら、怪我の調子が良いようで、明日から通常通りのようだ。


「…え?明日から、内職終わり?」


「そのなまりきった体で動けるか?」


父の言葉にリアンはムッとする。

確かに、狩りに出ていたときよりは動いていないだろうが、リアンは自分なりに腕立て伏せや弓を構えてのイメージトレーニングなどをこなしてきたのだ。

それなりに動くことは可能だろう。




そんなことは、無かった。


リアンは父の背を山を登るが、いつもより足は動かない上、呼吸の仕方も忘れてしまったようだ。

ついに、リアンは手を片膝に乗せて、動けなくなってしまった。


「…おい?まだ先だぞ?」


にやにやした父の顔が近づいてくる。うるさいっと言おうと思ったが、それすら言葉に出なかった。


まさか自分がたった1週間で、こんな鉛みたいな体になってしまうとは思わなかった。屈辱である。

リアンは狩袋にいれた水筒を取り出す。喉に水を流すと、少しばかり気力が回復したように思う。


「…もう、動けるよ!」


お返しとばかりにリアンは、にやりと父に笑った。




少し休憩してから40分程経つと、1週間前まで毎日訪れた場所に着いた。


そこには前と変わらない姿で、真っ黒な竜がいた。


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