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忘れられた竜歌  作者: 浅瀬
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3話 春の訪れ


自分の鷹を持つためには、自分の手で鷹の子供を育て上げる必要がある。

鷹の子が生まれるのは、春の時期になるため、冬籠の間、リアンは父からダトラの世話をもう一度教わりながら、鷹匠として必要な知識を教わっていた。



『恵の山』が白化粧をして、眠りにつく。外の世界は白銀で美しくなるも、気を抜けば、すぐに死が迫る恐ろしい時期である。

村の人間は、協力しながら、極力、外に出ることはせず、室内で冬を乗り越える。



リアンと父親のデュークも、村の別家で内職をしながら、過ごしていた。


リアンはダトラのための肉を捌いていた。

ダトラは雌のイヌワシであり、1メートルほどの大きさがある。自分と殆ど変わらない大きさの鳥が鋭い爪で肉を挟み、食べる姿をリアンはじっと見ていた。


父曰く、雌のイヌワシは、雄のイヌワシより一回り大きい。リアンはこれから、成長するとしても女の子である。

今後のことを考えて、雌のイヌワシではリアンの腕が持たないらしく、雄のイヌワシの子供を春に探すことになっていた。


「うひぃ〜。さみぃなぁ〜外は。」


餌をやり終えたリアンに、冷たい外の風が首を通った。リアンは、思わず身震いする。


冬籠といっても、ずっと家で過ごすわけではない。比較的に天気が良い日は、外に出て動物を取るため、罠を仕掛けに森に出ることがある。

今日は比較的天気も良く、父は仕掛けた罠を確認しに森に出ていた。


帰ってきた父の手には、兎がしっかりと握られていた。


「わぁ!兎だ!」


久々のご馳走に、リアンは父に駆け寄る。


「捌いてくれ。村の奴らにも配るからよ。」


リアンは、兎を血抜きした後、我が家の夕飯分、ダトラの分、村に配る分を器用に分ける。


冬籠で若干、沈んだ心が久々のご馳走で喜びに満ちた。まだまだ、冬は長いが、リアンとデュークは親子2人で過ごしていかねばならなかった。



『恵の山』が長い眠りの時期を過ぎ、小さな実りが見れるようになった頃、リアンとデュークは村の別家から山の中腹の家まで戻ろうとしていた。


村の人々に一通り、挨拶を済ませた後、慣れた手つきで親子は荷造りを済ませた。

2人で大きな荷を背負い、デュークは弓を持ち、リアンは布で包まれたダトラが入った籠を持って、山を登り始める。


雪が溶けた後の地面はぬかるんでおり、歩きにくいため、多少時間が掛かったが、夕方までには山の家に帰ることができた。


デュークが家に不備がないか、確認している中、リアンは荷物の紐を解き、夕食の準備を進めていた。


春と言っても多少、雪が残っており、未だ寒い中、体を温めるために作った鍋を食べながら、デュークは明日の予定について、リアンに話していた。


「明日、早速だが、お前のイヌワシを探しにいこうと思う。念のために弓と矢の準備は怠るなよ。」


「やった!見つかるかな?」


「まあ、明日一発で見つかるとは思わないがぁ、イヌワシの巣の場所はある程度わかるからなぁ、大丈夫だろ。それより、熊に注意しろよ?まだ寝てる奴もいるだろうしな。」


明日の予定は、イヌワシの巣を見ながら、狩りをすることになった。冬籠で蓄えていた食料が尽きかけているため、狩らねば死活問題である。


良いことに、溶けた雪のためにぬかるんだ地面が動物の居場所を発見しやすいため、狩りは難しくないだろう。


明日はリアンが待ちに待った、イヌワシ探しである。




春と言っても、まだ日も登りきらない、薄暗い早朝にリアンとデュークは動き出した。


リアンとデュークはいつもの狩りのように、弓と矢、そして腰にはナイフがぶら下がっていた。いつもと違うのは、イヌワシの子供を入れるための袋だけである。


リアンはイヌワシの巣の場所を知っている父の背を見ながら、黙って歩いていた。


「……ガ……ギャァ…」


今までに聞いたことがないような声が耳に聞こえて、リアンはピタッと足を止める。左から聞こえたような気がしたが、動物の気配はなかった。


目線を前に向ければ、父も足を止め、左に顔を向けていた。心なしか、いつもより目線が厳しいように思う。


「…お父さんも聞こえた?」


デュークの厳しい目線にリアンは不安げに聞く。


「…ああ。少し、見に行ってみるか。音を立てないようにな。」


リアンの不安を和らげようと、デュークは笑顔を見せるが、音がした方向に歩き始めると、また厳しい顔つきに戻っていた。


音がした方向に進み始めてしばらくすると、遠くに2つの動物の影が見えた。


1匹は山で最も会いたくない相手である熊であった。

もう1匹は、熊と同じ大きさであるが、遠目でも熊ではないとわかる。


リアンはもっとよく見ようと近づこうとするが、デュークがリアンの腕を引き、近づくのを止める。


リアンは文句を言おうと、振り向き、驚いた。

父の顔は今まで見たことがないくらいに、青ざめ、リアンの腕を掴む手は小刻みに震えていた。


日が高くなり始め、薄暗い森に日が差し込み始める。


震えた父の目線の先であるもう一体の動物が見えやすくなってきた。

それと同時に父の掠れた、小さな声がリアンの耳に入る。


「………竜だ。」


熊と対峙しているのは、真っ黒な鱗に包まれた竜だった。

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